週刊文春デジタル
自前の着物を用意する必要のある仕事が決まった時、それは嬉しそうに母が着物や帯を選んでくれた。熟考の末選ばれたのは母が結婚したときに仕立てた浅葱色の訪問着に真珠箔が輝く花七宝の袋帯。後日その写真を見てくれた多くの先輩方に褒めていただき、こそばゆいやら誇らしいやら。約三十年前に母が着たものを、成長した私が身に纏えるなんて、なんだか不思議で気づけば背筋が伸びるのを感じた。『銀太郎さんお頼み申す』を読んでいると、あの時の気持ちが蘇る。もっと着たい、もっと知りたい。だって、着物に身を包んだ自分はいつもよりずっと素敵に思えるんだもの!