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【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第25回】
2014-01-07 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
ついに灼熱の溶岩フロアが終わり、次に現れたのは、砂漠だった。
砂漠。砂漠かー。そうきたか。
ひん曲がったサボテン、枯れた井戸、申し訳程度の湧き水。
そういえばしばらく何も飲んでない。暑いフロアばっかりで干からびそうだ。
「そこの水は飲めないぜ! 飲料水は一階で買わせるつもりなんだろうな」
湧き水に手を伸ばした僕をヨコリンが制す。お前はまだついてくるのか。一体どこまでついてくるんだ。
たまに忘れそうになるが、ここはあくまで酒場だ。酒場の一階から階段を登ってきただけなのだ。ドレアさんの設計のセンスもそうだが、こんな破天荒な部屋を恐ろしいペースで増築し続ける施工業者も異常である。どこの誰だか知りませんがいい仕事してますね。工事の音も未だに聞こえるから、最上階まではまだあるらしい。一体いつになったら最上階に着くんだ。もういいや、考え出したらキリ -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第24回】
2014-01-04 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
アダンが倒れるのと同時に、リュシカがアダンの名前を呼びながら、アダンのもとに駆け寄っていく。勝ち負けよりも、アダンの無事を心から願っているように見えた。必死でアダンを介抱する姿は、まるで聖母のようだと思った。
僕は、勝ったのだ。
やった……
僕にも、できた。やればできる。できるんだな。
「よい勝負だった」
急に話しかけられてビクッと体を震わせる僕。見ると、バルトロが僕の方にゆっくり近づいてきていた。もう力の入らない体で、慌てて銅の剣を構え直そうとする僕をバルトロが落ち着いて制した。
「大丈夫だ。お前と戦うつもりはない。それがアダンの望みだからな」
バルトロは、義理と人情を大事にする男らしかった。ここで手負いの僕を倒してもどうしようもない。それどころか、アダンと僕の誇りをかけた一戦を汚す事になってしまう。そんなことはできないし、したくもな -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第23回】
2014-01-02 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
7章 ここで立ち止まるわけにはいかない
目が覚めると、灼熱の溶岩フロアだった。
戻ってきた。僕は戻ってきた。アダンとバルトロとリュシカもいる。
「おいアダン。あいつ、まだ立ち上がってくるぞ」
バルトロが僕に気づき、アダンに言う。
「……しぶとい奴だな」
おそらくだが、僕が死んでいたのは時間にしてわずか数秒だったらしい。アダンもバルトロもリュシカも、僕が精神的ショックで死ぬ前とほぼ変わらない位置にいた。走馬灯は数秒でたくさんの景色を見せるそうだから、そう思えば納得だ。
「てっきり死んだと思ってたんだが……まだやるか?」
アダンがヒロイックブレイドをこちらに向けて、勝ち誇った目で言う。
僕は体を起こして、自分の両足で、しっかり立ち上がった。倒れた時に散乱した荷物の中から銅の剣を取り出し、構える。まっすぐにアダンを見据えて。凛とした気持 -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第22回】
2013-12-31 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
僕は、いじめられていたのだ。
どうしていじめられていたのかも想像がつく。僕が勇者だったからだ。子供というのは残酷なもので、自分と違うものや特に目をひくものを、面白がっていたぶる事がある。本人たちには悪いことをしているという自覚がない場合もある。悪いとわかっているけど、やってしまうこともある。そんな中、大して腕っぷしが強いわけでもないのに、生まれた時から「勇者」という肩書きを持っていた僕は格好の餌食だったろう。いじめられる要素がありすぎた。
アダンにやられてショックで死んだ後、さらに頭に石入りの泥だんごをぶつけられて意識が朦朧としている。踏んだり蹴ったりだ。はっきり痛みも感じる。頭の中がぐわんぐわん揺れる。痛い。なんで走馬灯なのに痛いのか。話が違うじゃないですか。聞いてない。聞いてない。
草原に体を横たえて身悶える僕の前に、誰かが、現れた。
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【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第21回】
2013-12-28 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
6章 あの木の下まで競争な
どこだろう。ここは。
目の前に広がっていたのは、草原だった。
大きな木が一本だけ生えている。遠くの方から、子供たちの声が聞こえる。
これは夢か。死後の世界には川があると聞いていたけど、草原もあるのか。
それともここはエデンなのか。
僕が心のどこかで帰りたいと願っていたエデンなのだろうか。
エデンとアダンって語感が似てるよね。
アダンとアダンの戦士たち。すみません言ってみただけです。
せっかくアダンとの戦闘では生き残ったのにショックで死んでしまいました。まったくいいところなしの僕ですが、それも仕方がないのかもしれません。僕は勇者にはふさわしくなかったようです。今まで腐った死体だの人ゴミだのさんざん言ってきました。あれはあくまで比喩で言ってたつもりだったんですが、僕はどうやらそのまんまの人物だったよう -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第20回】
