暑い夏は、1年で最も疲労が溜まります。放っておくと、うつ病や慢性疲労疾患につながるリスクも。今年の疲労対策について、東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身先生にお話を伺いました。

疲労ってそもそも何?

早く起きて家事をこなす、満員電車に乗って通勤する、ダイエットや体力づくりのためにジムに通う……。そんな毎日に「あー、今日も疲れた!」と思っているかもしれません。でも、本当の疲労の正体は、じつは「脳の中」にあるのです。

「夏バテや疲労は、運動量が増えて感じるのではありません。脳の中にある自律神経の中枢である『視床下部』と『前帯状回』が疲弊し、『疲れた』と感じているのです。疲れているのは体でなく脳。自律神経の重労働により、脳が疲弊し人間は『疲れた』と感じています。

たとえば風邪をひくと、だるくなって活動的ではなくなりますよね。これは脳が『これ以上疲労しないように、動きたくなくなれ』と指令を出しているからです。疲労は脳からのアラームなのです」

自律神経は、呼吸、消化吸収、血液循環など生体の機能を調整する神経。すべての臓器は自律神経と関係しています。自律神経に“重労働”させるのは、主には過度な体温調節。猛暑は室内と外気温が10度近く差がある場合もあり、急激な温度変化は人類のDNAには組み込まれていない異常な状況なのです。

夏バテはまさに、この異常事態に「自律神経が悲鳴を上げています」というサイン。しかし、多くの人はこのサインを見逃しているのだそう。

「人間はどの動物よりも前頭葉が発達していて、快楽や達成感を感じます。自律神経の中枢はすでに疲れているのに、『もっと頑張ろう』『楽しいことのためにちょっとぐらい無理しよう』と、そのサインを無視してしまうのですね。こうして知らぬ間に疲労はどんどん蓄積します」

いますぐチェック! 隠れ疲労チェックリスト

以下のような習慣がある人は隠れ疲労が溜まっています。チェックが複数ある人は、要注意です。

□週末は必ず予定を入れたい
□朝活や習い事をするのが好き
□夜はジムでたっぷり汗を流したい
□仕事は残業してもきりのいいところまでやる
□ダイエットのために階段を使う
□1日の終わりはバスタブにしっかりと浸かってデトックスしたい
□糖質制限をしている
□夏バテしないようにスタミナ食を食べる
□エアコンは最小限に。寝るときはつけない
□体内にビタミンDを作るために日光を浴びるようにしている
□基本いつもテンション高め

これらの行動は、自律神経が疲弊しているにもかかわらず、とても無理をしている状態。がんばりやさんや普段からアクティブな人は、疲労という観点からいうと要注意です。少しでも疲れたと感じたら、適度にサボる、だらだらすることが必要。隠れ疲労のまま気づかず、同じような生活を続けていくと、ゆくゆくは生活習慣病を引き起こすリスクがあります」

女性が疲れやすい理由とは?

女性は男性と比較し、より疲れやすいのだといいます。

「私のクリニックは東京・新橋にありますが、サラリーマンが多いと思いきや、女性の方が多く来院されます。とくに専業主婦の方が多いですね。仕事で働いている人だけが疲れているわけではありません。たとえば、会社員であれば医師の診断書があればしばらく休むことができますが、主婦はそういうわけにはいきません。

クリニックでは、唾液のヘルペスウィルスの量を計り、疲労因子であるたんぱく質の増加チェックし、疲労かどうかを判断する検査がありますが、28,000円と高額にも関わらず、女性の受診率が高いのです。疲労を数値化し、家族に疲労を理解してほしい、という気持ちがあるのでしょう」

疲れと女性ホルモンの関係

「それは女性ホルモンが自律神経に深くかかわっているから。ホルモンバランスの崩れは、自律神経の乱れに直結します。とくに更年期になると自律神経が乱れ、疲れてしまうのです。睡眠中も寝息がいびきに変わっていくことがあり、これが良質な睡眠を最も妨げるのだそう。脳に酸素が行きにくくなり、自律神経が過剰に働くからです。このように自律神経が乱れると、脳が疲労を感じるのです。

また、筋肉が少なく脂肪が多い女性は、男性よりも体感温度の差が1〜3℃程度異なります。実は、男女が同じ部屋で寝るのはナンセンス。冷えがちな体の血流をコントロールするのに自律神経が余計に働く必要がありますから、女性はより疲労を感じやすいのですね」

深刻な夏バテには、良質な睡眠がマスト

暑い季節は体温調節が過剰になり、疲労が倍増します。さらに眠れなければ、疲れはたまる一方。どのように乗り切ればいいのでしょうか?

