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鴨志田祐美氏:時代錯誤の再審制度のままでは冤罪被害者を救えないではないか
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鴨志田祐美氏:時代錯誤の再審制度のままでは冤罪被害者を救えないではないか

2023-06-28 20:00
    マル激!メールマガジン 2023年6月28日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1159回)
    時代錯誤の再審制度のままでは冤罪被害者を救えないではないか
    ゲスト:鴨志田祐美氏(弁護士、日弁連再審法改正実現本部本部長代行)
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     長期の勾留や密室の取り調べによって冤罪のリスクが極めて高いといわざるを得ない日本の前時代的人質司法がそう簡単に変わらないのであれば、せめて新たな証拠が出てきた時にあらためて裁判を受ける権利を保障する再審制度くらいはきちんと整備して欲しいものだ。しかし、残念ながら日本の再審制度は、中世の異名を取る刑事司法制度に輪をかけて遅れた前時代的なもののままだ。
     今月5日、大崎事件の第4次再審請求が棄却された。現在96歳の原告、原口アヤ子さんは事件発生時から一貫して無罪を主張し続けており、弁護団は最高裁に特別抗告した。これまで第1次請求の地裁、第3次請求の地裁・高裁と、3度にわたって再審の開始が決定されたにもかかわらず、そのたびに検察官がことごとく抗告を繰り返した結果、上級審ではことごとく再審決定が取り消され現在にいたる。
     大崎事件は1979年、鹿児島県大崎町の牛小屋の堆肥の中から男性の遺体が見つかり、義理の姉である原口アヤ子さんと兄2人が殺人・死体遺棄、甥が死体遺棄で逮捕、起訴され有罪になった事件だ。20年間以上アヤ子さんの再審請求弁護団の事務局長を務めてきた鴨志田祐美弁護士は、事故死の可能性を排除し殺人事件と決めつけて捜査が行われたことや、知的障害のある証人の自白のみを証拠として有罪にされたことなど、原判決には重大な問題がいくつもあったと語る。
     今年3月には袴田事件で再審開始が決定したが、一方で、日野町事件や名張毒ぶどう事件、飯塚事件など、有罪とされた本人が亡くなってもなお再審請求が認めらない事件が多くある。袴田事件も、再審開始が決定したとはいえ1966年に袴田さんが逮捕されてから57年が経過しており、失われた時は取り戻せない。なぜ日本では再審のハードルがこうも高いのだろうか。
     刑事訴訟法の435条から453条に定められているいわゆる再審法の規定は、「再審の請求は、有罪の言渡を受けた者の利益のためにすることができる」と明記されており、被告人の不利益になる再審はできない。しかし、再審開始の要件は厳しく、元の罪より軽い罪を認めるべき「明らかな」「新しい」証拠が提出されなければ、再審は認められないとされている。
     問題は「明らかな」新しい証拠というのが、どの程度「明らか」でなければならないかという、多分に裁判所の解釈が介在する余地があることだ。裁判所の胸先三寸といった方がいいかもしれない。実は1975年に、一時その解釈を緩める最高裁判決が出されたことがある。「白鳥決定」と呼ばれ、新証拠だけで無実を証明できるほどの力がなくても、確定判決に合理的な疑いが生じるレベルの新証拠が出されれば、再審を認めるべきだとの判断が下された。
     元々、刑事裁判は検察が合理的疑いを差し挟む余地がないほど有罪を立証できているかどうかを裁判所が判断する場なので、合理的な疑いが生じ得る新証拠が見つかれば再度審理を行うのはごくごく当たりの事だ。至って真っ当な基準だったと言えるだろう。
     ところが、白鳥決定のあと80年代に入って、新たな再審基準に基づいて免田、財田川、松山、島田の4つの死刑確定事件が立て続けに再審に付され、いずれも無罪が確定してしまったことで、裁判所は再び再審に対する態度を硬化させてしまう。死刑確定事件の再審無罪が続けば、裁判所の権威が根底から揺らぐとでも考えたのだろうか。
     それにしても裁判所の都合で再審基準が厳しくなったり緩んだりするのも大問題だが、実際そのおかげで1987年の島田事件の再審確定から2023年に袴田事件の再審開始が確定するまで、36年間、確定死刑事件の再審は一件も認められなかった。
     日弁連の再審法改正実現本部で本部長代行を務める鴨志田氏は、日本の再審は通常の裁判に比べて制度改革が遅れていると指摘する。通常の裁判では、2016年の刑事訴訟法の改正で弁護側が証拠の一覧表を請求できるようになった。
     全ての証拠の開示が求められるドイツなどと比べれば、一覧表というのはいかにも不十分だが、再審請求や再審公判では一覧表の開示さえ義務づけられていない。証拠開示命令を行うかどうかは、裁判所の裁量に委ねられている。つまり、検察が実は被疑者・被告に有利になる証拠を持っていたとしても、それを弁護側が入手して再審請求に利用することはできないのだ。
     証拠開示の欠如と並んで日本の再審を困難にしているのが、裁判所の再審決定に対して検察官の抗告が認められていることだ。先の大崎事件でも、裁判所は3度にわたり再審を認める決定をしているが、検察がそのたびに抗告を繰り返したため、上級裁判所で再審決定がことごとく覆されてきた。裁判所が再審を決定し、検察が再審公判で有罪立証のために懸命に汗をかくのではなく、再審公判そのものをやらせないように妨害する権利を日本の検察に与えているのが現在の日本の再審制度なのだ。
     なぜ日本ではこれほどまでに再審のハードルが高いのか。鴨志田氏は戦後GHQが刑事訴訟法だけは近代法に書き換えたが、再審法まで手が回らなかったため、再審法は戦前の裁判所の職権主義のままになっていると説明するが、仮にそうだとしても戦後70年以上が経過した今、再審法を改正し、進駐軍ではなく日本人自らの手で近代的な再審制度を作ることができないはずがない。
     現在の再審法の実態と、冤罪被害者を救済する最後の砦としての再審制度をまともに機能させるために何が必要かなどについて、日弁連再審法改正実現本部本部長代行の鴨志田祐美弁護士と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・国際的に見ても遅れている日本の再審制度
    ・なぜ再審のハードルを高くするのか
    ・大崎事件の不条理な再審却下
    ・社会を変えていく原動力は「合理的な怒り」にある
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    ■ 国際的に見ても遅れている日本の再審制度
    神保: 今日は2023年6月22日の木曜日で、これが1159回目のマル激となります。今日は司法の問題を取り上げます。司法が機能しているのかどうかという問題は、われわれの社会が正義を貫徹できているのかどうかということに関わります。社会には色々な嫌なことがありますが、その上で最後には正義が勝つと思いながら生きるのか、あるいは正義が勝つなんてことを考えてはいけないと思いながら生きるのかということはとても重要です。

    宮台: 僕は裁判ものの映画がとても好きで、そのきっかけは『十二人の怒れる男』でした。裁判所ではそういった「最後に正義が勝つ」といったことが行われていると思い、大学院以降にいくつかの裁判を傍聴しましたが、あっと驚きました。「こいつが検事なのか」と思うようなヘタレ官僚ぶりがオーラで分かりましたし、裁判官にしても、僕が裁判所のあり方について意見を述べたら激昂した人がいました。

    神保: 司法は本当に変わらないですよね。またメディアが完全に捜査機関に依存している状態も問題で、その分、そういったところに依存していないわれわれがしっかり取り上げる必要があります。 
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