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松永和紀氏:人を不健康にする健康食品のリスクをそろそろ真剣に考えませんか
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松永和紀氏:人を不健康にする健康食品のリスクをそろそろ真剣に考えませんか

2024-05-15 20:00
    マル激!メールマガジン 2024年5月15日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1205回)
    人を不健康にする健康食品のリスクをそろそろ真剣に考えませんか
    ゲスト:松永和紀氏(科学ジャーナリスト)
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     そもそも健康食品とは何なのか。実はこの問いには誰も答えられない。なぜならば、そもそも健康食品には法的な定義など存在しないからだ。
     その一方で、ほとんど効果がないばかりか実際には人体に有害になり得る商品が、「健康食品」の名で日々、大量に売られている。
     紅麹を使ったサプリメントによる中毒は、これまでに5人が死亡し270人もの入院者を出す、未曽有の食害事件となっている。医療機関の受診者も1,541人にのぼり、海外でも影響が出ているという。
     小林製薬の紅麹コレステヘルプの中毒については、現時点ではまだ原因が特定されていない。しかし、食品安全に詳しい識者の多くが、健康食品産業が野放図に膨張する中で、今回のような事故が起きるのは時間の問題だったと口を揃える。
     繰り返すが、そもそも「健康食品」には法律上の定義がない。人が口から摂取するものとしては医薬品と食品があるが、両者は異なる法律によって厳格に区別されていて、認可の基準も大きく異なる。薬機法(旧薬事法)によって厳しく管理されている医薬品と異なり、食品は法的には認可を必要としない。
    錠剤のサプリメントなどは素人目には限りなく薬に近い存在に見えるかもしれないが、法的にはあくまで食品だ。今回問題となっている小林製薬の紅麹を使ったサプリメントも、医薬品ではなく食品だ。なので今回の事故は薬害ではなく、食害もしくは食中毒ということになる。
     食品を売るためには認可などを必要としないが、その分、通常の食品は健康効果を謳うことが薬機法によって禁じられている。ところが1980年代以降の世界的な健康ブームの高まりの中、日本でも特定の食品に健康上の効果を表示して売り出したいという業界からの強い要請があがるようになった。それを受けて政府はまず1991年に食品の中に「特定保健用食品」というカテゴリーを設け、一定の基準を満たした食品については、健康上の効果を謳うことができるようになった。いわゆるトクホである。
     トクホというカテゴリーが設けられたことで、許可を得た食品は健康上の効果を謳うことが可能になったが、トクホの認定を受けるためには通常10年の年月と億単位のコストがかかるとされ、そのハードルは決して低いものではなかった。現実的には大手企業でなければトクホの認定を取得することは困難だった。
     しかし、2015年に規制緩和を旗印に掲げる安倍政権の下、アベノミクスの一環として新たな食品のカテゴリーとして「機能性表示食品」というものが導入された。これはトクホよりも遥かに簡単な手続きでメーカーが健康食品の効果を謳うことを可能にする制度で、企業がガイドラインに則って効果や安全性を確認し、書類を消費者庁に提出すれば、機能性表示食品となり製品の健康上の効果を謳えるというもの。届け出された書類については消費者庁は形式的な確認しか行わず、よってその内容にも責任を負わない。
     機能性表示食品制度の導入によって、国の審査を通過する必要があるトクホに比べて企業は遥かに簡単に商品の健康上の効果を謳えるようになり、これによって売り上げも爆発的に伸びたため、機能性表示食品が市場に溢れるようになった。1991年に導入されたトクホが33年間で1,054件しか認められていないのに対し、機能性表示食品の件数は導入から僅か9年間で6,752件にのぼっている。機能性表示食品制度の導入によって、トクホではとても手が届かなかった中小企業でも健康食品市場への参入が可能になったのだ。
     小林製薬の紅麹コレステヘルプもラベルで大きく「悪玉コレステロールを下げる」「L/H比を下げる」と謳っているが、これはこの商品が機能性表示食品としての届け出をしているから許されたものだった。
     しかし、機能性表示食品の制度が導入された当初から、科学的な根拠のない健康効果を謳う商品が乱造され、いずれはそれが健康被害を生む可能性があることが懸念されていた。機能性表示食品の届け出をするためには、一応その効果の根拠となる論文を添付しなければならないことになっているが、何とその論文がどの程度権威や信頼性のあるものなのかは問われていないのだ。
     科学的な根拠が希薄で、生産管理についても国は一切関与していないが、それでも商品のラベルには大々的に健康上の効果を謳うことができる。多くの消費者は当然それを信じ込み、中には毎日その「食品」を一生懸命に摂り続ける人もいるだろう。今回の紅麹食害はそうした中で起きた、いわば起きるべくして起きた健康食品の食害事件だったのだ。
     科学ジャーナリストの松永和紀氏は、食品の特定の成分を抽出してそれをサプリメントの形で摂ることのリスクを強調する。栄養は食品として他のものと一緒にバランスよく摂ることによって効果が生まれるものが多い。食品の特定の成分を抽出・濃縮して摂取すれば、より高い効果が期待できるという性格のものではない。ましてやサプリメントは毎日摂取されることが多いため、特定の物質だけを過剰摂取することになりやすく、健康上のリスクが懸念されると言う。
     紅麹コレステヘルプによる食害が起きるべくして起きた事件だと言われる理由は何なのか。そもそも健康食品とは何で、なぜ十分な科学的エビデンスに基づかない効果を謳った商品がこれだけ大量に売られているのか。健康食品ブームを引き起こした健康に対する不安はどこから来ているのかなどについて、松永和紀氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
    (松永氏より、今回の番組内の氏の発言は所属する組織の見解を示すものではなく松永氏のジャーナリストとしての見解であることを付記してほしい旨の申し入れがありましたので、ここに追記いたします。)

