マル激!メールマガジン
5金スペシャル映画特集:映画が警告する相互不信が生む暴力
マル激!メールマガジン 2023年10月4日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1173回)
5金スペシャル映画特集
映画が警告する相互不信が生む暴力
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月の5回目の金曜日に神保哲生と宮台真司が特別企画を無料放送でお届けする5金スペシャル。今回も恒例となった映画特集をお送りする。
今回取り上げたのは、『福田村事件』(森達也監督)、『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』(デビッド・ミデル監督)、『サタデー・フィクション』(ロウ・イエ監督)の3作品。それに加えて、最近話題となったTBSドラマの『VIVANT』も論評した。
『福田村事件』は、関東大震災から100年の節目となる今年公開された、1923年9月6日に千葉県福田村で実際に起こった虐殺事件を描いたもので、マル激ではお馴染みのドキュメンタリスト森達也氏による初の劇映画。事件そのものは香川から来た行商人9人が村人によって虐殺された事件だが、関東大震災の混乱の中では、井戸に毒を入れたのではないかなどのデマによって数千人の朝鮮人が虐殺された。その中で、福田村のように朝鮮人と間違われて殺された日本人もいた。
大震災によって秩序が崩壊した地域に住む日本人の間では、朝鮮併合以降朝鮮人たちを侮蔑し差別してきたことの仕返しに、震災の混乱の中で朝鮮人が日本人を攻撃してくるのではないかというパラノイアが蔓延したという。この映画では集団的パラノイアが暴走し始めたとき、どのような悲惨なことが起き得るかが克明に描かれている。
『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』も、実際に2011年に起きた白人警察官による黒人殺害事件を描いた作品だ。心臓病と双極性障害をもつケネス・チェンバレンは、医療用の通報装置を誤作動させてしまう。安否確認にやってきた警官に間違いだと伝えても信じてもらえず、不信感を抱いた警官がついにアパートのドアを壊してまで突入し、その勢いでケネスを射殺してしまうという悲惨な事件だ。黒人のケネスはドア越しに複数の白人警官の姿を見たとき、白人に対する不信感から何があっても彼らをアパートに入れてはならないと考えた。
その一方で、黒人といえば犯罪に関わっているに違いないという先入観に強く毒されている白人警官たちは、頑なにドアを開けようとしないケネスに対して、誰か監禁しているのではないかとか、違法な物を隠し持っているのではないかといった不信感を抱く。ドア越しにお互いに対する不信感が増幅する中で、最後は警察官の実力行使が悲劇的な結末を迎える。
心に闇を持つケネスが感じた恐怖と次第に行動をエスカレートさせていく警官側の行動の異常さが、息つく暇もないほどの緊迫感で描かれているが、やはりこの作品でも集団的パラノイアの怖さが強調されている。
『サタデー・フィクション』はロウ・イエによる2019年の作品。日本による真珠湾攻撃の1週間前、当時「魔都」と呼ばれた上海の外国人租界を舞台に、日本の攻撃目標を探り当てたい連合国側の諜報員と、むしろ日本がアメリカの奇襲攻撃に成功することでアメリカを戦争に引っ張り込みたい中国の国民党、共産党両政府のスパイ、そして高度な暗号を使って日本軍の計画を軍関係者に周知させようとする日本軍の情報将校との間で繰り広げられる謀略が巧みに描かれている。
昔からの仲間たちがそれぞれ異なる勢力によってリクルーティングされた結果、誰が誰のために働いているのかが誰にもわからないという異常な空気感の中、お互いに対する疑心暗鬼はやはりこの映画でも悲惨な結末を迎える。女優にしてフランスのスパイ役を演じたコン・リーの熱演が光る。日本では11月3日から公開予定だ。
番組の最後に、番外編としてTBSドラマ『VIVANT』を取り上げた。ドラマでは、警視庁公安部と陸上自衛隊の秘密組織とされる「別班」が、人知れずテロから国を守るために活動しているというストーリーで、国家への忠誠心と使命感に溢れる自衛隊の別班メンバーと公安警察が歴史の裏側で大活躍をしているという設定になっている。ドラマ自体は面白く、非常に完成度も高いものだが、現実の社会では真反対のことが起きている点が少し気がかりだ。
現実の社会では、公安警察は活躍の場面がなく予算や人員を減らされることへの焦りから、中国への輸出が禁止されている機械を販売したとの嫌疑を無理やり作り上げ、大川原化工機の社長らを逮捕した。そこから先はいつもの人質司法によって被疑者を長期勾留することで無理やり自白に追い込み、実際にはありもしない事件をでっち上げようとしたが失敗。最後は起訴の取り下げに追い込まれるという醜態を演じたばかりだ。
