マル激!メールマガジン 2021年2月3日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1034回)
5金スペシャル映画特集
劣化する社会の中でドキュメンタリーや実話映画が担う重要な役割
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 その月の5回目の金曜日に特別企画を無料放送する5金スペシャル。
今年最初の「5金」となる今回は、映画、とりわけドキュメンタリー映画や実話を題材にした映画を主に取り上げ、宮台真司が解説した。
 今回取り上げた映画は『行き止まりの世界に生まれて』、『KCIA 南山の部長たち』、『ある人質~生還までの398日』、『バクラウ』、『聖なる犯罪者』の5作品。
 コロナの惨状もさることながら、それ以前から社会の劣化はとどまるところを知らない。そのような中にあって、われわれはついつい一人ひとりが本来考えておかなければならないことや、見過ごしてはならない大事なものを忘れがちになる。映画はそれに気づかせてくれる貴重な機会を提供してくれる場合が多いが、とりわけドキュメンタリー作品や実話に基づく映画は、そうしたテーマを再確認させてくれる。
 『行き止まりの世界に生まれて』(ビン・リュー監督。2018年アメリカ)はアメリカ・イリノイ州の地方都市を舞台に、貧しく暴力的な家庭から逃れるようにスケボーにのめり込む若者たちが、暗い過去と向き合いながら大人になっていく過程を描いたドキュメンタリー。サンダンスのブレークスルー・フィルムメイキング賞を始め世界各国で多くの賞を受賞するなど、ドキュメンタリー作品としては近年希に見る高評価を受け大ヒットとなった。
 映画の主人公となる若者グループの一員でもあった中国系アメリカ人のビン・リューが、12年にわたり仲間たちを撮り続けた映像を編集してまとめたドキュメンタリーだが、その映像には、普段はスケボーで街中を徘徊しながら悪ふざけを繰り返す彼ら一人ひとりの悲惨な過去や葛藤と、その現実と向き合えないがゆえにスケボーにのめり込む彼らの生態が見事に描かれている。
 格差社会だのトランプ現象だのと一括りにされがちな今日のアメリカの社会で、実際に起きている明日への希望が持てない現実や、酒と暴力に満ちた家族の関係、そしてそこから生じる誰もが抱えている苦しみや痛みがどんなものかをリアルに知ることができる貴重な記録映画でもある。
 『KCIA 南山の部長たち』(ウ・ミンホ監督。2020年韓国)は人気俳優イ・ビョンホンがKCIA(中央情報部)部長を熱演する、朴正熙大統領暗殺事件の舞台裏を描いた実話に基づく映画作品。朴大統領とは革命の同志で実質、当時の韓国では大統領に次ぐ権力者だった金載圭・中央情報部部長が、国民の解放のために革命を起こしておきながら、その後、独裁者となり私利私欲にまみれてしまった朴大統領を「韓国国民のため」に殺害するまでの経緯が描かれている。
 しかし、金部長はその後の権力奪取まで計画していなかったがゆえに軍を掌握しておらず、結果的にその後、発足した全斗煥による軍事政権によって反逆者として逮捕され処刑されてしまう。
 映画の最後に金載圭が死刑判決を受ける直前に公判で語った被告人弁論の映像が紹介されており、その言葉が見る人の胸を打つ。特にその後の韓国が全斗煥の下で再び軍事独裁の支配下に入り、その後も腐敗が続いたという史実と照らし合わせると尚更だ。
 『ある人質~生還までの398日』(ニールス・アルデン・オプレヴ監督。2019年デンマーク・スウェーデン、ノルウェー)は十分な計画性もないまま取材のため内戦下のシリアに入りイスラム国の人質となった駆け出しの若きデンマーク人写真家ダニエルが、1年あまりにわたり実際に経験した拷問と飢えと恐怖に苛まれる地獄のような人質生活と、彼を救うために母国で資金集めに奔走する家族の苦しみを同時進行で描いた、これも実話に基づく映画。
 この問題をめぐっては、アメリカのように政府がテロリストとの一切の交渉には応じないばかりか、家族が身代金を支払うことも禁じている国もあり、デンマークでも政府は身代金の拠出を拒否し、身代金を支払うための寄付を公然と募ることも法律で禁止されていた。しかし、家族が個人的に集めた寄付によってダニエルは最終的に解放されるが、人質として助け合った仲間のアメリカ人ジェームズ・フォーリーは処刑され、斬首の映像が全世界に公開されてしまう。
 イスラム国については日本でも何人かのジャーナリストや活動家が人質になり、ジャーナリストの後藤健二のように実際に殺害されたケースもあったが、人質生活の実態については解放された人質の証言を通じてしかわれわれは知る術を持たない。この作品はイスラム国の人質生活の実態を描いた著書を映画化したもので、ニュースなどでわれわれが繰り返し聞かされてきた「誘拐」、「拘束」、「拷問」、「憎悪」などの言葉が現実にはどのようなものだったのかを知る貴重な機会を提供している。
 その他、『バクラウ』(クレベール・メンドンサ・フィリオ監督。2019年ブラジル・フランス)、『聖なる犯罪者』(ヤン・コマサ監督。2019年ポーランド・フランス)など。

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今週の論点
・『行き止まりの世界に生まれて』が描いた“つながり”と“分断”
・ミクロな自意識が生み出すマクロな悲劇――『KCIA 南山の部長たち』
・『ある人質~生還までの398日』が訴える視座の転換
・『バクラウ』『聖なる犯罪者』が描く“法より掟”という命題
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■『行き止まりの世界に生まれて』が描いた“つながり”と“分断”

神保: 今回は月5回目の金曜日「5金」ということで、恒例の映画特集を行います。5作品用意しており、まずは『行き止まりの世界に生まれて』(ビン・リュー監督。2018年アメリカ)について。

宮台: オバマ大統領が4年前に大傑作だと褒めた映画です。原題は『Minding the Gap』。日本でも口コミで非常に多くの観客が入っているそうですが、いま関東圏内で上映しているのは1館だけでしょうか。

神保: 実はロードショーは終わってしまい、東京はシネマチュプキ田端という映画館で、2月19日から28日まで上映するようです。2018年のアメリカ映画で、日本公開は2020年の9月4日。イリノイ州のロックフォードという地方都市を舞台に、貧しく暴力的な家庭から逃れるようにスケボーにのめり込む若者たちが、過去と向き合いながら大人になっていく過程を描いたドキュメンタリーです。宮台さん、この映画を選んだ理由は。

宮台: とても感動的なんです。いくつもポイントがあるのですが、まず、アメリカの映画でスケボーが描かれる場合には、基本的に「つながる」というモチーフで、つまりスケボーがなければつながれない人間たちがつながる。僕は共同身体性と呼んでいますが、それは同じような身体性をみなが共有しているということです。