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島薗進氏:70年後、日本は立ち止まれる国になったのか
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島薗進氏:70年後、日本は立ち止まれる国になったのか

2015-08-19 20:00

    マル激!メールマガジン 2015年8月19日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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    マル激トーク・オン・ディマンド 第749回(2015年8月15日)
    70年後、日本は立ち止まれる国になったのか
    ゲスト:島薗進氏(東京大学名誉教授・宗教学者)
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     かつて無謀な戦争に突き進んだ結果、未曾有の惨禍を招いた日本は、70年経った今、立ち止まるべき時に立ち止まれる国になれたのか。
     奇しくも戦後70周年を迎える今週、政府は九州電力の川内原発の再稼働を容認した。原子力非常事態宣言が発令され、福島第一原発事故が未だ収束しない中での原発の再稼働だった。原発の再稼働は進めるべくして進めているものなのだろうか。それとも、止めることができないから、結果的に進んでいるものなのだろうか。
     東京大学名誉教授で宗教や倫理が専門の島薗進氏は、残念ながら止まらない日本は本質的には今も変わっていないと指摘する。新国立競技場も誰が推進主体なのかがはっきりしないまま、「有識者」が選んだ無謀なデザイン案が推し進められ、結果的に既存の競技場を解体した後になってようやく白紙撤回された。半世紀の間、工事が中断していた八ッ場ダムは結局、4600億円もの税金が投入され、今も建設工事が進んでいる。
     安倍首相は14日、戦後70年談話を発表しているが、その内容は島薗氏が「色んなことを言っているが大事なことは言っていない」と指摘するように、一見、歴史と向き合う姿勢を見せているようでいて、実は過去の災禍の責任主体が不明な表現に終始している。
     誰が責任主体なのかが不明なまま、事態だけが進んでいく。結果的に悲惨な結末を迎えた時、各界の指導者たちは「自分は反対だったが、流れに抗えなかった」と責任逃れをする。この体質から脱皮できない限り、日本は立ち止まるべき時に立ち止まることなどできようはずもない。逆に言えばそれは、進むべき時に進めないことも意味している。
     しかし、島薗氏は市民社会はまだ不十分ながら、着実に経験を積みながら、権力に対するチェック機能を強化してきていると指摘する。今回の安保法制を巡る議論でも、日本においてここ数年ほど憲法に関心が集まったことはないというほど、市民、とりわけ若者が憲法に関心を持ち、政府に疑問を持った人々が日々国会前、官邸前で抗議行動を行うようになった。憲法が権力を縛るものであるという立憲主義が広く共有されるようになった。
     果たしてこうした動きが「立ち止まれる日本」への第一歩となり得るのか。70年前に暴走を抑えられなかった日本の現状を、宗教と倫理の視点を交えながら、ゲストの島薗進氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・戦後70年談話はどんな意図で作られたか
    ・民主制に不信感が募る時代に、宗教に求められること
    ・“体で考える”――SEALDsに見る希望
    ・日本はいざとなったら止まる術を持っているのか
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    ■戦後70年談話はどんな意図で作られたか

    神保: 今日は8月14日。安倍首相は今日、戦後70年談話を出しました。なぜ終戦記念日の前日なのかというところもよくわからないのですが、70年経って、日本は変れたのでしょうか。そもそも、原発の再稼動や国立競技場の件にも見られるように、われわれは自分たちで主体的に物事を止めるということがとても不得手のように見えます。そこで、今日は宗教や倫理のご専門の先生をお呼びして、どうして止まらないのか、どうすれば止まるようになるのか、という糸口を探っていきたいと思います。ゲストは東京大学の名誉教授で、宗教学者の島薗進さんです。島薗さんは今日、国会前の集会、デモで演説をなさった後、スタジオにおいでくださいました。

    島薗: 演説といいますか、スピーチをいたしました。

    神保: SEALDsの国会前集会ですね。今回のSEALDsを中心としたデモを島薗さんはどうご覧になっておられますか。

    島薗: 私は非常に高く評価しています。皆、言うことがストンと腹に落ちる。実に急所を突いたことをわかりやすい言葉で言っているという気がします。

    神保: 今までのこうした動きと、今回のこのSEALDsを中心にした動きと、何が違いますか。

    島薗: 理屈ではない、党派など色々なものがくっついていない、一人の人間が信ずるところ、思うところに従ってモノを言う。それが共鳴して、広がってゆくというところでしょう。今日もあの国会周辺に何名いたかわかりませんが、それが全国に響き、世界に響いています。ですから、今日、私は「みなさんの言葉は、安倍首相の胸にグサっと刺さっています」と話ました。

    神保: 聞くところによると官邸、特に安倍さんは若者のこうした動きを気にしているようです。さて、つい先ほど、安倍さんが70年談話というものを出しましたが、これをどう見ますか。

    島薗: 一応、SEALDsのデモへ行く前に、ざっと聞いてきました。その印象でいいますと、とにかく色々なことは言っているけれど、大事なことは言っていないということです。相手に向き合っていない。それは安倍首相の特徴ではないかという気がします。アジア、特に韓国や中国の人たちが見て、「何だこれは」と思うのではないでしょうか。

    神保: 宮台さんは、この70年談話についてはどう考えますか。

    宮台: 談話の作成にあたって官僚に何を発注したのかよくわかります。つまり「直接表現での謝罪はしたくない」ということでしょう。しかし、それを通すことはできないから、これを聞いた人、あるいは読んだ人が、「謝罪の気持ちがあるのだな」と忖度してくれるような表現にしろと。そういうインプレッション・コントロールを役人たちにオーダーした。これは明白です。

     
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