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マル激!メールマガジン 2023年4月12日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1148回)
統一地方選・ガラパゴス化した選挙制度のままでは民主主義は機能しない
ゲスト:砂原庸介氏(神戸大学大学院法学研究科教授)
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この4月は4年に1度の「統一地方選」が行われる月だ。4月9日と23日の2回に分けて、全国9道府県の知事選、230市区町村の首長選挙の他、41の道府県議会選挙と705の市区町村議会で一斉に選挙が行われる。
今さら言うまでもないことだが、教育や福祉、環境など市民生活に直接関わる意思決定はほとんどが地方自治体や地方議会レベルで行われている。だから、地方選挙は本来であれば有権者にとっては国政以上の関心事となっていなければおかしい。しかし、現実には地方選挙への関心は著しく低い。その投票率は元々世界で最低レベルである国政選挙の投票率が50%台前半であるのに対し、地方選挙は概ねそれよりさらに10%も低く、40%台にとどまる。選挙区によっては投票率が3割を切るところもある。
有権者の6割だの7割だのが参加していない選挙がそもそも有効な選挙といえるのかも疑問だが、今回の山梨県の県議会選挙のように全議席の過半数を超える62%が無投票で決まってしまう議会に果たして民主的な正統性があると言えるのか。実際、今回の統一地方選では全道府県議会選挙で選ばれる2,260議席の4分の1に当たる565人が無投票で当選する。
また、地方選挙では現職候補の再選率が異常に高い。前回2019年の統一地方選では、知事、市町村長、都道府県・市町村議会議員ともにおよそ9割の現職候補者が当選している。これでは、選挙をやる前からほとんど結果がわかっているも同然で、有権者が投票に行く気が起こらないのもある意味で当然かもしれない。
神戸大学大学院法学研究科教授で地方政治や選挙制度に詳しい砂原庸介氏は、国政レベルでは有権者はどこの政党が多数派を形成するのかに関心を持つ人が比較的多いのに対し、地方レベルではそもそもどこが多数を形成するのかについても、またそもそも地方議会で多数を形成することにどんな意味があるのかについてもほとんどの有権者は関心がないため、それが投票率の低さや無投票当選の多さにつながっていると指摘する。
そもそも地方政治で市民社会に直結した意思決定が下されていることも、地方から政治を変えられるということへの理解も、ほとんど共有されていないのが現状だろう。
砂原氏はまた、有権者の地方政治への関心の低さは、陳腐化した日本の地方議会の選挙制度にも原因があると指摘する。日本の都道府県議会は小選挙区と中選挙区の混合で、市町村議会では主に自治体ごとに一つの選挙区を作る大選挙区制となっているが、このように複数の制度が混合している選挙制度は世界的に見ても珍しい。
約30年前に衆議院の選挙制度を改革する際によく議論された論点だが、一つの選挙区で複数の議席が争われる中選挙区制の下では、議会の過半数を獲得したい政党は複数の候補者を擁立する必要があり、政党が特定の候補者の選挙運動を支援することが難しくなる。そのため中選挙区での立候補者は政党の力を借りることなく個人の力で選挙運動をしなければならない。よほど個人的に資産がある候補者でない限り、政党の力を借りずに選挙戦を戦うのは容易なことではない。
また中選挙区で立候補している候補者の方も、政党名を前面に出した選挙戦では自分の当選は覚束ないため、個人の支持団体票を固めることに重きを置いた選挙を戦うことになる。これが候補者によるサービス合戦を生み、ひいてはそれが腐敗した金権政治、利権政治を生んでいるというのが、中選挙区制の問題点としてよく指摘される点だが、これは有権者から見ると、いずれも誰に投票すればいいのかが分かり難くしている要因となり、有権者の地方選挙への関心を押し下げる結果を生んでいる。
これは国政レベルでも言えることだが、選挙制度には大きくわけて小選挙区制と比例代表制があり、いずれにも長所も欠点もあるが、「良いとこ取り」をしようと考えておかしな混ぜ方をすると、往々にして「悪いとこ取り」が起きる。日本では衆議院も小選挙区比例代表並立制、参議院も中選挙区と比例代表の混合だが、地方政治レベルで議会選挙はどこも複数の選挙制度が混在している。
その制度の下で議会に選ばれてきた議員たちに選挙制度の変更を求めるのは容易ではない。また、選挙制度は真に中立的な機関に決定権を持たせなければ、現行制度の下で勝ち組の勢力が、より自分たちに有利になる選挙制度を作ってしまいかねないという究極的な利益相反問題も抱えている。
ただ一つはっきりしているのは、民主政の基礎を成す地方政治において、選挙の投票率が5割を割り、中には3割に満たないところもあったり、4分の1の議席が無投票で決まっていたり、9割の現職が再選したりすれば、その国の民主主義はとても脆弱なものになっていると言わなければならないということだ。
統一地方選ただ中の今、なぜ日本の地方選挙は盛り上がらないのか、日本の地方選挙の問題点は何か、日本に合った選挙制度とはどのようなものなのかなどについて、神戸大学大学院法学研究科教授の砂原庸介氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・低い投票率、高い無投票当選率と現職再選率-日本の地方選挙は危機的な状況に
・自分の一票の意味が分かりにくい選挙制度
・身近な生活に関わる意思決定の大部分を担う地方政治
・地方選挙の崩壊が示す民主主義の脆弱さとその処方箋
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■ 低い投票率、高い無投票当選率と現職再選率-日本の地方選挙は危機的な状況に
神保: 今日は2023年4月7日の水曜日、これが1148回目のマル激となります。今日のテーマは4年に1回の統一地方選挙です。僕は日本の地方選挙を「ガラパゴス化した地方選挙」と呼んでいるのですが、これが孕む問題点は民主主義にとって危機的だと思っているので扱いたいと思いました。
宮台: 一般的な話をしますと、投票率の背景には政治的な関心や関与がありますが、日本の場合はヒラ目・キョロ目で団体的動員に従うということが一般的でした。昔は土建屋的動員、組合的動員、宗教団体的動員といった意味での関与はありましたが、今の日本は地縁と言ってもそのほとんどがばらばらになっています。90年代後半に少年犯罪の取材で地方を回った時は、風景は昔のままでも、隣人がどんな人か分からなくなっているという状態でしたね。
ハーバーマスがコーヒーハウス問題と言ったことですが、政治的な関与はスモールグループでの議論を通じて醸成されます。しかし日本では90年代後半から、若者にとって政治の話をする人間はKY(空気が読めない)となり、2016年にSEALDsが活動していた時も、学生間で彼らについて話すことはほぼ完全にタブーでした。政治、性愛、自分が本当に好きなものについての話をすると分断を招くので必死に避けるのです。
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