「アナリストよ、
歴史家のように記述し、
科学者のように分析し、
芸術家のように共感し、
哲学者のように思考せよ。」
2015年に東大生と京大生を相手にアナリスト業務について講演したことがありました。その講演内容をメモってくれた東大生のA君がいました。
8年前のものですが、懐かしく想い紹介します。
■4■理論株価は強い確信があるときのみ意味を持つ
確かに、ユニバースをすべてチェックして、すべての企業の株価と業績から理論株価を算出し、理論株価が現在の株価を上回っている度合いに順序をつけることは可能かもしれない。だが、それは、あまり意味がない。
なぜなら、ほとんどの企業は理論株価を考えるだけの強い確信度合に欠けるからだ。つまり、ほとんどの企業は「並み」の企業であり、景気などの外部環境に大きく左右される。理論株価のベースになる将来の配当列をアナリストが自信をもって書き切れない。
だから、ほとんどのユニバースは理論株価をあてはめるだけの価値がない。
ユニバースは大部分が空白地帯となる。
そうであっても、わたしたちは全く困らない。
逆説的に、確信をもって、長期の配当列をしっかりと書き切ることのできる企業は、割安であると仮定することができる。
つまり、ユニバースのすべての構成メンバーに順序を入れる必要はない。
順序が入るとすれば、それらは突出した例外企業群であり、それらには特に強いアナリストの思い入れがあるのだといえる。
大多数のユニバースは順序が入らない。それは、アナリストが強い思い入れがない企業群であり、わざわざ順序を入れる必要もないグループである。
■5■限界利益率でみる短期投資と長期投資
一般的に、限界利益率の高い事業は低い事業よりも投資効率が高い。
それでは、この世で最も限界利益率が低い事業(ダメな事業)は何か。
答えは、短期の株式売買である。
100で買ったものが99になる。100で買ったものが105になる。
そして、1%の違いで売買を繰り返すとしよう。
短期的には株価は大きく動かない。限界利益率はプラスマイナス数%でしかない。事業として見るならば、短期の株式投資ほど資金効率が悪い事業はない。
一方で、長期の株式投資はどうか。
数十年という時間軸で見ればどうだろう。
限界利益率90%を超えるのではないだろうか。
数十年前にトヨタを1円で買えば、現在2万円になっている。
時間をかければかけるほど、正しい銘柄を選ぶことで、限界利益率は、ほぼ100%だろう。
株価にはプラスのドリフト率(インフレヘッジ特性)がある(タンス預金にはそれはない)。だから、この特性によって、並みの企業であっても、数十年単位で見ればそれなりに株価は上昇している。
■6■慣習に従うのではなく自ら理論を組み立てる
さて、人類が誕生してからの数万年経過した。
一方で、資本主義や金融市場の歴史はせいぜい数百年にすぎない。
過去のたった数十年の株式市場を観察することで、運用手法についてなんらかの結論が得られたとしても、それは慣習的なものであり、理論的なものではない。
慣習ではなく、理論をつくるべきだ。
たとえば、低PERを買うというのは習慣であり、低PER投資には理論的なバックボーンはない。あったとしても、それは、金融市場を「短期間」観察した結果だ。それは確かに実証的かもしれないが、実証は理論ではない。
(つづく)
(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。また、内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織/団体の見解ではありません。)