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「土に始まり、土に終わる」
コメ0 草の根広告社 43ヶ月前
娘を保育園に送った足で車で五分ほどのところにある子安の里山へ行く。夏野菜の準備だ。夢中になると時間を忘れてしまうのでアルバム一枚分と決めている。誰もいない畑でマスクを外し、音楽と鳥の囀りを聴きながら無心で汗を流していると気持ちが前向きになっていく。
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「カラダがくれたプレゼント」
コメ0 草の根広告社 43ヶ月前
いつものように保育園に迎えに行くと、おもむろに僕の手を掴んで「パパ来て」と鉄棒へと連れて行かれた。なんだろう、と見守っていると「みてて」とやってくれたのは、逆上がりだった。
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「げんきなおやすみ」
コメ0 草の根広告社 44ヶ月前
しくじった。菜園が塩害でやられた。前夜の暴風雨と朝からの初夏の陽射しで収穫間近のスナップエンドウなんかが一部枯れ始めていた。強い陽射しを受ける前に水で洗い流しにこなければいけなかったのに。 「しくじったぁ」と大きな声で叫んでいた。悔恨の情が誰もいない里山にこだまする。悔しいなぁ。切ないなぁ。「あ...
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「忘れ得ぬ日々が支えてくれる」
コメ0 草の根広告社 44ヶ月前
僕自身は誰かに管理されることに抵抗感の強い子どもだった。行進が嫌いでいつも少しだけ列をはみ出して歩いた。先生の号令の下で一致団結しているクラスメートたちをひとりだけ冷たい目で見ていた。通知表には毎年「協調性がない」と書かれ続けた。
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「見ることと観察すること、会話することと対話すること」
コメ2 草の根広告社 44ヶ月前
「君は見ているが、観察していない」という名探偵ホームズの言葉が『絵を見る技術』という書籍に引用されていた。絵画もまた漫然と見るのではなく、ある程度の知識をもって見つめることで多くの情報と洞察が得られる、という目から鱗のような話だった。同時にとても腑に落ちる話でもあった。絵画はともかく、子どもに関...
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「僕は誰に謝っているんだろう」
コメ0 草の根広告社 44ヶ月前
一年前の春、この海辺の町ではマスク姿で歩いている人はまだ少なかった。マスクが品薄だったこともあったのかもしれないけれど、そもそもコロナ以前から人通りが少なかったからする必要がなかったのかもしれない。それが一年経った今はどうだろう。大して人が増えたわけではないのに、マスクをしていない人はひとりも...
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「わからなかったことがわかるようになるということ」
コメ2 草の根広告社 44ヶ月前
じかんが知りたいの、とある朝、娘が言った。 そろそろ子どもも読める時計を用意しなくちゃね、と妻と話し合った。 じかんがわかったよ、と保育園から帰ってきた娘が言った。先生に訊いたら教えてくれたのだという。
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「おともだちと同じものが欲しい」
コメ0 草の根広告社 45ヶ月前
「ティッシュをいれるポーチがいるの、ズボンにつけるやつ」 朝、娘が唐突にそんなことを言い始めた。しまいには先生が持ってきて下さいと言っているとまで言い始めた。「本当に? 先生に聞いてもいい?」 妻の言葉に口籠もる。なんてことはない。友達がズボンにつけていたポケットポーチと同じものが欲しかっただけだ。
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「都会のジャングルジム」
コメ0 草の根広告社 45ヶ月前
初めて行った都会の公園で、娘が初めてジャングルジムに挑んでいた。次はどこに足を掛け、どこを掴んで這い上がるか。一工程終えるたびに「ふう」と息をついて休みながら思考を巡らせている。年上の子どもたちが俊敏な猿のような身のこなしで背後から次々に娘を追い越して昇っていく。ひとまわり体の小さい娘の姿など...
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「彼女はここから自転していく」
コメ2 草の根広告社 46ヶ月前
冬晴れの午後、補助輪のついた自転車が納車された。「明日から天気が悪いみたいなので一日早く持ってきちゃいました」 自転車屋のおじさんがそう言って笑った。白か、赤か、紫か、それとも水色か。迷い続けた娘に根気よくつきあってくれた。ぼくも妻もあえてなんの助言もしなかった。娘が自分で決めるのをひたすら待...
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「二〇三〇年の大寒も」
コメ0 草の根広告社 47ヶ月前
海からの冷気が強い朝だった。車のハンドルも凍えている。分厚い手袋をしていても手が悴む。カーラジオが二十四節気の一つ「大寒」を告げる。人間が狂わせたと言われている地球環境の時計が正確なことに安堵した。
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「人生の可能性を拡げてくれるものは何か」
コメ0 草の根広告社 47ヶ月前
「パパ、うしろがまわってるトラックはタンクローリーじゃなくてミキサー車なんだよ」 後部座席で車窓を見つめていた娘が唐突に言った。
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「半径二㎞圏内の大宇宙」
コメ0 草の根広告社 47ヶ月前
緊急事態宣言という非日常下。気がつくと行動範囲を半径二キロ圏内に縮小していた。海と菜園のある里山と丘の上の公園と保育園。それと買い物に行く鮮魚店と精肉店と酒屋と養鶏場。すべてが半径二㎞圏内に収まっている。その圏内を娘と散歩をしていて気づいた。それがこの海辺の町で生まれた四歳の娘にとっては日常の...
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「行き場のないありがとうを」
コメ0 草の根広告社 47ヶ月前
「クリスマスにサンタクロースからプレゼントを貰う人もいるけど、貰っていない人もいるんだよ。ちなみにパパは子どものとき、悪い子じゃなかったけど、一度もサンタにプレゼントを貰ったことはないよ。でも、それを悲しいと思ったこともないよ。プレゼントを貰わないのがパパの当たり前だったからね」
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「サンタクロースの長い影」
コメ0 草の根広告社 47ヶ月前
サンタクロースを信じていない子どもだった。枕元に靴下を置いたこともなければ、目が覚めたらプレゼントが置かれていたこともない。かといってそれを淋しいと感じた記憶もない。醒めていたのだろう。物心ついた頃から同世代の子どもたちを「ガキだな」と鼻で笑っていたくらいなのだから。