クリスティン・ブレイさんが卵巣がんと診断されたのは2010年、30歳のときでした。ステージ1cで、まだがんが卵巣の外に広がっていない段階。ですから、命にかかわることはないと考えていたといいます。

がんが再発した時、米国がん治療センターの医師が提案してくれたのは?

ところが、手術と放射線療法に加えて、化学療法を受けたのに、がんが再発。突如、先行き真っ暗に。「ふたりの子は幼く、身辺整理をするよう勧められ、希望を失った」と振り返るクリスティンさん。正気を保っていられるのはおよそ1カ月と言われました。

2014年初頭でした。このとき提案を受けたのが遺伝子検査。米国がん治療センター(Cancer Treatment Centers of America)の医師からでした。「聞いたこともない検査だったものの、まだ選択肢があるのかと思った」。クリスティンさんはそのときの気持ちをおぼえています。

医師は、クリスティンさんのがん細胞を検査会社であるファウンデーション・メディシン社に送ってくれ、がんの遺伝子変異が判明しました。通常、腎臓がんに使われる「エベロリムス(商品名アフィニトール)」という薬が効く可能性があるとわかったのです。2014年中にエベロリムスによる治療を始めました。

毎日、コップの水で錠剤を飲み続けて3年間。ついにがんが小さくなっていったのです。治療の成功を期待しなかっただけに、奇跡とさえ思える結果でした。「普通の生活を送れるようになり、子どもの成長を見ていられるなんて、驚異的なこと」とクリスティンさんは話します。

遺伝子検査とは?

遺伝子は、すべての細胞に2万個から3万個あり、遺伝子検査は、そうした遺伝子の異常を調べて、どんながんにかかりやすいかを判断します。ファウンデーション・メディシン社などでは、すでにがんになった人のがん細胞も調べるところが独特です。

「がん細胞の遺伝情報を調べると、遺伝子変異の情報から、新しい薬、もっと標的を狙った薬に反応しそうかがわかります」とペンシルベニア大学の個別化診断センター所長で、病理学・実験医学教授のコジョ・エリニトバ・ジョンソンさん。さらに、遺伝子検査は治療の選択肢を減らすこともできます。「効果のない、副作用を伴うような治療をあらかじめ知って避けられるので、時間の節約につながるのです」とエリニトバ・ジョンソンさんは説明します。

もうひとつの「サクセスストーリー」

クリスティン・ブレイさんと同じようにコリーン・ファーレルさんも33歳のときに、がんと初めて診断されました。

「2014年の夏、ダルさを感じ始め、毎日昼寝をするように。まったく私らしくないことで、その後に腰に違和感が出てきました」。医師は当初、肉ばなれと判断していましたが、秋までに、がんを発見。大腸がんが進行していました。

「ステージ4だったのでひどく、『家に帰って葬儀の準備を』とまではいきませんが、『すぐにやらなければならないことに目を向けて』と言われるのです」

放射線療法や化学療法を受けても、肝臓と肺の両方に転移。「振り回され、ただ絶望。本当にひどいものでした」

そこで聞いたのが遺伝子検査のことでした。新しい治療への扉を開くかもしれないと。「うまくいった人がいるというものの、わからないことだらけ。遺伝子検査を受けない場合の勝ち目を聞くと、『2カ月』とのことで、試すしかないと思ったのです」

ファウンデーション・メディシン社から受け取った結果は、がんには免疫療法が効くかもしれないというもの。「2016年3月に治療が始まり、8週間後、最初の画像検査を受けたところ、がんが成長していないばかりか小さくなっているというものでした」

「降参していた」と医師がいうほど最初12センチメートルだったがんが、新しい治療をわずか1コース受けただけで、7センチに収縮。「信じられなかったと医師が感じるほどでした」

あまりに早く効いた結果、「3回の大量出血を経験。腫瘍が急速に縮小したため、腫れていた血管や臓器が突然、再び出血したのです」(コリーンさん)

完全に危機を乗り越えたわけではないとも言いますが、「今日のようになれるとは思っていませんでした。 私はいつも、遺伝子検査から恩恵を受けられたなんてどれほどラッキーだっただろう、と思っています。だれもができることではないので」とコリーンさん。

だれが遺伝子検査を受けるのか?

ほんの数年前だったら、今回ご紹介した検査で行ったタイプの「遺伝子シーケンス(塩基配列決定)」は数百万ドル(数億円)の費用がかかり、完了するまで数日ではなく数年かかるような検査でした

その遺伝子検査は新しいうえに、そこから判明する治療の選択肢の多くが臨床試験中なので、使えないかもしれません。従来の治療が失敗したら行うタイプの検査となります。

「ある種の白血病では、病気について詳しくわかってきているので、最初から遺伝子検査を組み合わせる治療を行うのが普通になっています。ほかのケースでは、遺伝子検査はどこまで有効で副作用がどうか十分は見えません」

遺伝子検査を行う意味のあるがんとしては、肺がんや大腸がん、悪性黒色腫(メラノーマ)が考えられますが、そのがんの特徴次第

がんの診断や治療はますます進んで、遺伝子検査を行うことで、より標的を絞った治療と組み合わせることができ、命を救えるようになりました。ですが、まだまだ研究が必要というのも確かです。

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訳/STELLA MEDIX Ltd.

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