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プロパガンダを見抜くには「ジレンマ」に注目せよ。|奥山真司の地政学講座|SJ
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プロパガンダを見抜くには「ジレンマ」に注目せよ。|奥山真司の地政学講座|SJ

2013-11-01 17:40

    プロパガンダを見抜くには「ジレンマ」に注目せよ。

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    おくやまです。
    
    最近、私のブログなどでも「韓国の怪しい世界観」について
    色々と述べてきましたが、今回はもっと根本的な問題として、
    あらゆる政治や政治家につきものの、
    
    「単純化されたキーワードvs複雑な現実」
    
    という強烈な「ジレンマ」について説明してみたいと思います。
    
    これを知っていれば、われわれは政治家やメディア、
    それに他国のプロパガンダにも騙されなくなります。
    
    -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:--:-:-:-:-
    
    まずあなたが政治家になったとして、メディアの注目を集め、
    大衆を動員して政治を動かそうとするならば、
    (その善悪はさておき)まず身に付けなければならないスキルの1つは、
    ものごとを「単純化」して人々に訴える能力です。
    
    ごく一部の政治家を除き、ほとんどの政治家というのは
    内政における(専門家とは反対の意味での)「ジェネラリスト」の代表選手でして、
    有権者=国民の声を聞いて、それを政策に反映させるなり、
    自分の思う政策を自国民にたいして訴えかける、
    という作業を常日頃からやるわけです。
    
    とくに後者の場合で、大きく国民大衆を1つの方向に動かそうとした場合、
    政治家は複雑なものごとを、「単純化」したキーワードなどを使って注目を引き
    (たとえば「郵政民営化」とか「脱原発」などのような)、
    それを合言葉として政治を動かさなければならないわけです。
    
    そうは言っても、実際の現実というのは
    「単純化」されたキーワードで理解できないほど複雑です。
    いいかえれば、すべての「単純化」はエラーを含むことになり、
    識者や対立する反対意見を持つ側から
    ツッコミを入れられる危険にさらされてしまうわけです。
    
    しかし、だからといって、政治家が問題を「複雑なまま」説明しようとしても、
    大衆や有権者は動いてくれないことのほうが多いわけです。
    
    くどいようですが、それが良い悪いに関係なく、
    ここに政治家、そして政治そのものの本質が抱える、
    強烈なジレンマがあります。
    
    それは、複雑な現実の姿をねじ曲げても、
    政治にたいして影響力を発揮しようとすれば、
    常に「単純化」しなければならない、ということです
    
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    以上のようなことは、実は学問の分野でも言えます
    
    たとえば1960年代に行われた、
    国際政治のある伝説的なカンファレンスの席上で、
    ヘドリー・ブル(Hedley Bull)という有名なイギリスの学者が、
    これまた超有名な元祖リアリストである
    ハンス・モーゲンソー(Hans J. Morgenthau)
    に対して言い放った言葉が、
    
    「モーゲンソーの国際政治の見方は、本当に単純だなぁ!」
    
    というものでした。
    
    批判されたほうのモーゲンソーは、
    「複雑な(国際政治の)現実」というものを
    「パワー」というシンプルな概念から見ることを提唱して
    有名になった人物です。
    
    ※ちなみに彼の主著である『国際政治:権力と平和』
    ( http://goo.gl/gtCRpL )は、
    最近になって非常に読みやすい邦訳版が出ました。オススメです。
    
    しかし実際のところ、モーゲンソー自身も
    国際政治における極めて「複雑な現実」というものを
    十分に認識しているわけで、ブルの批判が厳密な意味で
    そこまで当てはまるのかというと、どうも微妙なところがあります。
    
    ですが、ブルは国際政治の「複雑な現実」を
    「単純化」してモデル化した、
    モーゲンソーを批判したという意味では、
    学問的には正しいわけです。
    
    物事を理解するためには、学問の世界であっても
    ある程度の「単純化」(モデル化)が必要であり、
    それを上手く出来た人間が、学者の中でも有名になっていく
    という構造は、現実的には存在します。
    
    このような「単純化」の問題というのは、
    私の専門である「(古典)地政学」でも、同様に存在します。
    
    たとえば、マッキンダーは、
    「シーパワーvsランドパワー」のようなシンプルな概念で
    グローバルな戦略状況を説明・概念化してきたわけです。
    
    ところが逆の立場である「批判地政学」の人々は、
    このような「単純化」された概念を「地政学コード」と呼んで、
    色々とツッコミを入れるための研究をするわけです。
    
    とくに彼らの「(古典)地政学」へのツッコミで必ず使われる言葉は、
    
    「複雑な世界政治の現象を、あまりにも単純化しすぎている」
    
    というものです。
    
    ここでも良きにつけ悪しきにつけ、
    「単純化されたキーワード VS 複雑な現実」
    という対立構図が存在するわけです。
    
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    さて、わたしが視るところ、この問題は、
    どうやら、いわゆる「メディア」においても、
    同様に存在するようです。
    
    例えば、テレビ番組などで、
    やらせ問題などが絶対になくならないのは、
    視聴者側と製作者の双方が、
    「単純化」された話を求める部分があるからです。
    
    もちろん実際の「複雑な現実」というのは、
    1フレーズや1カットで説明できるものではありません。
    
    そこを、メディア側は
    「視聴者に理解してもらうためには単純化が必要だ」
    と考えて、(そして、自らのコンテンツを売るために)、
    あえてわかりやすいものを作ろうとしてしまうわけです。
    
    しかし、「複雑な現実」という事実は変わりませんから、
    その点を相変わらずツッコまれもするわけですが、
    かと言って、それを「複雑なまま」説明したところで
    そもそも、視聴者から理解されるわけもなく、
    当然、メッセージが正確に伝わることもありません。
    
    ここに強烈なジレンマが残るわけです。
    
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    最近メディアを賑わせている
    「アベノミクス」、「三本の矢」、「ブラック企業」
    などといった"フレーズ"にも端的に現れているように、
    「複雑な現実」の「単純化」している事象は、
    そういう意識を持って視てみると、
    私たちの身近にもたくさんある、ということは、
    読者の皆さんもご納得頂けるのではないでしょうか?
    
    「単純なキーワード」と「複雑な現実」というジレンマ。
    
    私たちが、メディアを通じて、
    政治家の言動や、国際情勢に触れる際には、
    この「ジレンマ」が存在している・・・
    ということをを常に意識しておく必要があるのです。
    
    このジレンマさえ認識していれば、
    われわれは政治家やメディア、
    それにブロガーや学者などに簡単に騙されなくなりますし、
    逆にわれわれが人を動かしてコントロールしようとする際の
    大きな「助け」になる可能性もあります。
    
    もちろんそれを「悪用」されては困るわけですが・・・・
    
    ※今回の内容については、
      以前、私のブログでも考察しておりますで、ご参照下さい。
     
     ▼リーダーたちのジレンマ
      http://geopoli.exblog.jp/19555496/
    
    (おくやま)
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