編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。今回は、「LIFE SPEC」をコンセプトに、日常で感じるストレスを無くすプロダクトを開発するファッションブランド「ALL YOURS」代表取締役の木村昌史氏にお話を伺います。大手アパレルブランドでの勤務を経て同ブランドを立ち上げた木村氏は、「かっこよさ」「見た目のデザイン」「権威」といった従来のアパレルブランドの常識にとらわれず、「週7日でも着たくなる『インターネット時代のワークウェア』」づくりに挑戦。24ヶ月連続でクラウドファンディングを展開し、総額5000万円以上を集めたのみならず、日本のファッション業界でもっとも権威ある賞の1つ「毎日ファッション大賞」にもノミネートされています。インターネットの登場によって生じたファッションの社会的立ち位置の変化、実は100年前から存在していたDtoCモデルの歴史から、ヒッピー文化にも通ずる「内面」志向、そして木村氏の活動に通底するアービトラージ思考と“狂気”にまで迫ります。(構成:小池真幸)
「着ていることも忘れてしまう」服をつくりたい–––インターネットは、ファッションの社会的ポジションをいかに変質させたのか
長谷川 木村さんとは、2019年2月に開催された古本市「ツドイ文庫 vol.4」でご挨拶した以来ですよね。本日は取材を快諾してくださり、ありがとうございます。
まず木村さんが手がけているファッションブランド「ALL YOURS」について伺いたいのですが、立ち上げはいつ頃だったのでしょうか?
木村 2015年です。いま4年目ですね。
長谷川 立ち上げ以前は、どのようなご活動を?
木村 もともとは、株式会社ライトオンで店長職や本部勤務に従事していました。その後、ジーンズの製造メーカーに転職し、ALL YOURSを立ち上げるまで1年ほど働いていましたね。
長谷川 ライトオンからジーンズのメーカーに転職されたのはなぜでしょう?
木村 ALL YOURSが掲げるコンセプト「LIFE-SPEC」(日常生活で必要な機能を合わせ持ち、ストレスから人を解放する製品、サービスのこと)にも関わってくるのですが、「ヒトの身体に一番近い道具」としての洋服に関心があって。
長谷川 だからこそ、いわば「作業着」で「道具」的であるジーンズに関わることにしたのですね。
木村 結局、1年後には「他に同じようなことを考えている人がいないから、自分で作ってしまおう」と思い直し、ALL YOURSを立ち上げることになったのですが(笑)。
僕が高校生だった時期くらいまで、洋服は自己表現の手段でした。雑誌で最新のトレンドを確認し、自分の志向性に合ったファッションを身にまとう。結果、人びとが裏原系や渋谷系といったセグメントに分かれていきました。「何を着ているか」で、その人の志向性が読み取れる時代だったんです。