===村田製作所(6981)の利益成長力 MLCC編(3回目)===
第2部 MLCCはさらに高付加価値化へ
=MLCCの温度特性と耐圧特性=
セラミックは強誘電性で、通常はチタン酸バリウム(BaTiO3)を誘電体として用います。これが高い誘電率を持つことから、温度、電圧、エージングにより誘電率は大きく低下してしまうのです。
セラミックの結晶構造が温度により電子のいたずらで相転移をしてしまいます。そうなると誘電率は大きく変化します。
一方で、二酸化チタン(TiO2)を基材とする非強誘電性(電圧がないときには分極がおきない)セラミックで、その多くはチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)およびチタン酸カルシウム(CaTiO3)を添加物として含有したものですが、常誘電性(非強誘電性)のため、温度特性が高いのです。自動車では20年という長期の耐久性が求められます。
ところが温度特性を優先するとやはり、チタン酸バリウムが使えない領域があるため、誘電率が大きく犠牲になり、10分の1以下の非バリウム系で誘電体シートをつくることになるのです。
要するに、これからの自動運転やEV化で村田製作所の売上が急増するからくりは、高品質高耐圧で温度特性の非バリウム系MLCC向けが車載向けで増えることにあり、MLCC単価がかなり高くなっていくのではないかというのが私の仮説です。
温度特性のよい高品質MLCCは単価が高い。
かつ、数量が増えるというよい見通しにあるのです。
=高単価な車載規格適合MLCC=
村田製作所のHPの情報によれば、車載規格AEC-Q200対応のMLCCを含むセラミックコンデンサで9,800品種(22年9月現在)ほどあります。全体の3分の1ほどです。125度以上の耐熱対応となっています。
高温125度対応でMLCCでの高容量タイプは3225(横3.2mm縦2.5mm)で220μFが量産されています。定格電圧2.5Vdcで静電容量許容差は20%未満。温度は60度を超えると徐々に静電容量は小さくなっていきます。
静電容量の保証±5%の高精度は1,300品種ほどで最大容量は4.7μF(サイズ 横6mm縦5mm高さ2.8mm)。随分と大きなものですが、耐熱性があることで、半導体の近くに設置することができます。電荷を即座に供給するにはできるだけ半導体の近くに設置したいものです。
定格直流電圧(Vdc)が630Vの高耐圧になると、100品種程度ですが、すべて静電容量の誤差は±1%未満で容量33μFのものがあります。
(サイズ 横3.2mm 縦2.5mm 高さ2.5mm)
1,000V以上のものは30品種ですが、かなりの高額なMLCCとなるでしょう。
例えば定格1,000VdcのMLCCは3216タイプで容量82pFがあります。静電容量許容差は1%以内です。周波数が上がるとそれだけ誘電体に負荷がかかるので許容される電圧は低いものになります。
ECサイトのモノタロウのHPで村田のMLCCを検索すると、1,000Vの定格電圧のものはひとつ300円以上です(2022年9月時点)。
もちろん、EVメーカーはモノタロウを経て購入はしません。この単価の数分の1の条件でスケール購入するでしょう。
それでも通常の量産MLCCは1個1円以下ですから、EVパワートレイン用途のような高耐圧分野が出てくると、べらぼうに付加価値が高いものが登場するといえるでしょう。
コンデンサは誘電膜が薄ければ薄いほど静電容量が稼げるため、薄くすればするほど性能が上がる。費用を下げて性能を上げられるため長期的に技術力を高めるほど収益力を改善できる仕組みになっています。
ただし、誘電膜が薄すぎると耐圧が取れなくなります。
村田ではEVの800V化を見据えて耐圧1kVのMLCCを開発しています。温度補償のMLCCは高誘電材料を使わないため、高周波特性もよいし、表記された静電容量との誤差も小さいのです。
高耐圧のコンデンサも非常に高単価なものになります。
=MLCCの高耐圧化への取り組み=
高耐圧は誘電体の厚みを増すことが基本的な対策ですが、内部電極の配置をずらして各々の層の電荷の分布をマイルドにするような手法もあります。耐圧対策としては(寿命や高温度対策としても)誘電層や金属膜の粒子の均一性はもっとも大切な要素となるでしょう。粗粒があればそこを起点にショートしてしまうリスクがあるからです。
印刷技術で内部電極の欠陥を極力減らすことが困難になるのであればニッケルスパッタなどの技術を導入すべきなのかもしれません。
(つづく)
山本 潤 セゾン投信共創日本ファンド ポートフォリオマネージャー
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