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配当は業績に連動し毎年増えたり減ったりします。
配当はずっと着実に増えるわけではないのです。
ただし有望な事業への投資を優先して行うことで新規の売上が既存の売上に付加されていくでしょう。
これから普及が始まる商品がある。
たとえば電気自動車や自動運転はこれから期待できる。
シェアを拡大するという商品もあるでしょう。
あるいは地域面で拡大できるものもあるでしょう。
たとえば関西で創業した会社が西日本で売り上げを上げるというパターンもある。そのうちに東日本に進出することもできる。さらに海外に進出できる場合もあるでしょう。
こうした普及率やシェアの向上や地域の拡大が成長のパターンです。
もうひとつのパターンは商品価格の上昇です。
たとえば半導体の製造装置は30年前では一台数億円だったものがいまでは一台で数十億円というものがざらです。さらに、員数の増加パターンがある。たとえば自動車に搭載される半導体は電動化により確実に増えているのです。
同じ事業を営んでいても規模に勝る最大手が戦いを有利に進めることが多くなります。シェアが高い企業は人員や設備の稼働が高くなる傾向があります。稼働率の差が利益の差になり、利益が大きい企業は新製品や新商品の開発に資金を充てることができます。
= スケールメリットの存在 ピケティが示した資本の成長率の高さ=
スケールメリットとは企業規模が拡大できた場合に享受できる効率性のことです。
売上が倍になっても費用は倍にはなりません。
ピケティの不等式r>gからわかるように拡大再生産の複利効果は資本の収益率ROEでしたし、企業にとってのコストである人件費の伸びはそれ以下であることが多い。
ピケティ式に表すならば
ROE>われわれの給与の伸び
(社員さんにはちょっと残念ですがこれが株式投資のスケールメリットを示す不等式です)
たとえば売上が倍になれば配当の支払い余力それ以上になると上の不等式は言っているわけです。
たとえば1970年当時の信越の売上は320億円で利益は19億円程度でした。
2022年の信越は売上2兆円弱で利益は6000億円を超えています。
50年強で売上は60倍になりましたが、利益は300倍です。
売上が増えるよりも利益の増え方の方が大きいのです。
これは一般化してよい事象でしょうか。
ある程度の一般化はできるとわたしは個人的に考えています。
とても演繹的な理由によるものです。
費用にはスケールが働くからです。規模の経済が大きな要因です。
=単純な例より=
簡単な例で説明します。
ある人が商売を始めたとします。
内職か何かを借家で行うと仮定します。
借家は10万円の家賃。
一人が40万円の売上を稼ぐとします。
一人に20万円の謝礼を払うとします。
企業家の儲けは10万円。
売上40万円。
費用は人件費20万円に家賃10万円で合計30万円。
残るのは10万円でこれが利益です。
借家にはまだスペースが余っており、働く人を3倍にできるとします。
需要がまだある状態を仮定します。
家賃は10万円のままですが、働く人が1人から3人になるので売上は3倍の120万円となります。
3人の60万円のコストと10万円の家賃で費用は全部で70万円ですから利益は50万円です。
売上は3倍ですが利益は5倍になりました。
規模の拡大でビジネスの効率が上がる簡単な説明です。
このように稼働を高めても費用があまり増えない費用を固定費といいます。
そして人件費は長期的には上がっていくのが自然ですが短期的には固定費とされています。
基本的に給料はステップアップで段階的にしか増えないのです。
一方で、仕事の習熟の程度には大きな差が存在します。
仕事のやり方が上手くなると成果は出やすくなります。
同じ仕事を何年もするうちにベテランになり生産性が上がっていきます。
生産性は費用のペースよりも速く向上する場合があるのです。
たとえばスーパーやコンビニでレジを打つ仕事がまだ存在していますが、アルバイトの場合、入ったばかりの新人でも何年たつベテランでも時給はさほど変わりません。変わるのですがせいぜい2倍以下の差です。
ところが習熟した店員の作業スピードは新人の数倍といってもよい。
こうした数倍に向上していくもの(この場合は人の生産性の向上)がビジネスの収益性を高めていくのです。
固定費以外の費用を変動費的な費用といいますが、変動費についても売り上げが大きくなるにつれて効率的な使い方が可能になります。
たとえば大量に仕入れることでボリュームディスカウントなどが効くようになります。ひとつだけを買うよりも大量に物資を買う方が物流費や保管費が効率的に使えるからです。
売る方からすれば営業のための費用を節約できるのでスケールメリットが効くのです。
つまり企業の業績はスケールメリットが効く。
逆にスケールを享受するように考えて最初からプランを立てるのです。
有望分野を見出して企業はそこにスケールメリットがでるように仕組みを考えしっかりと計画的に投資をしていくのです。
これまで何段階にわけて投資家の財産形成の複利効果を話してきました。
最初は配当が仮に横ばいであっても毎年の配当がしっかり継続すればよいという話をしました。配当が成長しなくても、平均的には配当成長がゼロ成長であっても、投資家側の再投資によって複利で資産は増えていくことを確認しました。2%の平均的な複利であっても35年で2倍という数字でお示ししました。
次に、配当というのは横ばいであるよりも、企業側の利益の再投資によって(事業の拡大再生産ができる良質なマネジメントを選べば)配当自体が増えていく傾向があることを日経平均や個別株の具体的な配当を示してみました。
取る期間にも拠りますが6%から7%程度の年率で平均して成長を過去は見せてきたことをグラフ(vol.1「日経平均配当推移」)でお伝えしました。
この高いペースが可能なのは、売上の増収ペースよりも利益の増益ペースの方が高いことではないかと家賃や人件費の固定費と生産性の向上の例から演繹的仮説で示しました。
企業はスケールメリットをつかって売上の増収率(売上の伸び)を超える増益率(利益の伸び)を達成できるとわたしは個人的に考えています。二けたの配当成長のために二けたの利益成長は必ずしも必要ありません。財務に余裕があれば配当性向は高まるからです。
そして二けたの増益のために二けたの増収は必ずしも必要ありません。
限界利益率が維持できれば固定費の稼働率が高まるからでした。
結果、わずかな増収を継続することで相対的に大きな増配を長期で達成できるというのが長期投資の最大の魅力になっているのです。
まとめ:
株式投資で最も重要なことは配当が永続すること。
ほぼ毎年のように配当が得られること。
そして配当は成長していくこと。
それは利益を適切に再投資する仕組みが投資家側(配当の再投資)にも企業側(利益の再投資)にもあるからでした。
これまで、投資家は受取配当を株式の流通市場において再投資できること。
そして、企業側は利益(配当支払いを除く)内部留保を事業へと再投資できることを説明してきました。
投資家側は受取時の配当利回りの複利で資産を増やすことができ、企業側は内部留保を再投資することで自らの事業を拡大再生産することができます。
事業を拡大することで規模の経済を手に入れると同時に社会の変化に合わせて事業を転換していくことで収益率を維持または向上していくことができたのです。
さらに企業の経営戦略をしっかりとモニタリングすることが株主はできました。賢い経営者であれば競合が厳しいときにしっかりと差をつける経営を行います。経済危機や不景気をしっかり「利用」し優秀な人材を不況期に多く採用しようとしたりします。
(次回に続きます)
山本 潤 セゾン投信共創日本ファンド ポートフォリオマネージャー
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