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マル激!メールマガジン 2023年9月27日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1172回)
五輪談合事件に見る、捜査能力の劣化で人質司法に頼らざるをえない特捜検察の断末魔
ゲスト:郷原信郎氏(弁護士)
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メンツを守るために最後は人質司法頼みというのは、あまりにも情けなくないか。
先の東京五輪は、招致段階から多くの疑惑にまみれ、開催が決まった後も国立競技場の当初案の白紙撤回やエンブレムの盗作疑惑等々、ありとあらゆる不祥事に見舞われたあげく、開催費用が当初予算よりも大きく膨れ上がるなど、実に多くの問題が次々と噴出した。それはあたかも今日の日本の劣化ぶりがそのまま反映されているかのようでさえあった。
そのため、東京地検特捜部が五輪の組織委員会や電通の幹部などを対象に捜査に乗り出した時、ようやく司直の手で金満イベントと化した五輪や、かねてから多くの問題が指摘されていた電通の構造的な腐敗や癒着構造が明らかになることが期待された。
これまで東京五輪をめぐる汚職事件では、五輪組織委理事という「みなし公務員」の地位にあった高橋治之元電通専務に賄賂を支払うことでAOKIやKADOKAWAなどの企業が東京五輪のスポンサー選定などで便宜を受けたとされ、15人が起訴され、すでに10人の有罪が確定している。
しかし、五輪はもとよりスポーツ界全般に隠然たる影響力を持つ元組織委員長の森喜朗元首相(差別発言により組織委員長を辞任)や贈賄の疑いでフランスの検察の捜査対象となっている竹田恆和副会長の両トップはもとより、渦中の電通さえも摘発することができなかったため、「大山鳴動して鼠一匹」の感があったことは否めなかった。
そこで検察が次に切ってきたカードが、「東京五輪テスト大会談合疑惑」なる別の事件だった。これはスポンサー選考をめぐり賄賂が使われたとされる東京五輪汚職事件とは別に、東京五輪の直前に予行練習として実施された東京五輪テスト大会をめぐり、組織委と各競技の運営を担当するイベント会社の間で談合が行われたという「独占禁止法違反事件」で、そこで捜査対象となった企業の中には企業としての電通が含まれていた。
テスト大会は本番の五輪よりも遙かに小規模なイベントではあるが、全60競技をほぼ同時期に運営しなければならない大きなイベントだった。汚職事件の方がやや消化不良に終わった特捜部は、このテスト大会の方でなんとか電通本体を摘発しようと考えたのかもしれない。
しかし、このテスト大会談合事件を談合事件として摘発するのはかなり無理筋だった。テスト大会をめぐっては、組織委が発注した計画立案業務を、組織委元次長の森泰夫氏が電通の協力を得て割り振ったことが競争の制限に当たるとして、2023年2月、独占禁止法違反の疑いで森氏、電通元幹部の逸見晃治氏、セレスポ専務の鎌田義次氏、FCC専務の藤野昌彦氏の4人が逮捕、起訴された。あっさり起訴内容を認めた森氏と逸見氏は逮捕から約1か月後に保釈されたが、談合した覚えはないとして無罪を主張した鎌田氏は8月22日に保釈されるまで196日間も勾留された。
同じく無罪を主張しているFCCの藤野氏は、現在も勾留されたままだ。要するに検察のシナリオを受け入れ罪を認めるまで拘置所から出してもらえないのだ。
ところが、そもそも60の競技が同時進行で行われるテスト大会では、競技の運営をする事業者にそれ相応の経験と実績が求められるため、単純な競争入札で事業者を選定することには元々無理があった。しかも、単純な競争入札にすればスポンサーが付きやすく人気のある競技に入札が集中し、逆にマイナー競技は入札が不調に終わるものが出てくる恐れもある。そのためこの手の入札には事前の調整が不可欠となる。その調整を談合として断罪することになると、大会の実施自体が困難になる。
しかも、マイナー競技にも最低1社は入札してもらえるような事前調整が行われていたとしても、最終的な落札率は65%と低く、談合によって落札価格が高い水準で操作された痕跡は見当たらなかった。
検事時代に公正取引委員会に出向し独禁法違反事件を扱った経験を持ち、現在、この事件で被告となったセレスポの鎌田専務の弁護人を務める郷原信郎氏は、今回の計画立案業務は刑法上の公の入札ではなく民間発注であることから、独禁法違反での立件は元々無理筋だったと指摘する。
