書評:量子コンピュータとは何か
 ジョージ・ジョンソン 著 早川書房
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 これまで株式市場などで「革新的技術」だとの評判を得て、「今すぐにも実用化」されそうな話をマスコミがたれ流した事例は数え切れません。

 「(常温)超電導」、「(常温)核融合」、「人工知能(AI)」などいくらでもあげることができます。「(完全)自動運転」もたぶんその一つになるでしょう(その理由の詳細は述べませんが、はるかに簡単な飛行機でさえいまだに「完全自動運転」が実現していません)。

 特に「AI」は過去何度目かのブームがやってきていますが、今回もそれは実現できないと思います。簡略に述べれば、「人間の脳が電気で動いているというのは間違った考えであり、実際には生体の化学反応の結果電気が生じている」と考えるべきだからです。

 また、人間の脳はあくまで体の一部であり、人間の脳の情報(ソフト)だけを移し替えるということも(SFではよくある設定ですが・・・)できません。例えば人間の脳はコンピュータの世界で言えば「IoT」のように体の各部分と情報交換を行っており、脳が各部分に指令を出すだけではなく、各部分が脳
に情報を送り影響を与えます。

 「臓器移植」をしたら「食べ物や娯楽の趣味が変わり」<調べてみるとその臓器の持ち主の嗜好と同じであった>という話があります。十分あり得ることで、脳が人間の体の各パーツとつながっているからには、むしろ必然といえます。

 人間の脳はウィンドウズのようにソフトとハードが分離しているのではなく、MAC以上にOSとハードが一体化しているといえます。

 さらに、本書でも簡単に触れられていますが、人間の脳細胞どころかその細胞を構成するたんぱく質などの分子、さらにはその分子を構成する原子(核や電子)が、「計算」=「思考」している可能性があります。

 限られた条件下の限られた内容の計算ですが、実際に量子(原子・光子・イオン・電子など)による計算が成功しているので、人間の脳細胞を構成する量子が「思考(計算)」していて、それが人間の「意識」を生み出している可能性は否定できません。しかし、数百年、数千年後(人類が滅亡していなければ・・・・)に解明するかも知れない事実でも、現状は雲をつかむような状況です。

 量子そのものの性質がまだ未解明なわけですから、量子の不思議な性質は実は(現在物理学会では常識となりつつある)多元宇宙(宇宙は一つではない!)の証明だと説明されることになったら、現在の量子論は大幅な修正を迫られます。

 もっとも、原理が分からなくても、ニュートン以前から人類はいろいろなエネルギーを活用する道具を生み出してきましたし、蒸気機関が発明された時もその動作の原理の詳細は未解明でした。

 ですから、原理が完全に解明されなくても(実用的)量子コンピュータが完成しないわけではありません。

 しかし、本書のオリジナル(英文)が執筆された2000年頃と、量子コンピュータ開発の現状を比べるとあまり進歩していないことが気になります。

 確かに初期の(古典的)コンピュータは真空管を使用していて、ビル一つほどのサイズで電卓以下の性能でした。当時の人々が現在のIT化を予想できなかったのも当然です。トランジスタが登場しなければ、現在のモバイル端末やインターネットに通じる大ブレイクは無かったかもしれません。

 しかし、量子コンピュータにおいてトランジスタに匹敵するブレイクがおこるのかどうかもわかりませんし、もし起こるにしても今すぐでは無いようです。


(大原浩)


*2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
 (JKK)を設立しました。HPはこちら https://j-kk.org/


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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)