マル激!メールマガジン 2019年12月4日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第973回(2019年11月30日)
5金スペシャル映画特集
映画が描く「絶望」の質が変わってきているのはなぜか
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 月の5回目の金曜日に特別企画を無料放送でお送りする5金スペシャル。今回は定番となった映画特集をお送りする。
 今回とりあげた映画は宮台真司が選んだ『解放区』『よこがお』『ジョーカー』『アナイアレイション』の4作品。
 『解放区』は新進気鋭の太田信吾監督による初の長編劇映画で、半人前のドキュメンタリー作家がさしたる計画もないままいきなり大阪・西成のドヤ街に飛び込んで取材を始めた結果、そこに巣くう数々の闇に引き込まれていく様を描いた衝撃作品。大阪市からの助成金の返還を余儀なくされたことでも話題となった。
 『よこがお』は『淵に立つ』『海を駆ける』の深田晃司監督による社会の不条理ぶりを問う作品で、訪問看護婦の主人公が理不尽な理由から自分の人生が破滅へと追い込まれていく様が描かれている。
 『ジョーカー』はこれまでハングオーバーシリーズなど娯楽作品を手掛けてきたトッド・フィリップス監督による話題作で日本でも広く劇場公開されているが、ホアキン・フェニックス演じる寂しい中年男が、本来は悪人ではないにもかかわらず偶然の出来事をきっかけに悪のカリスマへと変貌していく。その様は、善人と悪人を分かつ線が非常に脆弱であると同時に、実は単なる偶然の産物に過ぎないことを痛感させる。
 『アナイアレイション』は『ザ・ビーチ』や『エキス・マキナ』のアレックス・ガーランド監督によるネットフリックス配信の作品でベストセラーとなったSF小説『サザーン・リーチ』を実写映画化したもの。主演のナタリー・ポートマン演じる生物学者が突如出現したエリアXという未知の空間に足を踏み入れると、そこではこの世の終わりを予言させる現象が展開されていた。この作品にはこの世の終わりが描かれているにもかかわらず、それをありきたりの恐怖感や絶望感をもって迎えるのではなく、「それもありかも」と思わせるような問題提起が行われている。
 長らく映画は善玉と悪玉を明確に識別可能な状態を作った上で、最後は必ず善が勝利する勧善懲悪ものが基本だった。また、この世の終わりというのも、悲惨で悲しいものとして描かれてきた。しかし、ここに取り上げた作品に共通して言えることは、善と悪などそう簡単に識別できるものではないし、割りきれるものではないということではないか。それでもその中で人々は生きていかなければならないし、人類も生態系も地球もその矛盾の中で存在し続ける。そうした矛盾した不条理な世界との向き合い方を考える上で、今回の4作品はさまざまなヒントを提供してくれているのではないだろうか。
 なぜ今、善悪やこの世の終わりとの向き合い方が変わってきているのかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・助成打ち切りの衝撃作『解放区』と、社会の脆さを描いた『よこがお』
・鋭い社会批評としての『ジョーカー』
・終末論的映画『アナイアレイション』と『メランコリア』の共通点
・「絶望」が足りないから、人はクズになる
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■助成打ち切りの衝撃作『解放区』と、社会の脆さを描いた『よこがお』

神保: 今日は11月29日で5回目の金曜日、今年最後となる無料放送回の「5金」です。今回も普通の映画特集ではなく、宮台さんがピックアップしたちょっと面白い作品をご紹介したいと思います。ネタバレありなのでご注意ください。