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本田由紀氏:まずは今の日本がどんな国になっているかを知るところから始めよう
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本田由紀氏:まずは今の日本がどんな国になっているかを知るところから始めよう

2023-01-18 20:00
    マル激!メールマガジン 2022年1月18日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1136回)
    まずは今の日本がどんな国になっているかを知るところから始めよう
    ゲスト:本田由紀氏(東京大学大学院教育学研究科教授)
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     新年を迎えるにあたり、誰もが今年こそは明るく前向きな方向を目指していきたいと思うところだろう。これは日本に限ったことではないが、昨年は長引くコロナ禍に加え、ウクライナ戦争、そして安倍元首相の暗殺事件などの暗いニュースが多かった。そのような状況では、目の前の問題に対応するだけで手一杯で、われわれの社会が抱える大きな問題に取り組む余裕などなかなかなかったというのが実情ではないだろうか。
     しかし、そう言いながら日本は、四半世紀もの時間を浪費してしまった。まだコロナ禍も予断を許さない状況ではあるが、今年こそは、溜まりに溜まった宿題に一つずつ取り組んでいく一年にしたいではないか。
     さて、状況を改善する際に大前提となるのが、何を措いてもまずは現状を正確に把握することだ。社会全体が不都合な真実から目を背けるのが当たり前となり、メディアの機能不全も手伝って、われわれは日本が今どのような状況に陥っているかについて正しい認識を持つことが難しくなっている。
    そうした中で、東京大学大学院教授で教育社会学者の本田由紀氏が2021年に著した『「日本」ってどんな国?――国際比較データで社会が見えてくる』は、日本の様々な社会指標をOECD加盟国など世界の他の国々と国際比較しており、日本の現在地を再確認する上で理想的な手引きとなる。
     しかし、そこで紹介されている諸データは日本がまさに絶望的な状況に置かれている状況を露わにする。日本が世界でも断トツで少子高齢化が進んでいる国であることが指摘されて久しいが、依然として出生率が伸びないためにその度合いは年々深刻の度合いを増し、15歳未満の若者人口率はOECD加盟国中最下位なのに対し、65歳以上の高齢人口率は断トツの1位だ。伸びない出生率は子育てや教育に対する公的支援の貧弱さと同時に、将来に希望が持てない社会の現実をわれわれに突きつけてくる。
     問題に手当をするためにはまず、現実を知ることが必要だが、同時に、日本がなぜそのような状態になってしまったのか、その原因やその背景、構造などを把握する必要がある。本田氏はその一助となるモデルとして、「戦後日本型循環モデル」を提示した上で、それに代わる「新たな循環モデル」構築の必要性を訴える。
     本田氏の「戦後日本型循環モデル」とは、企業と家族と教育が相互にニーズを満たし合うことで、政府の公的支援を受けずに社会が自動的に回っていくような仕組みのことだ。
     しかし、冷戦の終結や人口構成の変化など、このモデルが機能する前提となる外部環境が大きく変わり、何よりも大前提となっていた経済成長が止まったことで、もはやこのモデルは完全に破綻してしまった。しかし、これまで社会を回すための手段だったはずのこのモデルが一時期あまりにもうまく機能していた(少なくとも一部でそう受け止められていた)ために、今日そのモデルの維持が自己目的化してしまい、元々それが内包していた矛盾や歪みも手伝って、むしろこのモデルの残骸が日々、新たな問題を量産しているのが現状だ。
     実際、日本では政府が長年このモデルに依存し、公共事業などで企業に公的資金を流し込みさえしていれば、後は企業が雇用と社会保障まで提供し、家庭では専業主婦の母親が家を守りつつ「教育ママ」よろしく子どもをしっかり進学させ、学校は毎年新しい労働力を企業に供給するという一見好ましい循環が繰り返されてきた。政府にとってはこの上もなく好都合なモデルだったわけだが、本来政府の役割である子育て支援や家庭関連支出や教育関連支出の分野で日本がOECD加盟国中最下位グループにいるのはそのためだった。
     好ましい外部環境や運のよさも手伝って、これまで日本が、たまたまうまく機能した社会モデルに依存し、日本は本来先進国として当然やっておかなければならないことを25年あまりサボってきた以上、遅ればせながら今からでもそれを始めるしかない。しかし、政治家や霞ヶ関官僚、大企業で働くサラリーマンなど日本で「エリート」とされる人々は、依然として「戦後日本型循環モデル」を追い求めるマインドから抜け出ることができていない。
     本田氏はわれわれが一刻も早く「戦後日本型循環モデル」がもはや破綻していることを受け止めた上で、それに代わる「新しい循環モデル」を作っていく以外に、問題を解決する方法はないと言う。その新しいモデルの特徴は、政府はセーフティネットとアクティベーションに責任を負うとともに、これまで一方向だった企業と家族と教育の関係を双方向化していくというものだ。
     国際比較から日本は今どんな国なのかを改めて確認することを出発点に、なぜ日本がそのような状況に陥ってしまったのかを考えた上で、これから日本が模索すべき新しい社会のモデルとはどんなものなのかなどを、本田由紀氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・国際比較データから見えてくる「日本はこんな国」
    ・学ぶ意味、働く意味、人を愛する意味を欠いた「戦後日本型循環モデル」
    ・戦後日本型循環モデルの破綻
    ・新たな循環モデルを構想する
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    ■ 国際比較データから見えてくる「日本はこんな国」
    神保: こんにちは。今日は2023年1月13日の金曜日、1136回目のマル激となります。
    本日のゲストは東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀さんです。よろしくお願いいたします。

    本田: よろしくお願いします。

    神保: 本田さんの近著『「日本」ってどんな国?』を読んだとき、これを今扱うのが大事だと思いました。他国と比較したデータが満載されていて、それを基に日本がどういう国であるかが書かれているからです。
    まず、日本人が日本をそういう国だとは思っていないのではないか、という問題点から出発したいのですが、宮台さんいかがですか。

    宮台: それはマスメディアを中心として、経済指標にばかり注目しているところに原因があります。人々は社会生活上の動機づけで経済活動をするので、社会がおかしくなると経済もおかしくなります。社会がうまくいっているかどうかを表す統計的な数値を社会指標といいますが、解釈が必要なのでマスメディアは嫌うのです。 
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