朝を迎えてもベッドから起きられない。日常生活が難しくなるほどの慢性的な疲労感を抱えている。

日本初の副腎疲労外来を開いた、スクエアクリニック院長・本間良子先生のもとには、こうした症状に悩む多くの人が、家族に抱きかかえられるようにして来院するといいます。

その原因は、「副腎疲労アドレナル・ファティーグ)」。小さな臓器である副腎が“疲労”することで、ストレスに対抗するホルモン「コルチゾール」がうまく分泌されないことから起こります。

副腎疲労の専門家である本間先生は、「副腎疲労は自分で治せる。ポイントは生活習慣の改善にあります」と話します。

副腎疲労が起きるメカニズムから、副腎疲労をもたらす3つのストレス、そして解決策までを前後編に分けてお届けします。

副腎疲労チェックリスト

まずは下記の項目で当てはまるものをチェックしてください。

朝がつらくて起きられない。午前10時頃まで目覚めないこともある。 睡眠時間は充分なのに疲れがとれない。倦怠感があり生活するだけでも疲れる。 甘い物塩辛い物が食べたくなる。カフェインを摂らないと仕事ができない。 慢性の便秘。あるいは下痢などおなかの調子が悪い。 15~16時ごろにボンヤリするが、夜になるとなぜか元気になる。 小さなことでもイライラし、キレてしまう。 気持ちが落ち込む。うつっぽい気がする。 風邪にかかるとなかなか治らない。 思考力がうまく働かず、頭がぼーっとする。記憶があいまい。 気力体力が衰えている。集中力も低下気味。 性欲を感じない。パートナーがいてもセックスしたいと思えない。 生理前に頭痛や下腹部の痛み、手足のむくみ、不安感、イライラ感がある。

上記の項目は副腎疲労の典型的な症状。

ひとつでも該当すると副腎疲労の可能性があり、3~4つ該当するとかなり副腎疲労度が高いといえます。

本間先生は、夫である龍介先生と副腎疲労外来を開き、その治療に携わってきました。じつは、龍介先生が学生時代から原因不明の疲労に悩まされていたことが、この病気のスペシャリストとなったきっかけでした。

副腎疲労が引き起こす不調のもっとも顕著なものは、慢性的な疲労感。うつ症状はあるけれど、うつ病ではないため、抗うつ剤を飲み続けても治ることはありません

残念ながらいまの日本の検査では、副腎疲労への対応は難しいと本間先生。だからこそ、そのメカニズムを知り、自衛することが大切なのです。

副腎疲労はなぜ起きる?

副腎とは、コルチゾールをはじめとした、生命を維持するために必要不可欠なホルモンを50種類以上も分泌する臓器。ふたつある腎臓のそれぞれの上に、小さな脂肪の塊のようにちょこんと存在しています。

コルチゾールはストレスに対応するためのホルモンです。闘う相手であるストレスが多すぎれば、コルチゾールを浪費して、副腎は働きっぱなしになって疲れてしまい、その機能が低下します。

ストレスがもたらす悪影響を抑え込むことができずに、さまざまなつらい症状が出てしまう。これが副腎疲労です」(本間先生)

ストレス=炎症。副腎は炎症に対処する“体の消防士”

ストレスという言葉はよく使われますが、副腎ケアにおいてストレスとは炎症のこと。「体に炎症をもたらすものはストレスになる」と言い換えることもできます。

「副腎は、いわば体の消防士。ストレスによって生じた炎症を消すためにコルチゾールを分泌し、血糖値や血圧などをコントロールします。また、免疫系や神経系なども一瞬のうちに調整して、ストレスによる体のダメージを防ぐ役割をしています。

しかし現代人のストレスはあまりに多く複雑なので、炎症を鎮めるコルチゾールが足りなくなってしまうのです。まずはストレスによる炎症を抑えるために使用されるコルチゾールを、なるべく減らすこと。これが副腎ケアの第一歩です」(本間先生)

副腎疲労につながる3つのストレス

本間先生によると、ストレスには下記の3種類があります。

1.精神的ストレス

人間関係、悲しい出来事、タイトすぎるスケジュール、結婚や離婚など生活環境の激しい変化による。比較的意識しやすいストレスだが、現代人は精神的ストレスが多いため、負担を抱えすぎないよう注意する必要がある。

2.肉体的ストレス

○○炎」と呼ばれる症状があるときは、炎症を抑えるために副腎が働いている。女性にとくに多いのは便秘。排泄が滞ると腸内に毒素がたまり、体内に吸収されて炎症が起きる。また、腸内フローラが乱れて悪玉菌が増えると、腸の粘膜に炎症が起きてしまう。

3.環境的ストレス

湿度の高いこの時期は、カビの発生に要注意。マイコトキシン(カビ毒)はさまざまな不調や障害を引き起こし、副腎の負担が増える。注意すべき場所は、洗濯槽のドラム弁当箱や水筒のパッキンまな板キッチンマットやバスマット、室内や車のエアコンのフィルターなど。

カビ毒のほかに環境的ストレスとして多いのは、柔軟剤シャンプー芳香剤などの成分、殺虫剤など。プラスチック発泡スチロール製品も電子レンジを使うと微量の毒素が溶け出すため要注意。

ストレスのなかでも肉体的ストレスと環境的ストレスは、自分では気づきにくいのが怖いところ。

副腎が限界に近づいて副腎疲労の状態になると、「新しいストレスにはもう対処できない」という信号を発します。人間の活動性や活力をホルモン操作によって奪い、「動かさない、活動させない」という“命を守るため”のモードに変えてしまうのです。

ストレスを心の問題として捉えると、「精神的に弱い」などその人個人のキャラクターに問題がすり替えられてしまいます。しかし「副腎疲労」として捉えれば、ストレスとは副腎の機能が問われる肉体的な問題。早期に発見してきちんとケアすれば、効果は必ずあらわれるといいます。

「副腎疲労」と認識することで、前向きに日常習慣の改善に取り組み、回復に向かう人が多いというのは、そんな発想の転換によるところも大きいのかもしれません。

後編では副腎を疲れさせるNG習慣や食生活、改善法をピックアップ。忙しくても始められる副腎疲労対策についてお伺いします。

特集:疲労回復 ー疲れとうまく付き合うためにー

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本間良子(ほんま・りょうこ)先生
スクエアクリニック院長。アドレナル・ファティーグ(副腎疲労)の提唱者、ジェームズ・L・ウィルソン博士に師事。副腎疲労の夫をサポートした経験から、副院長の夫・本間龍介氏と共に日本初の副腎疲労外来を設置。家庭医として従事する一方、抗加齢医学外来、副腎疲労外来で治療効果を上げている。近年はホルモン補充療法、ブレインマネージメントまで診療の幅を広げる。

取材・文/田邉愛理、企画・構成/寺田佳織(マイロハス編集部)、image via shutterstock

RSS情報:https://www.mylohas.net/2018/08/173444adrenal_fatigue01.html