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廣瀬陽子氏:ウクライナで誰も望まない戦争が起きそうな理由と起きなさそうな理由
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廣瀬陽子氏:ウクライナで誰も望まない戦争が起きそうな理由と起きなさそうな理由

2022-02-23 20:00
    マル激!メールマガジン 2022年2月23日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1089回)
    ウクライナで誰も望まない戦争が起きそうな理由と起きなさそうな理由
    ゲスト:廣瀬陽子氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)
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     バイデン政権のレトリックを見る限り、今日、明日にもロシア軍のウクライナ侵攻が開始されようとしているという。日本ではアメリカの立場を受け売りする報道が主流を占めているようだが、実際に現在のウクライナ国境沿いに展開されているロシア軍は、いつでも軍事侵攻を開始できる布陣と臨戦態勢を敷いていることは間違いないようだ。
     しかし、ロシアの軍事侵攻の可能性について、専門家の見方は大きく分かれている。軍事専門家の多くは、何もないということはあり得ないところまで、事態はエスカレートしているとの見方で一致している。その一方で、ロシア政治の専門家の中には依然として、軍事侵攻はあり得ないとの見方も根強い。なぜならば、ウクライナへの軍事侵攻はロシアにとっても、そしてウクライナやアメリカにとっても、決して得にはならないからだ。
     ロシアはウクライナがNATOには加盟しないと約束することと、2014年のクリミア半島併合の際にウクライナと結んだミンスク合意の履行などを求めており、それが達成されなければ軍事侵攻も辞さないとの立場を取っているが、ロシア政治の専門家で慶應義塾大学総合政策学部の廣瀬陽子教授は、仮にウクライナがNATOへの加盟を決定したとしても、条件を整えるのに少なくとも10年は要することから、それを理由にロシアが軍事侵攻まですることは考えにくいという。仮にロシアが実際にウクライナに軍事侵攻を行った場合、真の目的はウクライナのNATO加盟阻止ではないとの見方だ。
     万が一ロシアがウクライナに軍事侵攻すれば、ウクライナ軍も応戦することになり、少なくとも数万単位の犠牲者が出ることが予想されている。NATOを含むアメリカの同盟国も、厳しい制裁措置に打って出ることは必至だ。ロシアが国際社会から、2014年のクリミア併合とは比較にならないほどの激しい糾弾を受けることが避けられない。
    アメリカはどうか。目下、ロシアが今にも戦争を始めると喧伝しているのは専らアメリカであり、ヨーロッパ諸国の中ではイギリスがアメリカに同調しているが、フランスやドイツは米英とは一線を画した姿勢を見せている。今や石油・天然ガスの世界最大の産出国となったアメリカは、ロシアへの制裁が発動され、ヨーロッパがロシアから天然ガスを買えなくなれば、価格競争力で劣るとされるアメリカの天然ガスの需要が一気に増すことが期待できるかもしれない。
     しかし、そもそもアメリカは外交的には対中国シフトに主眼を移しており、その目もアジアを向いている。今さら東ヨーロッパ情勢に深々とコミットする余裕もないし、その意思も持ち合わせていない。アメリカ国内の世論調査でも無党派層の61%が、ウクライナ情勢に関わるべきではない(CBS世論調査)と答えており、今ウクライナで戦争が起きても、実際にアメリカがどこまで関与できるかは疑問だ。
     仮にウクライナとロシアとアメリカを第一義的な当事者と位置づけると、ウクライナで緊張関係が続くことはいずれの当事者にとっても一定のメリットがあるが、いざこれが軍事衝突となると、誰も得をしないように見える。
     廣瀬教授はロシアは実際に軍事侵攻をしないでも、既に大きな成果を勝ち取っており、ここで撤退しても決して「手ぶら」で帰ることにはならないと指摘する。今回の大規模な兵力の展開によりロシアは、米中対立にばかり目を奪われている世界に自身の存在感をあらためて見せつけると同時に、ロシアがウクライナのNATO加盟をどれだけ嫌がっているかや、ウクライナ東部州の自治権を認めたミンスク合意に強くこだわっていることなどを国際社会に痛感させることができた。また、世界から忘れかけられていたロシアが、どこまでを自分の勢力圏と捉え、その維持にこだわっているかも、世界に再認識させることができた。
     プーチンはロシア軍を撤収させるのか、それともリスクを承知の上で軍事攻撃に踏み切るのか。世界をその一点に注目させている段階でプーチンの目的は半分以上は達成されているようにも見える。
     今週はロシア情勢に詳しい廣瀬陽子氏を招き、ウクライナを舞台に複雑に絡み合う米露の利害関係を整理した上で、実際に戦争は始まるのか、ロシアとアメリカはどこに落とし所を見ているのか、日本のとるべき行動は何かなどについて、廣瀬氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・ロシアのウクライナ侵攻はない、と見られる理由
    ・あえて目立たないようにするのが日本の役割か
    ・問題の発端はロシアの「感情」にある
    ・ロシアはすでにお土産をもらっている
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    ■ロシアのウクライナ侵攻はない、と見られる理由

    神保: 今回のテーマはウクライナ情勢。わからないことだらけだったもので、きちんと歴史的な経緯も含めて、背景や内情を伺いたいと思い、慶應義塾大学総合政策学部教授の廣瀬陽子さんをゲストにお招きしました。
     もう開戦前夜のような話でしたが、昨日になってベラルーシとやっていた共同演習でロシアが撤収を始めた、という風にロシア側の映像として流れました。ただ、その映像はカット割りがしてあり、明らかにプロデュースされた映像だったもので、典型的なプロパガンダに見えて信用できないところもありました。案の定、一夜明けて、実際に撤収しているという証拠がまったくなく、むしろ増強しているというような話も出ている。まず、宮台さんは一連のウクライナ情勢をどう見ていますか。

    宮台: ロシアが現実的な落とし所としてどこを考えているのか、ということに興味があります。NATO加盟国を今後一切増やさない、という線で落ち着けるというふうに思っているのか、実はそこまで思っていないが、ロシアのことをもっと気にかけないと場合によってはやるぞ、というデモンストレーションなのか。ウクライナについては、事実上NATOに入ろうが入るまいが旧西側であることは明らかで、その違いがロシアにとって何を意味するのか、ということも伺ってみたいと思っていました。

    神保: なるほど。そんなところで廣瀬先生に細かく伺っていきたいのですが、まずは総論として、専門家はこの状況をどう見ているのでしょうか。開戦前夜のような報じられ方に対して、確認されている実態はどうなのか。
     
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