マル激!メールマガジン 2021年6月16日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1053回)
NHKに再び何が起きているのか
ゲスト:長井暁氏(ジャーナリスト、元NHKチーフ・プロデューサー)
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 あれから20年の月日が流れた。いわゆるNHK番組改変問題だ。
 これは2001年にNHKが教育テレビ(現Eテレ)で放送を予定していたETV特集「戦争をどう裁くか」の放送内容を事前に知った自民党の安倍晋三、中川昭一両議員がNHKの幹部に対して番組の内容に注文を付け、放送直前になってNHKの幹部が現場に番組内容の改変を命じたために現場は大混乱。番組を企画しNHKから制作を受注していた制作会社は、当初の企画意図とまったく異なる番組になってしまうとして改変を拒否し、NHKの現場デスクらも当初、改変に抵抗したために、放送当日になってもまだ番組の編集作業が終わらない異常事態に陥ってしまった。そして、結果的に幹部自らが編集を指揮するという異常な体制の下で番組が番組枠よりも4分も短い、事実上の「放送事故」状態のまま番組は放送されるという前代未聞のできごととなった。
 しかも、その後、企画の対象となった「女性国際戦犯法廷」の主催者が、当初NHKサイドから受けていた説明とまったく異なる番組になったことに対し損害賠償を求めてNHKを提訴するという事態にまで発展し、2008年に最高裁で判決が下るまでこの問題は尾を引くこととなった。裁判自体は最高裁が、放送内容についてはNHK側に決定権があることを認める、NHK勝訴の形で決着している。
 ただし、一連の騒動で露わになったのは、公共放送と銘打ってはいるものの、実際には予算と人事で国会の承認を必要としているため、いざ政権与党の中に放送内容に介入することも辞さない政治家が現れた時、その圧力に対してはあまりにも脆弱なNHKの実態だった。
 そして今、そのNHKで、番組内容への権力の介入が再び常態化しているという。番組改変問題の際にNHK側の番組デスクとして改変に抵抗し、自民党議員からの圧力を受けたNHK幹部が番組内容を強制的に改変させた事実を内部告発したジャーナリストの長井暁氏は、特にオリンピックに関連してNHKが放送内容を「改変」したり、世論調査の質問内容まで政府に不都合な結果が出ないような内容に変更している事実を指摘した上で、古巣のNHKで20年前の教訓が活かされてないことを非常に残念がる。
 20年前の番組改変問題の教訓はNHKが真に公益性の高い公共放送としての役割を果たすためには、経営委員の任命制度をより透明性のあるものに改革するなど、党派制を排除する仕組みを導入することが不可欠であるということだったはずだ。しかし、それがうやむやになったまま20年が無駄に過ぎた結果が、昨今のNHKのオリンピック報道であり、かんぽ生命保険不正報道であり、御用世論調査なのだ。今こそ受信料に見合った公共のあり方とそれを支える制度を再確認しない限り、公共放送としてのNHKに未来はない。
 NHKを愛し、公共放送が重要だと考えるが故に16年前、現場から外されることを覚悟の上で身を挺して内部告発を行った長井氏と、今NHKに何が起きているのか、なぜ20年前から状況が変わらないのか、何を変えなければならないのかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・長井氏が受けた内部告発の代償
・権力を慮る、NHKの「奴隷根性」
・官邸と一体となり、現場を踏みにじるNHK上層部
・解決すべき内部/外部の問題とは
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■長井氏が受けた内部告発の代償

神保: 今回のテーマはNHK問題ですが、なぜひとつの会社だけでこんなに何度も取り上げなければならないのか、とも思います。

宮台: ただ僕らは税金と同等の形で受信料を徴収されており、それがパブリックな使命を果たしていないのであれば、払わないか解体してもらうかどちらかです。