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    今週の論点
    ・起こるべくして起きた機能性表示食品の事故
    ・機能性表示食品は誰のための制度なのか
    ・食品の過剰摂取のリスク
    ・バランス良く食べるという一番つまらなくて一番健康的なこと
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    ■ 起こるべくして起きた機能性表示食品の事故
    神保: 今日は2024年5月10日の金曜日です。紅麹の問題は、原因がいまだによく分かっていないということもありなかなかやりにくかったのですが、今日は健康食品問題を取り上げます。ゲストは科学ジャーナリストの松永和紀さんです。松永さんは元々毎日新聞に長くおられて食品問題に関わっていました。現在、食品安全委員会の委員でもいらっしゃいますが、今日はジャーナリストとして来ていただきました。
    皆サプリメントなどをたくさん摂っているのにもかかわらず、なぜそれについてはほとんど知らないのかということがテーマになるかもしれません。

    宮台: 日米構造協議が本当は日米構造障壁協議のインチキ役だったことと同じように言葉のマジックに騙されるという問題がありますよね。松永さんの記事を読むと、紅麹は医薬品のような成分が入っているものであり、麹のようなものではないということが書いてあり衝撃的でした。

    神保: 小林製薬は紅麹が入った健康食品をいくつか作っていたのですが、「紅麹コレステヘルプ」という商品は機能性表示食品で、これは薬ではなく食べ物です。機能性表示食品は実際に政府が何かを認めたわけではなく、届け出だけで名乗って良いものであるにもかかわらず、パッケージには「悪玉コレステロールを下げる、L/H比を下げる」と表示されています。ただ「高血圧を下げる」という言い方はだめなんですよね。

    松永: 高血圧は疾患名なのでだめです。

    神保: ただ「悪玉コレステロールを下げる」、「L/H比を下げる」という言い方が許されていると完全に騙されてしまいますよね。

    宮台: 僕なら騙されます。 
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