バレーボールという競技はバスケットボールと同様に高さが必須。
随分昔になるが、体格に劣る男子バレーボール日本代表がミュンヘン五輪でゴールドメダルを取ったのは偉業であった。
わたしが尊敬している松平康隆(1930-2011)さんは当時の監督。本を何冊か書かれたが、彼の大ファンであるわたしは全部読んでいる。
彼の思想は長期投資に通じるものがある。
まず松平さんはチームのピークを8年後に持っていく構想からスタートする。
そのための選手の発掘。対象は中学生だ。
デカイ選手を全国回りスカウト。8年がかりで鍛えた。
資金集めはマスコミを利用。テレビスポンサー獲得に邁進。
税金に頼らなかった。
資金と人があれば、後はやる気と教育を注入する。
トレーナーやコーチは超一流を揃えたが、選手たちは血の出るような練習を重ねた。
魂でスパイクを打つ練習を重ねたが、猛練習以外にも一般教養を重視した。
一流の人格を備えなければ勝てない、チームとして機能しない。そう考えたのだ。
また、「上手いだけの選手ならばいらない」と言い放った。
選手の人生を考えたとき、人格や教養がなければ善い生活は送れないだろう。
だから哲学や外国語の鍛錬も選手に課した。
投資もそうだが、「これだけをやれば十分だ」という秘訣はどのプロの世界にもないはずだ。
細かいふるまいのすべてが成果につながっている。
生活のすべてを職業に捧げる気概がなければならない。
自分たちのやることはまだ誰も成し遂げていない偉業なのだ。
さらに、それは国家のためでもある。
もちろん、大切な家族の生活のためにもなる。
ゆくゆくは子孫のためにもなると心底信じられる。
そのような偉業を目指す。
それだけのものを目指す自分はこれでよいのだろうかとピンと心が張る。
そうした心持で職業と対話しなければ真の上達はない。
逆にいえば、夢がある人生は恵まれた人生なのだ。
俺には実現可能な大きな夢がある。だから俺はそれを目指せるだけ幸せだ。
そういう心境に組織の構成員の統一した意識がなければ一枚岩にはなれない。
一枚岩でなければ偉業は達成できない。
ちゃんとしていて、隙がない個のステージを「紳士」という。
「紳士たれ」という一語で他の約束はいらないと校則を全部破棄したのが北大に召喚されたクラーク博士だった。それほどすべてにおいて最優先とされるのが「姿勢」なのだ。
紳士であれば困っている人がいれば放ってはおけないだろう。見ないふりをするのは紳士ではない。
ただ生きていればよいというのでは動物と同じでダメだ。夢を達成するために、社会をよくするために、ひとりひとりがちゃんと生きなければ。
さて、同じように、ヤクルト西武で監督して何度も日本一にチームを導いた廣岡達郎さんも80年代後半に何冊も本を書いている。体の管理として「よい食事」を取り入れた。
それが玄米菜食の徹底。
自然農業の旬の野菜や魚であって肉も良質なものを必要なだけ取るというもの。体重コントロールも必須だった。これを管理野球と皆は評した。
金をとってプレーを見せる以上、最高のパフォーマンスを出すというのはプロ意識として当然のことで、節制と猛練習はセットだった。
それ以上に、日本プロ野球を一流のものにしよう、日本のプロ野球を変えようという高いスタンダードを廣岡さんは持っていた。ローテーションの確立や守り重視の野球。基本練習の反復を大切にした。
ショートストップの守りには合気道の技を取り入れて打球の正面に誰よりも速く到達してから捕球から送球までが秒殺。パンパンと弾くような捕球と送球だった。
客が金を払って見に来る理由は、走攻守兼ね備えた4番がいること。そして負けないエースがいること。
そうやって新人のときから廣岡さんの厳しい訓練を受けたのが工藤選手だった。監督になって、やはりソフトバンクで何度も日本一になった。
どうしてこんな話をするのか。
運用を生業とするわたしは運用チームを率いている。
アナリスト3人の平均年齢26歳と若い。
毎日にように訓練をしなければ到底一流にはなれない。
