「乳がんのタイプと治療法を判断するには、たいてい3つの要素を検討します」とピッツバーグ大学の内科教授で総合乳がんセンターの共同ディレクターを務める医師で、医学博士のアダム・ブラフスキーさん。
「浸潤性か、ホルモン受容体陽性か、HER2陽性か、この3要素の結果から、治療法が決まるのです」
アメリカがん協会(ACS)によると、ほとんどの乳がんは「がん腫(carcinoma)」と呼ばれる腫瘍で、身体中の器官や組織の「上皮(内側も含みます)」を構成する細胞から始まります。乳がんは大きく分けて2種類。まだ周囲の組織に広がっていないために治療可能性の高い「非浸潤性(in situ)と、周囲の組織まで広がっている「浸潤性(invasive)」です。
さらに、身体のほかの部分(多くは肺、骨、肝臓、脳)にまで広がっている「転移性(metastatic)」乳がんもあります。
では次に、知っておく方がよい乳がんのタイプを見てみましょう。
非浸潤性乳がん:非浸潤性乳管がん、非浸潤性小葉(しょうよう)がん 浸潤性乳がん:浸潤性乳管がん、浸潤性小葉がん まれな乳がん:炎症性乳がん、葉状腫瘍、乳腺血管肉腫 乳がんのサブタイプ:ホルモン受容体陽性(ルミナル)乳がん、HER2陽性乳がん、トリプルネガティブ乳がん非浸潤性乳がん
非浸潤性小葉がん(LCIS)非浸潤性乳管がん(DCIS)
これは「前がん」状態と見なされ、非浸潤性乳がんでいちばん多いタイプ。乳管に発生し、治療可能性がとても高いものです。アメリカがん協会(ACS)によると、この乳がんで初期の女性は、ほぼ全員が完治。時間とともに、浸潤性乳がんに進みます。
非浸潤性小葉がん(LCIS)
「小葉新生物」とも呼ばれ、「がん」とついていますが、正確にはがんではありません(「悪性度の高い腫瘍」というよりも、がんの手前の前がん病変と考えられています)。母乳を作る乳房の「小葉」という部分に、がん細胞のように見える細胞が増殖するものなのです。
浸潤性乳管がん(IDC)
浸潤性乳管がん、グレード3いちばん多いタイプの乳がん。浸潤性乳がんの80%を占めます。乳管の内側の細胞から発生し、乳管の壁を破って近くの乳房組織にまで増殖。そこからリンパ系と血流を通って、身体のほかの部分に広がる(転移する)場合もあります。
浸潤性小葉がん(ILC)
小葉(母乳を作る腺)から始まる乳がん。浸潤性乳がんのおよそ10%がこのタイプ。身体検査やマンモグラフィーのような画像検査ではIDCより検出されにくいことも。また、ほかのタイプの浸潤性乳がんに比べて、両側の乳房に発生する割合が高く、およそ5人に1人。IDCと同じく、身体のほかの部分に広がる可能性があります。
まれな乳がん
乳腺血管肉腫炎症性乳がん(IBC)
がん細胞が皮膚のリンパ管をふさぐため、乳房が腫れて赤みを帯びるまれな乳がん。腫れと赤みのほかに、乳房の皮膚が陥没したり厚くなったりして、オレンジのように見える(感じる)かもしれません。このような症状があったら、すぐに医師の診察を受けます。
乳首のパジェット病
乳管に始まって、乳首と乳輪(皮膚の色が濃くなった円形部分)に広がるまれなタイプの乳がん。乳首の湿疹(かさぶた状も)にとてもよく似て見えます。乳首から血液または黄色の液体が出てくる場合もあり、焼けるような感覚やかゆみもあるかもしれません。たいてい片方の乳首だけに出て、非浸潤性または浸潤性の乳管がんに結びついている傾向があります。
葉状腫瘍
がん腫が小葉や乳管にできるのに対して、乳房の結合組織に現れるまれな腫瘍。ほとんどは良性(がんではない)ですが、4症例につき1症例が悪性(がん)。40代の女性でいちばん多いとはいえ、何歳でも発症します。
乳腺血管肉腫
乳がん全体の1%に満たないタイプで、血管またはリンパ管の内側の細胞に発生。乳房の組織や皮膚に及ぶことがあり、以前に受けた乳房の放射線治療が関係しているケースも。
乳がんのサブタイプ
「乳がんと言うとひとつの症状と考えがちですが、治療には個人に合わせたケアが必要です」と、オハイオ州クリーブランド・クリニックのがん専門医でクリーブランド・クリニック・ラーナー医科大学の内科助教、メーガン・クルーズさん。
「乳がんについて多くのことがわかるにつれて、さまざまなサブタイプに分けられるようになり、治療結果の改善に役立っています」(クルーズさん)
クルーズさんの説明によると、主として3つのサブタイプがあり、がん細胞の組織サンプルを検査して、3つの遺伝子マーカー(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2〔=はーつー〕と呼ばれるタンパク質)を持っているかどうか(陽性か陰性か)でグループ分け。3つすべてが陰性(3つとも持たない)であれば、「トリプルネガティブ乳がん」と呼ばれます。
がん細胞のホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)受容体とHER2の状態が分かると、治療法の決め手になります。次に、それぞれのサブタイプについて見てみましょう。
ホルモン受容体陽性(ルミナル)乳がん
一部の乳がんは、エストロゲンかプロゲステロン、またはその両方のホルモンによって助長されます。「エストロゲンは女性らしさの元になっている女性ホルモンですが、乳がん細胞の増殖を助ける『成長因子』でもあるのです」と、シアトルがん治療連合(SCCA)のがん専門医でフレッド・ハッチンソンがん研究センター臨床研究部門の準メンバー、ジェニファー・スペクトさん。
これらのホルモンに対して感受性(受容体を持つ)かどうかは、ベストな治療法を決める重要な部分。エストロゲンかプロゲステロンのどちらかに陽性であれば、「ホルモン受容体陽性乳がん」ということでホルモン療法を受ける確率が高くなります。
HER2陽性乳がん
「これも多いタイプの乳がんです」とスペクトさん。
HER2陽性とは、がん細胞が細胞の増殖を促す「ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)」と呼ばれるタンパク質(またはHER2遺伝子)を過剰に持っているという意味。このタイプにはホルモン受容体が陽性の場合と陰性の場合があります。
トリプルネガティブ乳がん
乳がんと診断されたケースのおよそ17%を占め、エストロゲン、プロゲステロン、HER2の3マーカーすべてに陰性(ネガティブ)なために「トリプルネガティブ乳がん」と呼ばれます。
スペクトさんによると、「最も厳しくて難しい経過が予想され、3サブタイプの増殖性が高い方ということで、最も増殖性の高い乳がんになりがちです」。米国では黒人女性で白人女性の2倍多く、閉経前の女性とBRCA1遺伝子変異をもつ女性で多い傾向があります。
このレポートにご協力いただいた専門家のみなさん
アダム・ブラフスキーさん:ピッツバーグ大学内科教授、総合乳がんセンター共同ディレクター、医師/医学博士 メーガン・クルーズさん:オハイオ州クリーブランド・クリニックがん専門医、クリーブランド・クリニック・ラーナー医科大学内科助教 ジェニファー・スペクトさん:シアトルがん治療連合(SCCA)がん専門医、フレッド・ハッチンソンがん研究センター臨床研究部門準メンバー知っておきたい、乳がんのこと
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訳/STELLA MEDIX Ltd.