しかし、検察には人質司法という奥の手がある。身柄を長期に拘束することで被疑者を精神的に追い込み、最終的に検察のストーリーを認めさせることができれば、事件そのものは無理筋であろうが何だろうが、裁判では被疑者を有罪にすることができる。いや、むしろ無理筋であればあるほど自白に頼らざるを得なくなるので、人質司法への依存度が高くなる。もちろん被疑者の勾留中も記者クラブメディアには検察側の一方的なシナリオがひっきりなしにリークされ、その情報はあたかもそれが事実であるかのように報道され続ける。
これではいくら自身の無実を100%信じていても、戦い続けるのは容易なことではない。嘘でも早めに罪を認めてしまった方が、自分自身にとっても、家族や所属する会社にとってもはるかに得策となってしまう。それこそが人質司法の要諦だ。
今回、鎌田氏は6回目の保釈請求で半年ぶりに保釈されたが、そのうちの3回は保釈を審査する裁判官が一度は保釈を認めたにもかかわらず、検察が長文の意見書を付けて準抗告し、保釈許可が取り消されるということが繰り返された。圧倒的なリーク報道と、罪を認めた被疑者が早々と保釈される中、勾留されたまま200日近くも無罪を主張し続けることができた鎌田氏のケースはむしろ異例なものだった。
日本の検察の人質司法が国際的にも批判されて久しい。国連の拷問禁止委員会からも繰り返し改善勧告を受けている。長期勾留と弁護士を同席させない長時間の取り調べが当たり前のように行われる日本の刑事捜査は、国際的には拷問と見做されているのだ。しかも、今回の五輪テスト大会談合事件では、検察は事件の見立てが無理筋であればあるほど人質司法的な手法に頼らざるを得なくなり、被疑者が無罪を主張している限りは検察はあらゆる手を尽くして身柄を拘束し続けようとする。
つまり、別の見方をすれば、人質司法は検察の捜査能力の劣化と表裏一体の関係にあるということだ。無論、人質司法のような悪手に頼っている限り、真の捜査能力が醸成されるはずもない。
しかも、どんなに無理筋の事件でも、裁判所は特捜部が起訴した事件ではほぼ100%有罪判決を出す習わしとなっている。有罪判決は検察の言い分をそのまま書けば簡単に書けるが、無罪判決は検察の立証の不合理さを論理的に指摘しなければならないため、郷原氏によると、今日本にはまともな無罪判決文を書ける裁判官がほとんどいないのだという。
今回は東京五輪汚職事件と談合事件を入口に、検察が人質司法に頼る実態とその背景について、自身も検察の特捜経験を持ち、東京五輪談合事件でセレスポ鎌田氏の弁護人を務める郷原信郎氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・五輪汚職事件と手つかずの「招致をめぐる闇」そして「電通の闇」
・無理筋の五輪談合事件と人質司法
・無罪を証明しなければならない日本の司法
・検察はどこに向かうのか
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■ 五輪汚職事件と手つかずの「招致をめぐる闇」そして「電通の闇」
神保: 今日は2023年9月22日の金曜日で、1172回目のマル激となります。検察の死というテーマについて話していきますが、その中で東京オリンピックに関わる問題について、当事者でもある弁護士の郷原信郎さんに来ていただきました。
五輪には様々な問題があったということは皆知っていると思いますが、五輪談合事件というのは何だったのでしょうか。
郷原: 東京五輪をめぐる検察の事件というものは、高橋治之氏が逮捕された五輪汚職事件から始まっています。スポンサー企業から賄賂が渡っていたということで、次々と逮捕者が出ました。皆、この事件に期待したと思うんです。
神保: 東京五輪の闇、電通の闇が明かされると期待したわけですね。
郷原: はい。しかし期待された成果は何もありませんでした。皆が期待していたのは安倍政権時代の東京五輪というものの背景に何があったのかということや、招致をめぐる疑惑などでしたが、中途半端なままです。電通がほとんどを差配しているという「電通の闇」など、いろいろなことが明かされることに期待したのですが、結局何もなかったんです。その東京五輪汚職事件の後に検察が言い訳的に手掛けたものが、東京五輪談合事件だったわけです。
電通の闇がどうなったのかと言われる中、汚職事件に関しては何も出てきませんでした。高橋治之氏は電通の元専務で、彼が電通の闇にどう関わっていたのかということを皆知りたがっていたのですが、実際の検察捜査では、フィクサーと呼ばれる高橋治之氏と、彼に近づいたスポンサー企業をやっつけただけです。そこで何とか電通にも手をつけなければ格好がつかないということだったのでしょう。
たまたま東京五輪のテストイベントの計画立案業務に関して談合らしきことがあったという話を、五輪汚職事件で逮捕、起訴されたADKという広告代理店がしてきたので、それに飛びついたんです。ADKにリーニエンシー申告をさせて、公取委を巻き込みました。
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