妻が認知症で介護棟に移ってから四カ月になる。症状には波があり、一時、食事を拒否するようになった。施設の人から「ご主人の手からだったら食べるかもしれません」と言われて食事の介助をした。
「食べる」ことは(1)口を開ける(2)噛む(3)呑み込む、の三段階からなる大仕事だ。その一つ一つを妻が成し遂げるのを祈るような気持ちで見守るのも重労働だ。
 それでも妻は何とか食べるようになってくれた。やはりわたしがついていないとダメなのだ。自分の力に自信を深めかけたが、すぐに疑いが芽生えた。 
週刊文春デジタル