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大方潤一郎氏:そこら中で理念なき大規模再開発が止まらないカラクリ
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大方潤一郎氏:そこら中で理念なき大規模再開発が止まらないカラクリ

2023-04-26 20:00
    マル激!メールマガジン 2023年4月26日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1150回)
    そこら中で理念なき大規模再開発が止まらないカラクリ
    ゲスト:大方潤一郎氏(明治大学特任教授、東京大学名誉教授)
    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
     超高層ビルの建設ラッシュが続く東京。しかし果たしてそこには明確な都市計画というものは存在するのだろうか。
     この番組では神宮外苑再開発によってイチョウ並木の存続が危ういことをお伝えしてきたが、その後も坂本龍一氏が亡くなる直前に再考を求める書簡を小池百合子・東京都知事あてに出していたことが明らかになるなど、今も市民の反対運動は続いている。しかし、小池知事は反対派の意見には一切耳を貸すことなく、2月17日に再開発計画の施行を認可し、すでに先月から神宮第二球場の解体が始まっている。
     この後、神宮球場と秩父宮ラグビー場の建て替えを含む大規模工事が2036年まで続き、最終的に神宮外苑に180メートルを超える超高層ビルが2棟建つ計画だ。
     そもそも、風致地区に指定されている明治神宮の内外苑は、本来は自然環境が守られなければならない場所であるはずだ。その神宮外苑が、どういうカラクリによって今回、このような大規模再開発の対象となってしまったのだろうか。都市計画公園区域にもなっている神宮外苑一帯は、少なくとも超高層ビルを建てることはできないはずだった。しかし、「公園まちづくり制度」という新たな仕組みを導入し、公園区域の一部を削除した上で道路沿いに場所を移すことによって、かなり強引に185メートル、190メートルという超高層ビルの建築を可能にしたのだ。
     2013年に創設された「公園まちづくり制度」というのは、都市計画公園の指定区域では2階建てまでしか建てられないため、結果的に密集市街地となっている公園未供用区域の再開発を可能にする目的で作られた制度だった。しかし、神宮外苑の再開発ではその制度が本来の趣旨とは異なる形で利用されている。なぜなら、今回の計画で未供用区域とされたのは、密集市街地などではなく秩父宮ラグビー場だったからだ。
     いったい誰が、どうやってこんな計画を強引に取り決めたのだろうか。政治も絡んでいるのだろうか。東京五輪パラ招致以前から、あたり一帯をスポーツクラスターにするという案が浮上していたことは以前にもお伝えした通りだ。その後、2012年に東京都の担当者が森喜朗元首相にラグビー場と野球場を入れ替える案を説明している。2014年には、今の再開発案の基本形がすでにできあがっていたことが資料等で明らかになっている。 
     しかし、この再開発案が初めて公になったのは 2018年4月に「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり検討会」が設置されてからだ。9月にはパブリックコメントが行われたが、その説明に用いられた資料はあいまいな説明のままだった、と東京大学名誉教授で都市計画が専門の大方潤一郎氏は指摘する。その資料には野球場を示す円はイチョウ並木から離れており、会員制のテニスクラブが絵画館前広場の両側に作られることなどは一切書かれていなかった。
     この計画が東京都の都市計画審議会や環境影響評価審議会で審議されたのは昨年になってからだ。市民や近隣住民はその中身を知らされないまま結論ありきの状態で制度上の形式だけが整えられ、手続きが進められてきた。この一連の経緯をたどると、「民活」の名の下に公的負担をせずに再開発を実現しようとする、貧しい行政と業界の心根が垣間見えると、大方氏は憤る。
     大方氏によれば現在多くの先進国が、現在東京都が進めているような古い街並みを近代化、高層化、高密度化するという旧来の再開発の考え方から、都市空間を改善し歴史を保全するために必要な措置を取る方向に転換しているという。ここに来て大規模再開発ラッシュを迎えている日本の現状は、周回遅れの感が否めないのだ。日本でもまちづくり条例などによる独自規制が可能となってはいるが、行政も住民もまだそうした制度を十分に活用できているとは言い難い。結果的に事業者主導の大規模再開発プロジェクトだけがどんどん進んでしまうのが実情だ。
     その力に押されてひたすら再開発を進めた結果、東京はどんな街になってしまうのか。また、どんな街を構想して、東京では今、大規模再開発が次々と立ち上がっているのだろうか。再開発によって「より便利になります」、「緑が増えます」、といったセールストークにごまかされず、今回の神宮外苑の再開発から学んだことを今後のまちづくりにどう活かしていったらよいのかなどについて、都市計画の第一人者の大方潤一郎氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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    今週の論点
    ・価値観が見えない神宮外苑の再開発
    ・公共的な場所が非公共的なプロセスで変わっていく経緯
    ・日本の都市計画の歴史
    ・自分の住む街をよく知ることでしか「まちづくり」は成功しない
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    ■ 価値観が見えない神宮外苑の再開発
    迫田: こんにちは。今日は2023年4月21日、第1150回目のマル激トーク・オン・ディマンドです。今日は神宮外苑の再開発問題がテーマです。都市計画の仕組みはどうなっていて、なんでこうなったのかというそもそも論をゲストにお伺いして、われわれに何ができるのかを考えようと思っています。ゲストは明治大学特任教授、東京大学名誉教授の大方潤一郎さんです。

     今回の再開発にまつわる問題については、どういうことが背景にあるのでしょうか。

    大方: 神宮外苑は「都市計画公園」とされているのですが、そこを使っている野球場やラグビー場が老朽化してきているので、一部の土地を民間に与えて高容積のビルを建てさせ、その利益で野球場とラグビー場をほとんどタダで建て替えようという話です。基本的にはそれができないような規制があるにもかかわらず、色々な方法を使い規制を緩めて現実化しようとしています。
    野球場やラグビー場が新しくなっても、大事な緑や土地が私有化されてしまうので代価は極めて大きいと言えるのですが、役所はあまり気にしていません。しかし市民の福利厚生は大幅に下がっているはずなので、そこが今の問題になっているのだと思います。

    迫田: 簡単に再開発前後の神宮外苑を見てみたいと思います。

    大方: 神宮外苑の地区には良いものがたくさんあり、例えば樹齢100年を超える樹木や絵画館前広場、リニューアルしたばかりの野球場と天然芝が綺麗なラグビー場など、どれも変える必要がないものです。大事に修復して使い続ければ良いので、なぜ建て替えなければいけないのか分かりません。

     再開発後、ラグビー場は屋根付きになります。ロックコンサートなど色々なイベントが開催できるようにして収益性を上げたいという意図で、「ラグビーもできるイベントホール」になります。また野球場は移動され、ホテルやショッピングストリートみたいなものが併設されることでエンターテイメントの総合施設のようになり、開いた土地にオフィスビルが建つという計画です。最大の問題は、絵画館前広場というオープンスペースの両側を会員制のテニスコートにしてしまい、オープンスペースが減ってしまうということです。 
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