さて、昨年の春と年末に2度ピークを迎えた日本の株式市場。今年に入って低迷しているうちに米国株式や新興国株式市場が上昇してきています。今年前半は 米国QE3の縮小の時期に重なり、アルゼンチン・ペソの暴落~ウクライナ問題に至る過程で質への逃避が起き、それに輪をかける形でファンド資金の急激な移 動が行われたことで今年に入って間もなく新興国通貨が一斉に下落しましたが、ここへ来て戻りも急です。
流石に経済規模もたいしたことの無いアルゼンチン・ペソが下げたくらいで新興国通貨全てが何故にこんなに下がるのか?不思議に感じていましたが、ウクラ イナ情勢にある程度の方向性が見えつつある状況になってきた3月後半からは買戻しと思われる巻き返しの動きとなっています。ここへきて改めて不穏な雰囲気 になってはおりますが。
資金ジャブジャブとなっている国際金融市場も昨今の気候同様、かなり暴力的な動きをしています。
ここ半年ほどの雰囲気からは1987年頃と2006年頃の株式市場を思い出します。1985年9月のプラザ合意以降、急激な円高を止める為の大規模な金融緩和が実行されるとともに株式市場も活況となり、その過程で真っ先に「儲かる!」と目された証券株が買われました。
1987年4月には野村証券株が5,990円の高値を付けますが、この時には「野村の利益は5,000億円を超える」と言われ、決算発表の直前(同年4 月下旬頃)にそれを期待する買いが殺到し、この株価を付けました。実際に野村証券は期待通りの決算発表をし、同社の収益はその後もバブルピークに向けて増 え続けるのですが、株価は上下動を繰り返しながら下げトレンドを描き、89年末には2,000円近くにまでなってしまいます。つまり変化率ではこの期 (87年3月期)が最も大きかったことからもその変化の大きさに期待して株価が上がった典型例であったものと思われます。
1999年末頃にもITバブルのさ中に3,500円台を付け、その後の2003年4月には1,087円まで下げました。2006年~2007年にかけて のサブプライム・バブル時にも瞬間2,870円の高値、その後2011年11月には223円まで下落しています。激しいです。
翻って昨年の証券株。野村証券株は昨年5月22日に980円を付けてから一進一退を繰り返した後に、今年に入ってからの下落で600円前後まで下げてい ます。本日の寄り付き611円の株価でPERは11.6倍、PBRが0.92倍ですから、バリュエーション的にはまあまあの水準(説明できる範囲の株価) にあると思われますし、2000年代後半の大型増資による影響なども考慮すれば、1987年の5,000円台は今や実現不可能な株価と言えるのでしょう。
発行済み株式数約38億2,256万株で611円ですから時価総額2兆3,350億円余りとなり、当期利益2,000億円に乗ったレベルでは2~3兆円 の時価総額が、まあ妥当と言えるのかも知れません。僅か一昨年は100億円の利益でしたから証券業の業績変動の大きさを踏まえればこの辺りは居心地が良い 水準なのかなと。
とすると、昨年春は1987年当時と同じような事象により証券株が高値を付け、その後の業績相場への流れを待っているのが現在の姿と言う事でしょうか。 但し、その動きが出てくるまでの間は中々思うように株価が上がらない時期がありました。1987年秋にはブラックマンデーがありました。2006年は株式 市場全体に方向感が無く、2007年の春以降にバブル的に買われましたが、この時は伸びていたとは言え資産価格の上昇ばかりで景況感はイマイチでしたか ら、実は今と似ているのかも知れません。
やはり本格的な株価上昇は実質的な景気上昇(GDP拡大)が伴わなければ期待できませんから、悪いニュースが続きそうな雲行きの中で空売りも増えているのでしょう。誰もが納得する第3の矢が待たれます。
また、昨今の株式市場を見ていると、いよいよTOB等をし易いマーケット整備が必要ではないのかと感じます。PBRが1倍を大きく下回った状態での時価 発行増資や株主軽視と感じる企業の株価低迷が続くようでは、関係当局が幾ら旗を振っても投資家のすそ野は広がりません。NISA1番人気の武田を筆頭に今 年に入ってNISA口座で買った投資家は今や殆どが損失を抱えている状態です。誰のための資本市場なのかと言えば、企業が自由に直接調達できる市場である と同時に、投資家にとってもフェアに参加でき且つ儲かる市場でなければ繁栄はありません。
発行企業に都合の良い市場運営をする一方で「投資家保護」ばかりを声高に規制を厳しくするだけと言うのも物足りなく感じます。悪いことをした輩に厳しく罰する一方で、経営者側には株価に緊張感を持たせる市場運営が待たれます。
時代は流れ、1980年代とは背景も市場状況も大きく変わっています。国内株式なら如何にも割安と感じるタイミングに絞って買付ける一方、国内資産にばかり目を奪われず広く海外に於いても投資対象を探したいところです。
しつこいようですが海外分散投資が大事な時期に移行しつつあると考えています。
(街のコンサルタント)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)