宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。9月25日に放送された第4回のテーマは「消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい」。栗原一貴さんと濱崎雅弘さんをゲストに迎えて、消極的な人々のコミュニケーションを手助けすることで、彼らの秘められたポテンシャルを引き出す「消極性研究会」の活動について掘り下げます。(構成:籔和馬)
NewsX vol.4
「消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい」
2018年9月25日放送
ゲスト:栗原一貴・濱崎雅弘(消極性研究会)
アシスタント:加藤るみ(タレント)
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『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』の記事一覧はこちら
消極性研究会との出会い
加藤 NewsX火曜日、今日のゲストは消極性研究会から、栗原一貴さん、濱崎雅弘さんのお二人です。よろしくお願いします。
栗原&濱崎 よろしくお願いします。
加藤 お二人とも本業は研究者なんですよね?
栗原 はい。でも、消極性研究会も本業としてやっている活動で、ユニット名とかじゃないんです(笑)。
宇野 お二人の厳密なご専門はどんな感じなんですか?
栗原 専門は主に情報科学の分野で、コンピューターをどういうふうにデザインしたり、プログラミングしたりすれば、人にとって役に立ったり、面白い応用ができるのかを研究しています。
加藤 お二人が参加している消極性研究会を、これから深掘りしていきたいと思うんですが、宇野さんはどういう経緯でお知り合いになられたんですか?
宇野 僕の友人に簗瀬洋平さんというゲーム作家の人がいるんですよ。簗瀬さんは、僕が作っている雑誌の「PLANETS vol.9」に参加してもらっていて。それがご縁で仲良くなって、僕がクローズドでやっていた勉強会のメンバーになってもらったんですよ。その中で、「実は私、消極性研究会に参加しています」と簗瀬さんに言われて、なんじゃそりゃと思って、くわしく話を聞いたら、めちゃめちゃ面白くて。その頃に、消極性研究会の研究をまとめた本(『消極性デザイン宣言-消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。』が出たんですよ。その本を読んで、本当に面白いなと思い、消極性研究会のみなさんにうちのメールマガジンで連載をしてほしいとラブコールをずっと送っていたんですよ。そのときは、本が出たばかりで事例がまだ溜まっていないから、ちょっと待ってくださいと言われたんですけど。念願叶って、数ヶ月前から、消極性研究会には5人のメンバーがいるんですけど、ローテーションでうちのメールマガジン用に記事を書いてもらっているんですよね。その流れで、「PLANETS vol.10」にも出てもらって、今日も来ていただいたという感じです。
『消極性デザインが社会を変える。まずは、あなたの生活を変える。』過去の配信記事はこちら。
加藤 今日のテーマは「消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。」としました。
宇野 これは先ほど紹介した消極性研究会さんの著書のサブタイトルなんですけど、すごくいいキャッチだと思うんですよね。
栗原 相当悩んでつけましたからね。
宇野 今のコンピューターの力を使うとか、最新の認知科学とか、いろんなものの知見を合わせると、積極的じゃない人でも気持ちよく世の中を暮らすデザインはいっぱいできるんじゃないかという、すごいポジティブな発想に溢れていて、その精神が凝縮されたコピーだと僕は思っているんですよね。
コミュニケーションの現代的困難に向き合う「消極性研究」
加藤 それでは、今日も三つのキーワードでトークしていきたいと思います。まず一つ目が「消極性研究とはなにか」。
宇野 「消極性研究」という言葉は、世界でたぶんみなさんしか使っていない言葉だと思うんです。
栗原&濱崎 (笑)。
宇野 消極性研究とはなにか、ということをストレートにお伺いしたいと思います。
栗原 まず、消極性を、コミュニケーションに対する苦手意識と、あとやる気が出ない、モチベーションが上がらないという、二つの意味で名付けて使っています。昔はやる気があることが当然で、やる気がなければ鍛えるとか教育して直すという感じで、人付き合いがうまい人が世の中でのし上がっていくような、単一リアル社会至上主義みたいなものがあったと思うんですよ。ジャイアンみたいな人が勝つみたいな。
昔はそういう世の中だったけど、今は情報化社会になってきたから、個人が扱わなきゃいけない情報も増えたし、関わらなきゃいけないコミュニティやコミュニケーションがどんどん増えてきたと思うんですよ。だから、自分の時間やコミュニケーションに関わるリソースをちゃんと配分して生活しなければ、すぐに個人が破綻してしまうような世の中になったんじゃないかと思うんですよね。なので、積極的な人、消極的な人と二分して話していましたけど、「実は積極的だと思っていたあなたの中にも消極的な部分、ちょっとぐらいはありませんか?」と言うと、だいたいの人が「あっ」と言うふうに思ってくれると僕は信じていますけどね。
宇野 そもそも説教とか、ああしろという強制とかは、自分にウットリした人がやることだと思うんですよね。本当に世の中を変えようとしたら、仕組みを変えないといけない。説教で世の中を変えられるんだったら、説教がうまい人が死んじゃったら意味ないし、持続しないですよね。だから、最終的には仕組みを変えていかないと、絶対に世の中はうまくいかないと思うんですよ。ただ、今のコミュニケーションとか、人間関係とか、やる気とかは、最近までデザインしようという発想が希薄だったと思うんですよ。それが今、認知科学とか、情報工学とか、いろんな科学の発展によって、デザインできるんじゃないかという段階にきたんだと思うんですよね。だから、消極性研究が自然と生まれてきたんじゃないかなと思うんですね。
栗原 グラフを出していただきたいんですけど。
栗原 圧倒的にコミュニケーションが求められ続けていますけど、「コミュニケーションとは何か」と聞かれたときに、「うーん……?」とみなさんなっていませんかね。コミュ力ってどうするの? 何かを説得する力なの? それとも、共感を得る力なの? というのが、わけがわからないまま、特に学生とかが就活で苦労しているわけですよね。
宇野 このグラフ、絶望的に頭悪いですよね。
一同 (笑)。
宇野 全部同じことを言っていません? 要は、自分におべんちゃらを使ってくれて、なんでも言うことを聞くような使いやすい社畜予備軍の学生が欲しいよ、ということでしょ。
加藤 たしかにコミュ力を鍛えたらいいと言いますけど、どうやって鍛えるんだろうとか思ったりもします。
栗原 個人が関わるコミュニティが多様化してくると、このコミュニティではやる気はあるけど、こっちはそうでもないとか。あれだけ好きな友達だったけど、5分おきにLINEがくると鬱陶しいとか。そういうのはいくらでもあると思うので、個人がどんな対象に、なけなしの積極性を発揮できるかというのは予測不可能なものであると捉えて、世の中を計画したほうがうまくいくんじゃないかと思うんですよね。なので、先ほどおっしゃったように、それは叱咤激励ではなくて、浮き沈みが人間にはあるから、どんな状況になってもやっていけるような仕組みを自分の身の回りからデザインしていきましょうと。それは難しいコンピュータ・プログラミングやモノづくりだけじゃなくて、取り決めや約束事ぐらいでもいいんですけどね。そういうところから始めていきましょうと言っているのが、本の中でも言っている「SHY HACK」しましょうということなんですよね。
加藤 「SHY HACK」とは?
栗原 シャイを懲らしめてその人を改善するんじゃなくて、シャイに向き合って状況や環境を改善するためにはどうすればいいのかということを、ローカルなところから始めていこうというような取り組みを紹介しています。
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