駅から徒歩で10分、海までは自転車で10分の場所にあるのが、今回お邪魔した珈琲屋の開店準備をしている占野さんのお部屋。
驚くことに、この部屋に置いてある古道具や小物のほとんどが、準備中の珈琲屋で使う予定のものばかりなんです。
名前:占野大地さん職業:珈琲屋(開店準備中)
場所:神奈川県藤沢市
面積:1DK 35.23㎡
家賃:5.5万円
築年数:1976年 34年
住宅の形態:アパート
お気に入りの場所
自分の定位置のソファ見るからにお気に入りの場所が多そうなこの部屋の中で、こちらもどこがお気に入りなのだろうと構えていましたが、初めに出てきたのがこのソファ。
座面が大きく、ゆったりとくつろげるこのソファは、広松木工で購入したんだそう。
「いつも大体、このソファの上にいるんです。パソコンをいじったり、テレビを見たりしてくつろいでますね」(占野さん)
足を伸ばせるラグの上床に足を伸ばして座るために、取材の前日に迎えたラグ。
家具をもう一度配置し直してできたこのスペースで、ようやく足を伸ばしてリラックスできているんだそう。
暖かい照明が囲むベッド回り至る所に変わった照明が配置されているこの部屋。
日没とともに、照明を落としていき、寝る前にはこのベッド周りの照明のみにしておくんだとか。
寝る寸前までこの暖かい照明のもとで読書をし、寝るときにライトを消すとすんなり眠りに入れるそう。
インテリアの邪魔になりがちなコードは、占野さんのおばあさんが住んでいる対島で拾ってきた流木に引っ掛けています。
自分で調達してきた流木に引っ掛けるだけでも、お部屋のレベルがかなりアップしますね。
朝の時間を過ごしたり、珈琲の作業をするデスク珈琲屋の開店準備をしているだけあって、毎朝、珈琲を淹れる習慣がある占野さん。
椅子には座らずに立ってドリップをし、珈琲を飲みながら新聞を読み、ゆっくりと朝を過ごしています。
朝の時間を共にするだけでなく、珈琲の作業をするのもここ。
焙煎前や焙煎後の豆の中に欠点豆が含まれていないかをピックしたり、ミルを挽いたり、ドリップしたりするのもこの場所だから、毎日この作業をする占野さんにとっては欠かせないデスクなんです。
焙煎機部屋にお邪魔した瞬間、目を奪われたのがこの立派な焙煎機。
いくら珈琲好きの人の家でも、こんなにかっこいい焙煎機なんて滅多に見られないはず。
しかし、珈琲屋の開店準備をする占野さんにとっては、お気に入りである以上に、なくてはならないとっておきの存在でした。
「これは日本の富士珈機っていうところの焙煎機なんです。
操作できるようになるために講習に通って、ようやく手に入れました。
焙煎機って全自動のモノももちろんあるんですけど、これはその日の気温や豆を投入したときの温度、入れる空気など全部自分で調整しながら焙煎していくモノです。
豆の状態で味も決まるから、ひとつひとつの操作がとても大切。1分1秒が勝負で、それがおもしろいところでもあります」(占野さん)
この部屋に決めた理由
最初は新卒で入社した会社の配属場所がこのあたりだったというのもあり、「この周辺に住むんだろうな」となんとなく思っていたんだそう。
とはいえ、JR東海道沿線上でいうと、藤沢や大船、平塚などの大きな駅がある街や横浜に住むのも良さそうなものですが、どうしてこの街、そしてこの家を選んだのでしょう?
その理由には、占野さんらしいこんな思いがありました。
「異動も頻繁にある会社だったから、もう少し都心を選んでも良かったかなって思うんです。
もちろん、アクセスの良い駅も勧められたんですけど、なんせ街がゴチャゴチャしているのが自分には合わないなって。
どちらかというとアクセスというよりも、落ち着いた雰囲気で海の近い茅ケ崎と辻堂の2択で選びました。
この部屋は、間取りの用紙を見たその瞬間に決めたんです、ここにしようって。
まず第一に、学生の頃から持っていたテレビボードやテーブル、デスクの大型家具が上手く配置できる広い間取りであることが絶対条件だったんです。
だから、築年数とかはあまり気にしてなくて。むしろ新築だと綺麗すぎて、持っている家具と色味が合わなくて浮いてしまうんですよね」(占野さん)
残念なところ
ドアの取っ手が取れそうなところ築年数が経っているため、天井が一部剥がれかけていたり、虫が高頻度で出たりするとのことですが、この点に関してはあまり気にはしていないんだそう。
そんな許容範囲が広い占野さんでも、唯一残念に思うのが玄関の扉の取っ手。
たまに外れてしまうくらいドアノブは年季が入っています。
「天井とかは人によってはマイナスに感じるだろうけど、あんまり気にしてないですね。
でもドアノブは防犯上……ね(笑)
玄関の扉を開けて、踊り場でBBQしている人がいるくらい、ゆるい街ではあるんですけど」(占野さん)
お気に入りのアイテム
シーンによって変えられる照明天井からつるされている照明はもちろん、テーブルの上や棚の中などあらゆる場所に照明が配置されていますが、これらはほとんど店舗化した際に使う予定のものたち。
照明だけでなく、カップや花器も持っていく予定なんだとか。
「白色が嫌なのが前提ではあるんですけど、その日によって部屋の雰囲気を変えられるからこだわりたいんですよね。
就寝する時間が近づくにつれてひとつひとつ照明を落として、すんなり眠れているのも、たくさん照明があるからこそ。全照明は点けませんが」(占野さん)
