これから子どもを持とうか考える家庭にとって、大きな心配事のひとつ。しかし一般に、ドイツの家庭でそれが懸念事項になることは、まずありません。なぜならこちらでは原則、妊娠出産にかかる費用は全額保険でカバーされるから。今回はその実情に迫ってみたいと思います。
最初から最後まで、何があってもお財布不要!
ドイツでは、妊娠に伴う検診、病院での出産など、妊娠出産にまつわる一連の医療行為は保険でカバーされるため、自己負担の必要はありません。(ただし、羊水検査などの特殊な検査や規定の回数を超える超音波検査などは例外)。それには切迫早産で入院が必要になった場合や、流産や帝王切開の手術費用、無痛分娩・水中出産などにかかる費用、産後の通常入院費用、薬代なども含まれます。さらに産後に至っては、経過をみるための産婦人科検診、助産婦による家庭訪問、産褥体操のコースまでも。
最近では日本も自治体の公費負担や助成が充実しているので、ひところと比べてかなり自己負担額は軽減したようですが、役所での申請手続きの煩わしさを指摘する声もよく聞きます。ドイツの保険適用制度は保険証一枚、病院で提示すればそれで終わり、手続きは一切不要なので、そういった点でも、とてもありがたいシステムだなあと思います。
しかしその反面、「お金がかからない」というのは、誰でも、どんな金銭状況であっても出産できる、ということ。たとえそれが就学中のティーンエイジャーや、労働意欲のない生活保護受給者であっても、です。出産まではなんとかなったとしても、生まれた子どもがその先どのような環境で育つのかを考えると、いいことづくしに見える「0費用」の出産も、手放しでは喜べない問題を抱えていると私自身は感じています。
それで、出生率は上がったの?
結論からいうと、答えはNO。これだけ整っているように見えても、残念ながらドイツの出生率は未だ低く、日本とほぼ同水準。北欧諸国やフランスが軒並み出生率を持ち直すなか、大きな遅れをとっているのが現状です。日本でも出生率の向上を考える際、「妊娠出産における自己負担の軽減」は真っ先にいわれることのひとつだと思います。しかし、この結果をみると、妊娠出産への「一時的」な金銭援助だけでは決してじゅうぶんとは言えないことは明らか。託児・育児のインフラ整備や、仕事と育児の両立を支援する環境づくりなども含めた、長期的サポートをもっともっと充実させていくことが、今後も継続的に必要なのだと思います。