おくやまです。
毎週火曜日の放送では、日本のメディアでは注目度の低いニュースも
あえてとりあげています。
たとえば前回の放送では、
ISがなぜ積極的に西洋社会から非難される
「性奴隷」をあえて活用しているのかという話や、
なぜ南アフリカでの原人発見のニュースが
現地の住民たちにあまり歓迎されていないのか、
という話題をとりあげました。
これらはハッキリ言って、日本の大手メディアは
ほとんどスルーしている話題だと思います。
ところが番組では、あえてこのような問題を取り上げております。
なぜかというと、国際政治、
とりわけ地政学を勉強してきた身である自分としては、
このような話題に対する受け取り側のリアクションが、
なにげにそのニュースが出た場所からの「距離感」によって変化する
と感じることが多いからです。
「距離感」とはあいまいな、と感じるかたもいるでしょうが、
これは国際政治における戦略的な関係を見る場合に
非常に重要になってきます。
そのわかりやすい例が、アメリカにとっての中国の対応。
現在この原稿を書いている時点で、
中国の習近平国家主席が訪米している真っ最中ですが、
オバマ政権は日本の安倍政権よりも
南シナ海などの安全保障関連では、
やや腰の引けた対応しかできておりません。
もちろん米国と中国の密接な経済関係があるからだ、
という説明には一理あると思います。
ところがそこには米国と中国が、
太平洋をはさんで遠く離れて位置している
ということも関係してくるわけです。
つまり、隣の中国の圧力を感じている日本と比較すると、
やはり米国の中国に対する「距離感」というのは
遠いところに位置しているわけです。
冒頭で紹介した、ISに幻滅して逃げてきた
若者たちの概況についてのニュースも同じ構造です。
たとえばISに関するニュースは、
ロンドン発のものが多いわけですが、
それはイギリスが伝統的に
中東情報に左右される利害関係を持っているだけでなく、
実際に移民も多数いて、自分たち国から
ISにリクルートされる若者も多いからです。
そしてそれは、ごく単純に言って「距離の近さ」、
つまり地理的な要素が大きな影響を与えているわけです。
日本も中東から驚くほど大量の原油を買っているわけですが、
実際に地理的に距離が離れているため、
どうしてもこの地域の話題には「距離感」を感じてしまうわけです。
そしてこのような地理が、
ある国民の集団的な心理感覚に与える影響を重視するというのも、
実は近年の地政学の研究のひとつのアプローチでもあるわけです。
われわれはこのような国際政治における
地理的な要素の重要性について、もう少し敏感になるべきなのです。
( おくやま )