愛でているやかん学生のころからたくさんの作家さんの作品と出会い、個展へ足を運び、お気に入りの暮らしの道具を迎え入れてきた占野さん。
コーヒーカップやドリップポット、コーヒーメジャー、器など、見るからに一つ一つ丁寧に時間をかけて作られてきたものだとわかります。
その中でもお気に入りなのは、ドリップするために使うお湯を沸かす「やかん」でした。
「何と言っても、理由なしにこのフォルムがたまらないんです。
中村友美(なかむら ゆみ)さんという金工作家さんが手掛けたやかんで、銅でできたものなんです。
鍛金といって、一枚板を細かく叩いて作られていますね。
あと、おもしろいのが色が変わるところなんですよ。毎日愛でているからかツヤが出ました(笑)」(占野さん)
そんなやかんとの出会いは意外にも、私たちの実生活の中で身近に感じる手段からでした。
「ちょうど、かっこいいやかんが欲しいな、と思っているときにネットでって調べてたんですよ。
そしたら、このやかんが出てきて。中村さんのInstagramを検索するといろんな作品が見れて、『めっちゃかっこいいじゃん』って思いましたね(笑)
とても愛着が湧いている大切なやかんだから、もし災害が起きたら迷わずこのやかんを抱えていきます」(占野さん)
一生使うと決めたドリップポット占野さんのコーヒーの味を決めるといっても過言ではないほど大切な工程であるドリップ。
注ぎ口が細ければコントロールはしやすいものだ、なんて思っていましたが、占野さんの話をきくと素人すぎる考えに恥じらいを感じます。このこだわり、さすがプロです。
「このドリップポット、ドリップするときの水のキレがいいんです。
やかんで沸かしたお湯をドリップポットに移して温度を調整してからドリップするんですけど、僕はドリップするとき、一滴一滴大切にトントントントン……とお湯を出していくんですよ。
こうやって淹れていくと自分の出したい味になるから。
この絶妙なお湯の量をコントロールできるドリップポットになかなか出会えなかったんですけど、ようやく出会えました。
他のものとは注ぎ口から違うので、もうこれじゃないとダメです」(占野さん)
暮らしのアイデア
対島で拾ってきた流木をDIYベッド付近の照明を吊るしていた流木は、よく見ると部屋の至る所で活用されていました。
キッチンの調味料を置いている棚や学生時代にソファ代わりとして使っていた腰掛も、照明に使っていた流木と同様、拾ってきた流木なんです。
一体どうやって対島から運んできたのでしょうか。
「ねこ車(荷車)に木をのせて、山を通って運んでくるんです。
自分が住んでいる家まではヤマトの配送とかでお願いするんですけど、送料が8,000円くらいかかります(笑)
しかも配送員のお兄さんにも『何に使うんですか』みたいに聞かれちゃって(笑)」(占野さん)
ソファ代わりに使っていた流木は、曲がっている部分がちょうどフィットするんだそう。
そこまでして、納得のいく流木を探してくる占野さんにこちらも脱帽です。
棚の下は筋トレアイテムで重さを出す大切なマグカップたちが置かれた棚。
もし災害があったら……と考えると冷汗が出てしまいますが、一番下の段を見るなんとダンベルが置かれていました。
下段に重いモノを乗せてあげることで、棚が倒れてしまうことを防げるという理にかなった工夫が見られました。
ぜひ、参考にさせてもらいたいポイントですね。
部屋の統一感を保つために漫画は引き出しに収納古家具に合わせた温かみのある渋いトーンのインテリアでまとめられたこの部屋では、カラフルな色合いが多い漫画は引き出し式の収納棚に収納。
娯楽アイテムでさえ、部屋の統一感を守るために収納してしまうこの抜かりない姿、さすがです。
これからの暮らし
「自分の珈琲屋をオープンさせる」のを学生時代から目標としてきた占野さん。
現在は自分で焙煎した豆をオンラインショップで販売するための準備をしています。
そしてこの1年以内に実店舗オープンも予定しているほど、目標とする地点はすぐそこまで来ています。
ようやく夢が現実になろうとしている今、ご自身のこれからの暮らしについて、占野さんが焙煎したコーヒー豆をドリップしてもらいながら伺いました。
「もしここから引っ越すとしたら、部屋の中は今よりもずっとシンプルにしたいです。
なんなら、住居兼お店にしたいですね。色んな出費も抑えたいですし。
本当のところは、2~3年東京でお店をやって、ある程度豆の販売だけで生活できるくらいになったら、山の中で暮らしたいです。
自然に囲まれたいんですよね。
人と離れた山の中でのびのびと子育てとかしたいです。
たぶん、これからドローン配送とか自動運転の技術とか、いろんな技術が発達していくだろうから、山の中での暮らしも現実的になってくると思うんですよね」(占野さん)
若いながらも、近い将来と遠い将来のことをしっかりと考えていた占野さん。
自分のやりたいことに向かって少しずつ着実に進んでいくその姿から、自然とこちらもいい影響を受けたような気がします。
そして、今現在のこのお部屋でディスプレイされているアイテムたちが、どのようにお店で使われていくのか、ますます占野さんの手掛けるお店が楽しみになりました。
Photographed by Kosumo Hashimoto
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