また、一方の自衛隊は入隊希望者が集まらず定員割れが続く中、女性自衛官に対するセクハラ裁判が世間の耳目を集めるという体たらくだ。そうした現実を前に、自衛隊の秘密部隊や公安警察のエリートたちが陰ながら日本を支えているという舞台設定は、「こうであったらいいのに」という希望や期待を描いたものと見ることもできなくはないが、それにしてもあまりにも大きな現実とのギャップはブラックユーモアの感さえ否めない。
むしろ日本の問題は、実際に日本が直面している問題は山積していながら、それをテーマにしたドラマがほとんど見当たらないところではないか。現実とは真反対といっていい設定のドラマが人気を博することこそが、今の日本のやばさを反映しているのかもしれない。
なお、番組冒頭では、日本代表が10月8日に決勝ラウンド進出をかけてアルゼンチンとの決戦にのぞむラグビーワールドカップの見どころと、10月1日から始まるインボイス制度の問題点についても触れた。インボイス制度については、制度の妥当性を論じる前に、まずは嘘に嘘を塗り重ねてきた消費税という制度の本質を理解することが何よりも重要なのではないだろうか。
中曽根政権下の1987年、売上税とともに税額が明記された「税額票」制度の導入に失敗して以来、税額票が名前を変えただけの「インボイス」の導入は財務省にとっては36年来の野望だった。そもそも売上税を消費税と名前を変えるだけでその導入に成功し、今また税額票をインボイスと名称変更することで、制度化を強行しようとしている。制度自体に賛成でも反対でも、言霊を利用したその騙しのテクニックだけは、市民一人ひとりが正しく受け止めておく必要があるだろう。
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今週の論点
・『福田村事件』が語るもの
・『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』―相互不信が引き起こす悲劇
・『サタデー・フィクション』が描く暗い社会で輝く恋
・自分たちの問題を直視できない日本社会の病理
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■ 『福田村事件』が語るもの
神保: 今日は2023年9月29日の金曜日です。これが1173回目のマル激となります。今回は5金になるので、『福田村事件』、『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』、『サタデー・フィクション』、『VIVIANT』の4つの作品をテーマに話していきたいと思います。
福田村事件は、事件そのものについてご存じの方もいるかもしれませんが、千葉県の福田村という場所で、朝鮮人と間違えられた被差別部落出身の薬売りの行商人集団が虐殺されました。当時は朝鮮人かどうかを確認するために「15円50銭」と言わせていましたが、彼らは四国出身でなまりがあったので自警団の暴走によって間違われてしまいました。朝鮮人虐殺については色々なデータがあり、数百人から数千人まで、本当に何人が死んだのかは分かりません。
しかし吉野作造が在日朝鮮同胞慰問会の調査を基にして打ち出した数字は2,613人で、当時は朝鮮人が東京に1万人前後しかいなかったので、そのうちの4分の1が殺されたということになります。
今回は映画批評ということで、監督の森達也さんはわれわれの親しい友人ですが、できは悪かったと思います。
宮台: 僕の評価は最悪に近いです。森さんはその前に『FAKE』というドキュメンタリーを作っていて、また彼のドキュメンタリーの出発点は『職業欄はエスパー』という23分くらいの作品です。これらは全て善は善、悪は悪といったトートロジーを疑うものです。それだけではなく、善は実は悪だったとか、悪は実は善だったという、プロパガンダでよく使われる手法も使いません。よく見れば見るほどよく分からなくなるという点で、ある時期以降の鈴木邦男さんとよく似ていて、そういう観点から言うと『福田村事件』はすごく単純な図式になっています。
普段はこんなに良い人が、パニックになると暴走してしまうという描写があります。また、良い人であるという描き方が、全て人間関係なんです。脚本は荒井晴彦さんですが、彼の脚本で良かったものはほとんど見つけられません。荒井さんには悪いですが、図式化すると、この映画は天下国家のことを論じる前に性愛を考えろという図式なんです。宮台と同じじゃないかという人もいるかもしれませんが、全然違います。
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