廣岡さんに習って、やはり食事からと考えている。
アナリストは頭脳労働だと思われているが、頭脳を鍛えようと思えば、多少遠回りでも、体力を向上させ、意識を変えなければならない。頭脳だけをよくすることはできないのだ。
体力は運動だけでは足りない。
食事と規則正しい律された生活がセットになる。
食事では、調味料を全面的に見直し、善良な生産者が魂を込めてつくった無添加のお醤油や塩や油を使わなければならない。
白米が玄米に比べて悪いのは誰でも知っていることだが、白米が悪い理由を知る人は少ない。白米は味の濃いおかずが必要になり、そのおかずに体に悪い調味料や添加物が満載であるからだ。
廣岡さんは自身で玄米菜食を経験してその効果を実感しているからこそ、西武ライオンズにその習慣のよさをアピールした。選手と家族向けに食事の教育会を開いたのであり、選手の奥さん連中がセミナーを受ける対象であった。
野球選手の奥さんに食育をしたのだ。
そしてコミッショナーには人を無闇に入れ替えることを禁止してくれと懇願した。
年寄のスターがポジションを奪うと折角の若手が育たないからだ。
そうなると、いまのジャイアンツのように弱くなってしまう。
ジャイアンツは他球団のピークを過ぎた主力を次々と獲得している。
彼らはいまのことしか考えていない。
今年勝てばそれでよいと思っているのだ。
わたしも59才になって、ちょっと体は40代のときよりはしんどくなっているので一段と節制が必要になっている。
会長の中野さんはもう少しわたしを補佐してくれるベテランの運用者を採用してもよいといってくれているが、ありがたいことだが、なかなか踏み切れない。
その理由は、即戦力をとれば若手が育ちにくくなるから。
かといって即戦力でないものは役に立たない。
このジレンマなのだ。
教育目的でコーチに徹してくれる善良な専門家ならば大歓迎なのだが。
そこまで若手を愛してくれる人がいるだろうか。
わたしはいつか引退する。
日本の運用業界を背負えるような立派な後継ぎを育てなければならない。
できれば彼らの残りの人生は幸福なものであってもらいたいと願う。
何が幸福かは議論があるが、わたしは彼らの市場価値を高めてあげることだ
と考えている。調査の能力を各段に向上させて長期の運用を上手くしたいのだ。
そのためには今が踏ん張りどき。
彼らがプロとして運用をするならば、プロになる覚悟が必要だし、プロ意識を互いに持ち寄り、実際に日本一といえる努力をしてみることだ。
最終的にはその努力はよいパフォーマンスとなり顧客を幸せに通じるし、自らの市場価値を大いに高めるはずであろう。
そうしたハッピーエンド、明るい将来を心底若手には信じてもらいたいのだ。
いま、運用業界は、それまでの強欲さを反省し、SDGsのスローガンである「ひとりも取り残さない」社会の実現のために業界一丸となって奮闘しなければならない。業界として一段も二段も上の社会的なステージに上がっていく必要がある。
それを実現できるのは私の世代では無理でやはり次世代を担う若者たちであろう。
わたしも松平さんに習い2030年にゴールドメダルという目標を持っている。23年の相場を考えるよりも、2030年にNAVのピークを持っていくにはどうしたらよいかと考えているぐらいだ。
その輪の中心にいるのは脂の乗った中堅になっている大月アナリストだ。
彼がたるんでいては他の2人もたるんでくるので、たるんだら即座にライバルをあてがうが、そうならないように、たるまないように監督するのも上司の役割だ。
もちろん、私自身がたるんでいては何も起こらない。
だから自らを律することが組織の長の最低限の在り様であろう。
随分と回り道をしているように聞こえるかもしれないが、急がば回れという。
もうすぐセゾン投信共創日本ファンドにとって正念場の2年目がやってくる。
(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)