まず、睡眠の質を上げること。暑くて夜中に目が覚める、朝起きたら汗だくになっているというのは、自律神経がまったく休まっていない状態です。脳の自律神経の中枢がオーバーヒートしています。部屋が暑いとその空気を吸うだけで、体内に熱が回るので、エアコンは切らずに部屋を涼しくしましょう。疲れないためには脳を冷やすことが大切です。部屋の目安の温度は、タオルケットではなく、布団をかぶって暑くない程度に。

そして自然な入眠を促すこと。おすすめは、寝る前1.5時間を浴タイムとし、そこからをルーティンにして、副交感神経を優位にさせることです。まずスマホやPCを見るのは、お風呂までで終了させます。これがなかなかできない人が多いのですが、疲労回復には大きな効果があるので実践してみてください。そしてお風呂はぬるめの半身浴かシャワーのみ。汗をかいて自律神経を働かせないためです。

部屋の明かりは間接照明にし、暗めのオレンジ色の光にします。睡眠を促すメラトニンが分泌されやすくなります。強い光は交感神経が優位になるので、明るい部屋や夜にコンビニに行くのはおすすめしません。

飲食は寝る3時間前まで。消化にも自律神経が働かなければなりません。また眠るときは横向きがおすすめ。気道が開き、いびきをかきにくい体勢だからです。これで、暑い夏でも良質な睡眠が得られます」

意外と簡単。疲労回復術

睡眠以外にも疲労回復に効果的な食事や生活習慣があります。今日からできる簡単にできることをご紹介します。

「栄養素でも疲労回復効果があります。疲れを感じている人は、鶏胸肉を毎日200g、朝かお昼に1週間食べてみてください。鶏胸肉にはイミダペプチドという疲労回復の栄養素が豊富です。コンビニのサラダチキンは手軽に摂れておすすめですね。サプリメントでもOKです。甘いものは食べても構いませんが、疲労感がなくなったと脳が勘違いするだけなので、実際の疲労回復とは関係ありません。

また紫外線も疲労の原因に。体内に活性酸素が生まれ、自律神経を疲弊させます。外出するときは、サングラスをかけて予防しましょう。

さらに、血行が悪くなる行為も疲労を引き起こす原因になります。たとえば4時間座り続けると、腎臓に行くべき血液が10%低下し、疲労物質が排出されず、体のコントロールを行う自律神経が重労働になり、脳疲労を起こすのです。仕事をしていて『飽きた』と感じるのも脳疲労のサイン無理に続けずに、気分転換しましょう

そして、ゆらぎの空間も疲労回復に効果があるのだとか。人間のDNAには自然界のリズムが刻まれていて、ゆらぎを感じると自律神経はリラックスできるのです。窓を開けて風を取りこんだり、週末は公園や海に出かけて自然のリズムを感じるのがおすすめです。

疲れをためないために、疲れにくい体になるために、良質な睡眠をはじめ、以下の回復術を毎日の生活に取り入れてみましょう。

今日から簡単にできる疲労回復術

□イミダペプチド(鶏むね肉、またはサプリメント)を摂る
□外出時はサングラスをかける
□座り仕事をしているときは、水を飲む、トイレに行くなどこまめに立ち上がる。
□同じ作業は1時間半を目安に。飽きたら別のことをする
□休日はがんばらない、激しい運動は避ける
□窓をあけて風(ゆらぎ)を感じる

疲労もうまくコントロールすることが大切です。無理をしないこと、疲れのサインを見逃さないで、この夏を元気に乗り切りましょう。

──この記事は、 2018年8月6日の記事の一部を再編集して掲載しています。

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梶本修身(かじもとおさみ)先生

1962年生まれ、大阪大学大学院医学研究科修了。医学博士。大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授。東京疲労・睡眠クリニック院長。2003年より産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」統括責任者。著書に『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)、『疲れリセット速攻マニュアル』(三笠書房)などがある。

取材・文/島田ゆかり

RSS情報:https://www.mylohas.net/2020/08/fatigue.html