首のところにあるチョウチョの形をした分泌腺である「甲状腺」は、身体の中でも影響力の大きな器官のひとつです。
新陳代謝の調節、つまり細胞が栄養分をエネルギーに変えて、どんなふうに使うかを調節しています。最終的には、身体の状態を保つために欠かせないのです。
ですから、甲状腺が活性過剰になってホルモンを出しすぎたり、活性不足でホルモンがあまり出なくなったりしてきちんと働かなくなると、さまざまな症状が現れます。でも、その症状が甲状腺のせいなのか分かりにくいため、甲状腺に問題があっても、10人のうち6人までもの人が気づいていないことがあるのです。
甲状腺の異常は気づきにくい
「誰ひとり同じ症状の人はいないため、診断はとても難しくなります」と、ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院内分泌・糖尿病・代謝学部の内科学教授でアン・カッポラ医師。
「甲状腺ホルモンが同じ程度に異常な人が2人いても、症状がまったく違うのです」(カッポラ医師)。言い換えると、甲状腺の調子がおかしいという明らかなサインはないということ。ですから、気になったら医師に相談するのが常にベスト。
「医師は身体検査をして、甲状腺と甲状腺の不調に関連する症状を調べてくれます。甲状腺ホルモンの量を調べる血液検査も行うでしょう」と、マウント・サイナイ・アイカーン医科大学の助教のディーナ・アディモーラム医師。それでは、気をつける方がよい甲状腺のサインをご紹介します。
1. 体重が大きく変化する
多少の増減は誰にでもありますし、それくらいはいたって正常なこと。でも体重が大幅に減ったり増えたりしたら、医師に診てもらう方がよいかもしれません。
「甲状腺ホルモンの影響が最も出やすいとみなされているのが、新陳代謝です。ホルモンが多すぎると代謝が速くなり、体重が減ります」(カッポラ医師)
カッポラ医師によると、甲状腺の働きが過剰だと、身体は「異化(いか)作用」の進みやすい状態になり、筋肉が失われる結果に(“異化作用”とは、体内にある複雑な物質を簡単な物質に化学的に分解していく作用。筋肉を構成する化合物も分解されてしまうわけです)。
「体重が減るのだからいいのではないかと誤解されそうですが、決して脂肪が減っているわけではありません」と、カッポラ医師。甲状腺の働きが低下してしまうときも同じように考えられます。この場合は新陳代謝が遅くなり、エネルギーをあまり必要とせずに体重が増えてしまいます。甲状腺ホルモンが少ないと、身体はカロリーを保持するようになるのです。
2. 髪の毛が抜ける
シャワーを浴びて毛が少し落ちる程度ではなく、かなりまとまって抜ける場合です。
皮膚科の専門誌『オーストラリアン・ジャーナル・オブ・ダーマトロジー』で報告された2014年の研究によると、円形脱毛症(頭皮に十円玉くらいの大きさの脱毛部分ができる症状)は甲状腺の問題に関係しているそう。研究に参加した円形脱毛症の78人のうち24人で甲状腺の働きに異常が見られ、一般的な人口に占める甲状腺機能障害の人の割合よりずっと高かったのです。
「甲状腺ホルモンの変化は毛包(毛髪を作るところ)にも影響します」と、カッポラ医師。つまり、髪の毛の成長に影響があるわけで、甲状腺ホルモンが多すぎたり少なすぎたりすると、毛包の調子がおかしくなって髪が抜ける結果になるのです。
でもずっとは続きません。「正常な状態に戻れば、また生えてきます」と、カッポラ医師は説明します。
3. 腸の調子がおかしい
普段より便秘気味や下痢気味のときは、まず野菜不足や食中毒を疑うでしょうし、すぐに甲状腺と結びつける人は少ないかもしれません。
でも、ここにも甲状腺ホルモンの強い影響力が及んで、消化管の働きを遅く、あるいは速くしている可能性があるのです。「甲状腺ホルモンが少なすぎると便秘になり、多すぎると下痢につながります」とアディモーラム医師。
4. 動悸がする
そう、心臓も甲状腺の影響を受けます。甲状腺が活性過剰になると、心臓を含めてさまざまなシステムの働きがスピードアップ。
「甲状腺ホルモンが多すぎると、動悸がしたり心拍数が上がったりするかもしれません」と、アディモーラム医師。「苛立ちやホットフラッシュが現れることも」(カッポラ医師)。
5. 血圧の異常
同じように、甲状腺ホルモンは血圧にも影響します。多すぎると血圧が高くなり、少なすぎると低くなります。
ホルモン変化と病気の関係
Christine Yu/Red Flags You Could Have a Serious Thyroid Problem
訳/STELLA MEDIX Ltd.