マル激!メールマガジン 2023年6月21日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1158回)
孤独・孤立対策推進法が成立した今こそ政府の本気度が問われている
ゲスト:大西連氏(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長)
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 問題の多い法案が次々と流れ作業のように成立している今国会だが、重要で意味のある法案もいくつか成立している。その一つが5月末に可決・成立した、社会で孤独を感じたり孤立している人を支援する孤独・孤立対策推進法だ。同法は5月31日に、与党に加え立憲、維新、国民、共産など超党派の賛成で成立している。
 約3年続いたコロナ禍では人と会う機会が減り、誰もが家に引きこもる時間が多くなった。それに呼応するかのように、このところ減少を続けていた自殺者数が、コロナ感染拡大のなかで増加に転じている。家族や地域とのつながりを失い、孤独・孤立に陥ることで引き起こされる生きづらさの問題は以前から指摘されていたが、コロナ禍でそれがあらためて顕在化している。
 政府は2021年2月、内閣官房に孤独・孤立対策担当室を設置し担当大臣を置いた。5年前に世界で初めて孤独担当大臣を設けたイギリスに次ぐ対応で注目を集めたが、では実際にその後、どのような施策を行ってきたのか。実は、担当室を設置した後、NPOで生活困窮者支援にあたっている自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連氏が2021年6月から政策参与となり、施策の推進に当たってきた。担当室ではNPOとの連携強化のほか、実態調査、支援情報などをWEBサイトに掲載し、今年5月31日には孤独・孤立対策推進法の成立まで漕ぎ着けた。
 2021年度、2022年度と続けて行われた実態調査では、全体の約4割が一定程度の孤独を抱えていることが明らかになり、孤独・孤立問題がもはや一部の特別の人だけの問題ではないこともわかってきた。
 しかし、この問題固有の難しさもある。支援を必要としている人は、孤立しているがゆえに社会との接点を持たず、他人とのコミュニケーションをとることができていない場合が多い。自身の孤独・孤立問題を相談することのハードルも高い。そのスティグマを社会で取り除くことも重要だと大西氏は言う。
 とは言え、今回法律ができたことで、その時々の政権の思いつきではなく、政府全体の問題として継続的に取り組むことが可能になった。法案成立を受けて、総理大臣を本部長とする孤独・孤立対策推進本部も設置される。
 施策の推進には官民連携が欠かせない。これまでのように、単に政府や自治体がNPOなどの支援団体に委託するのではなく、官民が対等な立場で意見を交換しながら、ともに取り組む姿勢を持てるかがキーポイントとなる。
 問題はより深刻さの度合いを増している。大西氏によると、毎週土曜に新宿の都庁下で行っている食料支援を受け取りに来る人は、大西氏が3年前にマル激に出演したときよりさらに増え、過去最多を記録しているという。相互に支え合うことができるような人と人とのつながりを生む社会を作るには、われわれ一人ひとりに何ができるのか。長年生活困窮者支援に尽力してきた大西連氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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今週の論点
・政策によって人とのつながりや仲間を作る難しさ
・社会の雰囲気が変わらなければ、孤独に悩む人は増え続けるばかり
・機能的な支援にとどまれば根本的な解決にはならない
・引き受けて考えることが最初の一歩になる
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■ 政策によって人とのつながりや仲間を作る難しさ
迫田: 今日は2023年6月15日の木曜日、第1158回のマル激トーク・オン・ディマンドです。国会は最終盤で、明日内閣不信任案が出るということですが、解散はなさそうだと報道されています。

 今日は孤独・孤立対策ということで話を進めていきます。これについては法律が通っていますが、実際に何を目指すのかといった話を伺いたいと思います。本日のゲストは、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの理事長でいらっしゃる大西連さんです。大西さんは孤独・孤立対策の推進法に深く関わっていました。

 大西さんには、コロナがひどくなり始めた3年前、マル激にリモートで主演していただいていますが、その時はコロナ禍で生活困窮者が大変な状態にあるという話をしました。その翌年の2021年に、内閣官房の孤独・孤立対策担当室の政策参与になられ、政権の中に入る側になりました。

 そして先月、孤独・孤立対策推進法という法律ができました。この間、どういうお考えで政策参与になられ、状況をどう見ておられ、現在はどういうふうに動いていらっしゃるのかという話を聞かせていただきたいと思います。

宮台: 孤独死が話題になったのは2005年です。あるテレビ局が『ひとり団地の一室で』というタイトルで、年間40名弱くらいが孤独死で亡くなっていた常盤平団地の状況をドキュメンタリーにしました。これをきっかけに人々は孤独死という言葉を知りましたし、「まさかこんな現実があるのか」ということも知りました。当時においても、いわゆる高齢者というよりは65歳未満の人の方が孤独死は多かったんです。