2013-12-26 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
「バルトロ、リュシカ、下がってろ。こいつは俺一人でやる」
アダンがそう言った。
「勇者ともあろうものが、三対一で戦うわけにはいかないだろう。下がれ」
アダンの言葉に頷いて、バルトロとリュシカが壁際まで下がる。
しめた。やっぱりこいつくそ真面目だ。一対一なら勝てるかもしれない。何しろこっちにはドレアさんから譲り受けた先祖代々伝わる勇者の証、ヒロイックブレイドがある。今まで使っていた銅の剣とは段違いの攻撃力、そして剣に乗った様々な人々の思いが、きっと僕を強くする。そうだ、僕がやらなきゃ。負けられない。負けるわけにはいかないんだ。
アダンが剣を抜き、僕の方をまっすぐ見据えて構える。
そんなアダンの様子を見て、僕もヒロイックブレイドを握りしめ、息を飲む。
お前はニセモノだ。僕がホンモノの勇者だ。
「否定する奴は、説得しちまえ!」
そうだよなヨ -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第19回】
2013-12-24 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
階段の上も、燃えさかる灼熱のフロアが続いていた。ゆっくり流れ出す溶岩の熱気が、僕の胸の中をそのまま映しているように思えた。絶対に勝つ。
そのフロアには、三人の冒険者がいた。立派な鎧を身に着けた筋骨隆々の男、真っ白なローブを着た神々しい女性、そして。僕よりも勇者らしい出で立ちの、ニセ勇者。
「お前が勇者だな」
歳は僕と同じくらいだろうか。
笑顔が素敵。かっこいい。甘い声。凛々しい。命をかけたっていいと思える。
今までに聞いたニセ勇者の噂がひとつひとつ頭の中に浮かんで消える。僕とはまったく違うタイプの人間であることは一瞬で見てとれた。まだニセ勇者は一言しかしゃべっていないというのに、その雰囲気やたたずまいから、僕は「噂通りの人物だ」と直感的に思った。
「俺はアダン。俺とお前、どっちが勇者にふさわしいか勝負しよう」
名乗ったと思ったら二言めで -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第18回】
2013-12-21 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
灼熱のフロアで出会った男賢者ニーチェは、賢者なのにギャンブルが辞められず、人生が破滅に向かっている打たれ弱いエリートだった。「今月も生活費がなくなる、頼むお金を貸してくれ」と捨てられた子犬のような目でぺこぺこ頭を下げるニーチェには「めをさませ」という呪文が心に響いた。目を覚ませという言葉は「寝坊だ!」という時にも使うが「しっかりしろ!」という時にも使う。どちらも夢を見ているのだ。
ニーチェと同じフロアにぱふぱふ娘のポーラがいたのだが、まずぱふぱふ娘って何だよ。そこから驚きが隠せなかった。どんな仕事なのかはご想像にお任せするし多分ご想像通りで合っているのだが、このポーラという人、ギャンブラーを心から毛嫌いしている女性で「ギャンブルで全財産をスッたバカな人の気持ちってどんなの?」とニーチェに話しかけていた。なんでこんな相性最悪の二人が同じ階にいるの -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第17回】
2013-12-19 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
「おい! おいおいおい! 落ち着けオマエ! いくらやってもムダだぜ!」
心臓が破裂しそうなほど全力で走っても、フェイントをかけても、ヨコリンがものすごいスピードであっさり僕に追いついて行く手を阻む。酒場の入口までほんの2メートルほどしかないのに、今はその2メートルが気が遠くなるほどの距離に感じた。頼む出してくれ。ここから出してくれ。もういいだろ。僕はちゃんと勧誘したんだ。なのになんでこんな目に。どうして僕がこんな目に。変なゴブリンにまとわりつかれて、酒場はどんどん増築されて、いつまで経っても終わらない。旅立てない。負のスパイラル、無限ループ。その上今度は僕よりも勇者らしいニセモノの勇者だって? はは、勘弁してよ。厄日か。大殺界か。悪い夢でも見ているような気分だった。夢なら覚めてよお願いだから。あれ? 雨かな? ああ……すごい雨だな……ちょっとこっ -
【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第16回】
2013-12-17 00:00【 はじめから よむ (第1回へ) 】
最初にその噂を聞いたのは、リリカという女遊び人からだった。リリカは僕の顔や体をじろじろ舐め回すように見たあと、こんなことを言ったのだ。
「最近、ニセモノの勇者が出るんだって。あなたはホンモノ?」
僕は「もちろんだよ」という呪文を即答した。この時は本当に心から「もちろんだよ」と言えたので、リリカには無事信じてもらえたようだった。
たくさんの冒険者を勧誘してきて気づいたことだが、呪文の威力は思いの強さに比例して大きくなるらしい。相手の目を見据えて真剣に言う「愛してる」と、鼻くそをほじりながら言う「愛してる」では伝わる気持ちがまったく違うのと同じことだ。上っ面の言葉では相手の心に響かない。心を込めて言う必要がある。「仕事のことで頭がいっぱいで、ずっと空返事をしていたら嫁に逃げられた」と言っていた冒険者がどこかにいたが、つまりそういうことだ。空っぽの
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