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マル激!メールマガジン 2021年1月27日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1033回)
バイデン新政権の真の課題は単なる脱トランプではない
ゲスト:会田弘継氏(関西大学客員教授・ジャーナリスト)
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1月20日、トランプ大統領がメラニア夫人と共に大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」に乗り込みホワイトハウスを去った。ヘリが飛び立った瞬間、世界のメディアが集結するホワイトハウスのメディアルームでは歓声があがったという。
確かに大変な4年間だった。マル激では「トランプが去ってもトランプ現象は終わらない」ことは繰り返し解説してきたが、それでも自身の価値観が「真空」であるがゆえに、政治的に有利になるネタは理念を超越してどんな荒唐無稽なものでも取り込んでしまう人物が世界一の大国アメリカの最高権力者の座に4年間も君臨すれば、その影響は計り知れない。それを一番身近で痛感してきたホワイトハウス詰めの記者たちの安堵感は想像に難くない。
しかし、大統領就任式でもっとも注目されたのは新大統領でもレディ・ガガでも、ジェイロー(女優のジェニファー・ロペス)でもなく、ラフな茶色いアウトドアパーカーを着て、毛糸のミトン手袋をして来賓席に一人ぽつんと座っていた一人の老人だった。
他でもないバーニー・サンダース上院議員だ。サンダースはバイデンと民主党の大統領公認候補選びを最後まで争ったことで知られる。しかし、この日サンダースが注目されたのは、毛糸のミトン手袋と彼のその出で立ちだった。それは、就任式の壇上に並んだ列席者たちのほとんどが高齢の白人であり、その誰もが高価なブランドもののスーツに身を包んでいることが映像からも容易に見て取れたからだ。5000ドルもするスーツに身を包みながらアメリカの融和を訴えたところで、日々の生活が立ちゆかなくなり、現状に大きな不満を持つ人々、特にトランプを支持した7600万人の多くの心には、そのメッセージは響かない。
アメリカの政治思想史、とりわけ保守思想の潮流に詳しい関西大学客員教授の会田弘継氏は、トランプ個人のキャラとは無関係に、トランプ現象の背景にあるアメリカの保守思想の底流にある一つの流れに注目する。それはジェームズ・バーナムとサミュエル・フランシスという2人の思想家が唱えてきた、アメリカの伝統的な保守主義批判だ。
バーナムは官僚支配の共産主義国家も、大企業支配の資本主義国家も、最終的にはエリート・テクノクラートが権力を握り、彼らに支配されることになり、一般大衆は彼らに利用、搾取されるだけだと説いた。そして、エリート支配下で搾取に喘ぐ労働者を取り込むために「ポピュリスト経済政策」を採用するのが、アメリカの保守政治が本来向かうべき道だと主張したのだ。その教えを引き継いだフランシスは、1990年代に第三政党の候補として大統領選挙に出馬したパット・ブキャナンの知恵袋となり、ブキャナンが主張する「保護貿易、移民排斥、アメリカ第一の孤立主義」のネタ元となった。それが昨今のトランプのMAGA(Make America Great Again)にそのまま引き継がれている。
共和党内には当初は保守政治家としてスタートしたニクソンやレーガンも、権力の座にあるうちにエリートたちに取り込まれたという思いを持つ支持者が少なからずいる。しかし、それは民主党では更に深刻だ。20世紀後半の民主党は労働組合を基盤とする政党となったため、本来は労働者の味方のはずだった。しかし、クリントン政権以降、オバマ政権も含め、その民主党がむしろグローバル化を推し進め、アメリカの労働者を苦しめる政策を積極的に推進するという捻れが生じた。
バイデン政権がもし真にアメリカの融和を実現したいのであれば、高いスーツに身を包んだエリートが一段高いところから感動的な演出に彩られたメッセージで「私はすべてのアメリカ人のための大統領になります」と訴えるだけではダメで、格差問題に対する何らかの解を提供しなければならない。そして、それはスタイルこそ違えど、バーナムやフランシスが唱え、ブキャナンが大統領選挙として既存政党の候補者に対するアンチテーゼとして主張した政策を参照せざるを得ないのではないかということだ。
先の大統領選で大企業からの潤沢な献金を大量に集め、資金力でもトランプを圧倒したバイデンが、果たしてそのような政策を本当に実行できるのかどうかは、お手並み拝見といくしかない。しかし、それができなければ、いくら口で融和と訴えても、4年後、必ずトランプは戻ってくる。トランプという人物が戻ってこなくても、トランプ現象は必ずや再び勃興するだろう。その時、その現象が何と呼ばれているかは、現時点では未定だ。
今週はアメリカ政治思想に詳しい会田氏とともに、トランプ政権の終焉、バイデン政権の発足に際して、トランプ現象とは何だったのかを、アメリカ保守政治思想の流れの中で検証するとともに、バイデン政権の真の課題とは何かを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が探った。
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今週の論点
・トランプが改革党時代に学んだ“知恵”
・米保守思想の底流にあるバーナムとフランシス
・なぜいま陰謀論が勃興するのか
・直近のアメリカの注目点と“想定された暴走”
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■トランプが改革党時代に学んだ“知恵”
神保: 1月20日、「無事」という言い方がいいのでしょうか、トランプさんが大人しく去り、アメリカで政権移行が行われました。約150年ぶりに前職の大統領が出席しない就任式だったということです。
宮台: Qアノン系、ある種の妄想を本当に楽しませてもらいました。僕のいう言葉の自動機械、botのような人間がこんなにいるのかと。トランプは大統領になどなる気がなかったのは明らかで、巨大なブランクだから、人々の妄想のスクリーンのようになってしまったということです。また先進各国で日本だけがトランプ万歳で盛り上がっているのは、古谷経衡くんの素晴らしい分析によれば、安倍のあとに出てきた菅があまりにもスカだったので、安倍の「右翼的」な部分をまったく継承せず、いわばロス状態になっているからだと。本当にbotだらけで、このなかで民主制というのは無理なんじゃないか、とひしひし感じています。
神保: 大統領就任式で、ラフなアウトドアパーカーと毛糸のミトン手袋をして来賓席に座っていた、バーニー・サンダースに注目が集まりました。高級ブランドのスーツを着て融和を訴えても、本当の問題が何もわかっていないと思われるということを、壇上の列席者は何もわかっていない、と多くの人が思う。民主党が変わったかどうかの試金石は、どれだけ言葉で融和を訴えたかではなく、もしかしたらバーニーの服装に見られるような態度かもしれないと。
宮台: 周りはセレブのパーティに出るような服を着ていて、そのなかでただひとりだけラフな服装でした。
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