マル激!メールマガジン 2016年7月6日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第795回(2016年7月2日)
イギリスのEU離脱で世界はこう変わる
ゲスト:遠藤乾氏(北海道大学大学院教授)
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イギリスの国民投票によるEU離脱は、世界の民主主義の在り方を根底から変えるかもしれない。世界5位の経済規模を持つイギリスが、長い歴史を経てようやく統合を果たしたEU市場から離脱することの市場への影響や経済的な損失は当然大きい。また、それがEUの将来に暗雲を投げかけていることも確かだろう。
しかし、もしかすると今回のイギリスのEU離脱、とりわけ国民投票という直接民主主義による意思決定は、これから世界の民主主義が根底から変質していく上での大きな分水嶺として、歴史に刻まれることになるかもしれない。グローバル化が進み、世界中で貧富の差が拡がる中、これまで民主主義と一体になって進んできた資本主義の原則を優先する政治に不満を持つ人の数が増えている。そのような状況の下で国民投票のような直接民主主義的な意見集約を行えば、数に勝る貧困層の意見が優勢になるのは時間の問題だった。
EUやイギリスの政治史に詳しく、今回の国民投票を現地で調査してきた国際政治学者の遠藤乾・北海道大学大学院教授は、EUに主権を握られていることに対するイギリス国民の不満が予想した以上に強かったと指摘する。今回の国民投票結果の背後には移民に対する不満があることは広く指摘されているが、これは現在のイギリス政府が好き好んで積極的に移民を受け入れているのではない。EUに加盟している以上、域内の人の移動の自由を保障しなければならないというEU縛りがあるのだ。
元々EUは発足当初から、加盟国の主権を部分的に制限してでも、統一した市場を維持することが、アメリカや他の地域に対してヨーロッパ諸国が優位に立つことを可能にし、結果的にそれが各国の利益に繋がるという前提があった。しかし、その後、旧東欧諸国の多くがEUに加わり、今やその数は28カ国にまで拡大。加盟国間の格差は広がり、イギリスにもポーランドやリトアニアなどの旧共産圏の国から大量の移民が流れ込むようになった。
アメリカでは、メキシコ移民に対する不満をぶちまけることで白人労働者層の支持を集めた不動産王のドナルド・トランプが、共和党の大統領候補になることが確定しているが、その支持層は今回のイギリスの国民投票でEU離脱を選んだ層と多くの点で共通している。
イギリスのEU離脱という選択がわれわれに突きつける課題について、ゲストの遠藤乾氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・イギリスの“潮目”はいつ変わったか
・主権を求めるイングランドナショナリズムと、大陸寄りのスコットランド
・統治を広げながら、“国民”をつなぐロジックのないEU
・不可避のグローバル化と、続くトリレンマ
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■イギリスの“潮目”はいつ変わったか
神保: 今回のテーマは「ブレグジット(Brexit/イギリスの離脱)」です。翌日にはブレグジットが「ブレグレット(Bregret/イギリスの後悔)」になったり、市場も大きく動いたりと忙しかったのですが、それがある程度落ち着いてきたら、現金なもので、世の中的には半分、忘れられたような感じになっていきます。しかし、おそらくこの影響は経済にとどまらない可能性がある。宮台さん、最初に注目点を伺えますか。
宮台: マル激でも繰り返し申し上げてきたことですが、近代社会はどうもうまくいかないらしい、ということが20年くらい前から段々わかってきました。近代主義国家は、主権国家と資本主義、そして民主主義のトリアーデ(三つで一組のもの)です。ところが、グローバル化が進むと主権国家の主権制と、資本主義の間にさまざまな矛盾が出てくることが判明した。逆にいえば、かつてはグローバル化が進んでいなかったために、例えば先進国の連中は社会がうまく回っていると思えたわけです。