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生越照幸氏:赤木俊夫さんの死を無駄にしないために
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生越照幸氏:赤木俊夫さんの死を無駄にしないために

2021-07-07 20:00
    マル激!メールマガジン 2021年7月7日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1056回)
    赤木俊夫さんの死を無駄にしないために
    ゲスト:生越照幸氏(弁護士・赤木雅子氏代理人)
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     幼稚園児に教育勅語を暗唱させ、新たに申請する小学校の名前を安倍晋三記念小学校と名付け、現職の首相の妻を名誉校長に迎えるなどして話題をさらっていた学校法人森友学園が、豊中市に国有地をただ同然で取得していた疑惑が持ち上がり、国会で追及されるなどして政治問題化したのが、いわゆる森友学園問題だった。
    交渉過程を隠蔽する目的で行われた文書改ざんの過程で、公文書の改ざんという違法作業を無理矢理強いられた近畿財務局職員の赤木俊夫さんが、それを苦に自殺に追い込まれたという事実は、疑惑でも何でもない、紛れもない事実だ。森友問題はついつい「アベガー」、「スガガー」といった方向に行きがちになるし、実際に彼らの責任が重いことは論を俟たないが、「なぜ赤木さんが自殺に追い込まれなければならなかったのか」や、「どうすれば赤木さんを死なさずに済んだのか」といった論点が見落とされがちになる。
     そこで今週のマル激では、赤木さんの自殺の真相を明らかにすべく、国と佐川氏を相手取り損害賠償訴訟を起こしている俊夫さんの妻・雅子さんの代理人を務める生越照幸弁護士をゲストに招き、赤木雅子さんや、俊夫さんの主治医だった精神科医の岩井圭司医師などへのインタビューも交えながら、何が俊夫さんを自殺に追い込んだのかや、どうすれば俊夫さんを死なさずに済んだのかなどを考えた。
     元々森友学園との交渉を担当していたわけではなかった赤木俊夫さんが、文書の改ざん作業に駆り出されたのは2017年の2月26日のことだった。安倍首相が国会で「私や妻が関与していれば総理も議員もやめる」と大見得を切った9日後のことだ。
     当初俊夫さんは改ざん作業に抵抗し、強く抗議する姿勢を見せたが、財務省本省は俊夫さんの直属の上司なども通じて俊夫さんを説得し、最終的には俊夫さんは改ざん作業に駆り出される。一見、大人数で改ざんが行われる集団に俊夫さんも駆り出されたかのように受け止められがちだが、その実態は俊夫さんだけが改ざん作業を強いられ、上司は俊夫さんに命じるだけで実際の改ざん作業には手を染めていなかった。また俊夫さんは後輩にはこんなことはやらせてはいけないと考え、自分一人で違法行為の汚名を背負った。結果的に俊夫さんが違法行為の「実行犯」となった。
     雅子さんによると、改ざん作業が始まってから(雅子氏は作業の内容が文書の改ざんだったことは自殺の直前まで知らされていない)俊夫氏の精神は「みるみる壊れていった」という。そして3ヶ月後の7月17日、俊夫さんは自宅近くの精神科を訪れ、うつ病と診断される。
     この日から自殺する翌年3月まで、ほぼ2週間おきに俊夫氏を診断してきた精神科の岩井圭司医師は最初の見立てで、公務員としてのアイデンティティが強く、遵法精神や規範意識が強い俊夫氏が何か倫理的な葛藤を抱えている可能性が高いと感じたと言う。
     多くの事件で自死遺族の代理人を務める生越照幸弁護士は、近畿財務局が改ざんの事実を俊夫さん一人に押しつける形になったことをとりわけ問題視する。事の重大性故に誰にも相談できないまま、俊夫さんは追い込まれていった可能性が高い。
     岩井氏は、俊夫さんのうつ病のストレサー(ストレス要因)が職場絡みであることは明らかだったので、病欠で職場から引き離すことが重要と考えていたが、近畿財務局側から委託を受けた産業医はそうは考えておらず、早く職場に戻そうとしていた。それも俊夫さんには大きなストレスになっていたと岩井氏は言う。
     人よりとびきり倫理観や規範意識が強かった俊夫さんは、自らの意思に反して公文書の改ざんという公務員にあるまじき違法行為を強いられ、「自分がもっとも大切にしていたものを汚されてしまった」(岩井医師)。そして、事の性格ゆえに職場でも家庭でも、そして精神科医にさえそのことを相談できず、一人で悩みを抱え、最後は自らの命を絶ってしまった。その間、俊夫氏を支えるべき日本の労働医療のシステムや公益通報などの法制度はあまりに脆弱だったといわざるを得ない。
     俊夫さんの場合は特殊な事情もあるが、それでも似たような職場に起因するストレスが原因で、最終的に自殺に追い込まれている人の数は枚挙に暇が無い。また、自殺に至らずとも、重篤なうつ病に悩む人も多い。森友学園問題がこれだけ全国的に注目を浴びる事件になったのなら、俊夫氏を支えきれなかった制度の弱点や欠点を徹底的に見直し、新たな対応を考えることで、俊夫氏と同じような辛い経験をしなければならない人を一人でも減らすことこそが、森友学園問題のもう一つの真相に迫ることにつながるのではないか。
     赤木雅子氏代理人であり、自殺対策全国民間ネットワークの幹事や、自死遺族支援弁護団の事務局長を務め、現在 、厚生労働省「自殺総合対策の推進に関する有識者会議」の委員も兼務する生越弁護士と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・告発ですべてを失う役人と、それでも自らの倫理観に従った赤木氏
    ・妻・雅子氏と主治医・岩井氏の証言から見えること
    ・「主治医」と「産業医」の立場と見解の違い
    ・裁量はほしいが責任は負わない、行政の体質
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    ■告発ですべてを失う役人と、それでも自らの倫理観に従った赤木氏

    神保: 今回は、僕が拘ってきた問題を取り上げたいと思います。先週、世の中的には「赤木ファイル」というものが世の中に出ましたが、これまで掘られていないようなアングルから、報じるべきことが残っているのではないかと。2週間ほど取材してきましたので、その成果も含めて、近畿財務局職員・赤木俊夫さんの自殺問題に光を当てたい。ゲストは、現在赤木雅子さんの裁判の代理人を務めておられます、弁護士の生越照幸さんです。早速ですが、赤木ファイルが出た後、少し落ち着いたなかで、どんな心境でおられますか。

    生越: 赤木ファイルが出るかどうかは、この訴訟における節目だったと思います。これまで赤木俊夫さんがどういうことをしていたか、させられていたか、ということに関する客観的な証拠はまったく存在しなかった。今回、文書提出命令を申し立て、裁判所の指示に基づいて国が任意で出したファイルによって、それが初めてわかったわけです。これは非常に大きなことだと考えています。 
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