「本の力」を知るだけで、きっと生きることがラクになる
「人はどうして本を読むのでしょう」という壮大な問いかけから始まる本書。著者の寺田真理子さんは翻訳や文筆を手がける傍ら、うつ病を読書によって克服した経験から「日本読書療法学会」を設立し、日本国内での研究と実践にあたっています。
幼少期から中学3年まで、コロンビアやベネズエラで過ごしたという寺田さん。通っていた日本人学校がゲリラに脅迫される、自宅を狙撃されるなど、危険の多い生活から精神的に不安定に。両親の配慮で日本の祖父母と暮らすことになり、帰国して東大に合格、通訳になりますが、仕事が合わずにうつ病を発症します。
パソコンを立ち上げるだけでも具合が悪くなって寝込んでしまう……。そんな状態の中で、寺田さんがふと手にとったのが本でした。
最初は文字も読めませんでした。処理能力が落ちてしまっていたので、読んでも理解できなかったのです。だから負担のない写真集などを眺めることが多かったです。そこから少し文字のあるものを読むようになり、優しく励ましてくれるような言葉を頼りに、生活習慣を変えていくことから始めました。
(『心と体がラクになる読書セラピー』28ページより引用)
やがて寺田さんは、小説、絵本、マンガ、専門書などあらゆる本を読みふけり、作者の思考を追体験したり、ロールモデルとなる人物像と出会ったりすることで、自分をうつ病から解放できたといいます。
静かにこちらの働きかけを待ってくれて、自分のペースで関われるのが本の良さ。苦しいときや困ったとき、本が支えになってくれる。本にはすごい力がある──そう知っているだけでも、きっと生きることがラクになると寺田さんは語ります。
ストレスレベルが68%もダウン。脳と心を癒す読書セラピー
読書セラピーの効果は、じつは科学的にもさまざまなエビデンスがあると寺田さん。
たとえば、2009年にイギリスのサセックス大学で行われた調査によると、音楽鑑賞や散歩、お茶やコーヒーを飲む、ビデオゲームで遊ぶといったさまざまなリラックス法のうち、もっとも効果的な方法が読書であることがわかりました。 ストレスレベルを68%も引き下げたのです。
(『心と体がラクになる読書セラピー』3~4ページより引用)
また、うつ病からの回復期、寺田さんが写真集に癒されたことも、脳科学的に説明できるようです。
脳科学者の茂木健一郎さんによれば、食事などの生存に欠かせない行為をするときに活性化する脳の領域と、美しいものを眺めて「きれいだなあ」と感動して活性化する脳の領域は、同じだそうです。美は生存に直接関わるものではなく、余裕のあるときに楽しむものと思われがちですが、実はすごく密接に関係しています。精神的に疲れているときには脳の活動が低下していますが、美しいものを見ることで活性化します。美には大きな力があるのです。
(『心と体がラクになる読書セラピー』141ページより引用)
歴史的な事例もたくさん紹介されており、古代ギリシャの都市テーバイの図書館のドアには「魂の癒しの場所」と記されていたそう。紀元前から人々が本に癒され、意識しなくても読書セラピーを実践してきたことを知ると、改めて本が持つ力の偉大さを感じます。
「人間関係がつらい」ときのおすすめ本は?
本書では読書セラピーの実践術に加えて、本の選び方のアドバイス、「こんなときにはこんな本」というおすすめ本のリストなど、読みたい本がどんどん増える楽しい仕掛けも施されています。
例えば「現実の人間関係がつらいとき」のおすすめは、西條奈加さんの『まるまるの毬(いが)』(講談社文庫)。江戸時代の菓子屋を切り盛りする人々の温かな人間関係に触れることで、穏やかな気持ちに戻れるとのこと。
読書のプロのおすすめリストから、きっと琴線に触れる一冊が見つかるはず。これからの季節、静かに降る雨の音を聞きながら、ゆったりとページをめくりたくなる一冊です。
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コメント
コメントを書く茂木…あっ(そっ閉じ)