10月に公開される、チリを代表するドキュメンタリー作家パトリシオ・グスマン監督の2作品『光のノスタルジア』『真珠のボタン』は、宇宙や地球上の美をとらえた映像とともに、ある人々の悲しみにスポットを当てています。
残された人びとをとりまく圧倒的な自然美 (c) Atacama Productions (Francia), Blinker Filmproduktion y WDR (Alemania), Cronomedia (Chile) 2010
チリと言えば、その細長い国土の形で知られますが、『光のノスタルジア』はチリの最北部アカタマ砂漠で撮影されました。
(c) Atacama Productions (Francia), Blinker Filmproduktion y WDR (Alemania), Cronomedia (Chile) 2010
アカタマ砂漠は世界屈指の乾燥した土地。そして標高が高いため、優れた天文観測拠点として世界中から天文学者たちが集まります。
(c) Atacama Productions (Francia), Blinker Filmproduktion y WDR (Alemania), Cronomedia (Chile) 2010
しかしアカタマ砂漠は、独裁政権時代に政治犯として捕らわれた人々の遺体が埋まっている場所でもあるのだそう。天文学者たちが遠い銀河を探索するかたわらで、行方不明になった肉親の遺骨を捜して、砂漠を掘り返す女性たちがいます。
(c) Atacama Productions (Francia), Blinker Filmproduktion y WDR (Alemania), Cronomedia (Chile) 2010
「宇宙の壮大さに比べたら、チリの人々が抱える問題はちっぽけに見えるだろう。でも、テーブルの上に並べれば銀河と同じくらい大きい」(パトリシオ・グスマン)
(c) Atacama Productions (Francia), Blinker Filmproduktion y WDR (Alemania), Cronomedia (Chile) 2010
独裁政権が終焉を迎え、時代が移り変わっても、彼女たちは愛する人を捜し続けています。砂漠のどこに埋まっているとも知れない遺体を探す、あてのない作業。にもかかわらずそれをせずにはいられない、彼女たちの癒えない心は、何百光年もかけてようやく私たちに光が届く、気が遠くなるほど遠い星と、実は均衡を保っているのかもしれません。
(c) Atacama Productions (Francia), Blinker Filmproduktion y WDR (Alemania), Cronomedia (Chile) 2010 記録写真に映ったミステリアスな先住民の姿
『光のノスタルジア』の5年後に制作された『真珠のボタン』は、チリの最南端のパタゴニアで撮影されました。海底から見つかった真珠貝のボタンをきっかけに、知られることのなかったパタゴニアの歴史を明らかにしていきます。
(c) Atacama Productions, Valdivia Film, Mediapro, France 3 Cinema - 2015
パタゴニアでも、政治犯として殺された人びとがいました。また、さらに遡れば、入植者に迫害されたり、入植者が持ち込んだ伝染病で命を落としたパタゴニア先住民も大勢いたのだそう。
(c) Atacama Productions, Valdivia Film, Mediapro, France 3 Cinema - 2015
古い記録写真に映っていたという、ミステリアスな装束に身を包んだ先住民セルクナム族たちは、何を訴えているのでしょうか?
(c) Atacama Productions, Valdivia Film, Mediapro, France 3 Cinema - 2015
日本の裏側にあるチリ。そして宇宙......。『光のノスタルジア』『真珠のボタン』を2本立てで見ると、とても遠くへ気持ちがいざなわれます。と同時に、星の光のように澄んだ作中の人びとの悲しみが、静かに静かに自分の心にも沁みてくるようでした。
『光のノスタルジア』『真珠のボタン』
2015年10月10日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開。
(織田愛)