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記事 4件
  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第4回 コモンセンス・望月優大はなぜ社会問題にコミットするのか?“自分が自分自身と共に生きるため”の思考と実践

    2018-02-06 07:00  
    540pt

    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は産業医の大室正志先生に教養の裏側にある、思考の体系をお伺いしました。今回は大室先生も名前を挙げたミシェル・フーコーを大学院時代に研究し、現在は株式会社コモンセンス代表を務める望月優大さんにお話をお聞きしました。経産省、Google、スマートニュースなどに在籍するなかで、なぜ望月さんは社会問題へコミットするようになったのか。歴史や権力について考えるようになった最初のきっかけは、10代の頃に出会ったヒップホップだったそうです。インタビュー全体を通奏することになる、ハンナ・アーレントの「自分と共に生きられるか」という問い。「自由とはなにか」について思いを巡らせながら、ぜひお読みください。
    長谷川 社会にはたくさんの問題がある一方、自分の時間は限られています。そのなかでも、望月さんはクラウドファンディングを用いて教育格差の是正に取り組む「スタディクーポン・イニシアティブ」の立ち上げや日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』の編集長を務められています。いま望月さんがイシューとして捉えている領域はどの辺りになるんですか?
    望月 分かりやすいところでいうと、一つに移民や難民の問題があります。難民支援協会とともに運営するウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』はその取り組みの一つです。日本は一般に「単一民族国家」と言われることも多いですが、実際には中長期で滞在している外国人が250万人近くもいます。そして、その数は年々増え続けている。
    東京の場合、コンビニやファストフード店で働いている姿を見ることも多くなっていますよね。ただ、その現象を数字以上のものとして捉えられていないのが現状です。「日本って何なんだろう」ということを考える目的で、移民の問題に取り組んでいます。概念としての「日本」の内実には、何が含まれ、何が含まれていないのか、その境界線や揺らぎを丁寧に考えてみたい。既成概念を少しでも緩められないかと活動しています。
    長谷川 「スタディクーポン」に関してはいかがでしょうか?
    望月 「スタディクーポン」はいわゆる貧困問題に対するプロジェクトで、特に子供の教育にフォーカスしています。生まれた環境によって生じる機会格差に対して社会としてその機会を担保しようとする制度自体はいくつか存在しますが、まだまだカバーできていない領域がある。その一つが「塾代格差」という問題で、そこを埋めるために始めたプロジェクトです。同じ日本について「中と外」、「上と下」という両面で考えてみる。とくに、一個人として下から上に登った後に見えづらくなってしまうものに意識を向けるための活動をしていますね。
    日本の労働力を支える「留学生」という存在
    長谷川 まずは移民についてからお伺いさせてください。普段から、コンビニとかで働いている外国人の方を見かけるのですが、あの方たちは難民なんですか?
    望月 在留資格には様々な種類があり、働ける資格とそうでない資格があります。日本人と結婚した定住者、技能実習生や観光など、さまざまなステータスがありますが、例えば観光客は働くことができません。最近注目されているのは、留学生でコンビニなどで働いている方たちです。日本で勉強をしている留学生は、週28時間までは労働していいとされています。週5日の場合は1日5時間ちょっと、あるいは週8日の場合は1日3時間ちょっとは働ける計算になる。
    長谷川 労働が許可されているとなると、勉強に先んじて、日本で仕事をすることが目的で来日する人も少なくないんですか?
    望月 ベトナムやネパールなどからやってきて、本国に仕送りをする人もいるでしょう。留学と聞けば大学を思い浮かべるかもしれませんが、基本的には日本語学校で学ぶケースが多いと言われています。新宿などにある日本語学校で勉強しつつ、コンビニやファストフードでアルバイトをしているという方は多いと思います。
    長谷川 ただ現状、政府として正式に移民は認めていないですよね?
    望月 この国における「移民」という言葉の難しさがあります。今の自民党政権は、経済界と保守層が支持基盤です。人出が足りない経済界としては労働力としての移民を受け入れてほしいなか、保守層は日本だけでやりたいところがある。そのバランスを取っているのが「留学生」という、謎の中間地帯なのです。留学生個人からすればネパールにいるよりも東京に行った方が稼げるし、日本語も勉強できて、ライフチャンスに繋がるかもしれない。経済界としては労働力として使いたい。そうした背景があって、数は増え続けている状況です。
    長谷川 アルバイトの方の名札をみると、かなり特殊な名前が多く、いつも「どこの国の方なんだろう」と疑問に思っていました。
    望月 ネパールやベトナムなど様々な国からの留学生が増えています。日本と比較するとまだまだ経済成長のレベルにも差がありますし、その間を仲介する仕組みとして、本国で日本語を少し勉強し、一部の人が自ら渡航費を払って来日するという一連の日本留学に関するシステムが発達しています。ネパールのカトマンズのとあるストリートにはたくさんの日本語学校があるそうです。
    長谷川 先日テレビで見かけたのですが、いわゆるコンビニなどでのアルバイトに加え、「技能実習」という制度がありますよね。
    望月 表向きは「特定の業種に就き、日本で技能を学んで母国に持って帰る」という研修的な意味合いを持っている制度です。従事するのは主に、農業や漁業などの第一次産業系や、アパレル関係の繊維工場など第二次産業系の仕事。もちろん全ての場所ではないでしょうが、いくつかの職場では最低賃金以下で働かせているという実態も報じられています。そして、レタスやカツオなど、私たちが口に入れるものでも彼らの労働に依存しているものがかなり多いんです。日本の伝統的な産業も外国の労働者に頼らなければ維持できないという側面がある。最近では、AIか外国人労働者か、なんてことも言われていますよね。
    長谷川 介護もそうですよね。
    望月 政府としては「移民を受け入れる」と明言していないので、職種を一つずつ技能実習の対象に足していくんですね。「この業種を技能実習の項目に追加しよう」といった具合に。現在は、コンビニで働く人を技能実習に追加するかどうかが議論されています。コンビニで具体的にどのような技能が得られるのかは不明ですが、コンビニ側としては留学生よりも長い時間働ける労働者を確保したい。
    長谷川 日本人がやらないこと、やりたがらないことを外国人にさせる。「それは奴隷と変わらないのではないか?」という批判もありますよね。
    望月 技能実習生として日本へ来るために必要な費用が、実質的には身代金のような意味合いを帯びてしまうということがあります。どういうことかというと、渡航に必要な費用の一部をなんとか工面して支払い、残りは日本での給料の中から天引きしていくという形になっていることが多いからです。
    長谷川 認可を受けた業者ですよね?
    望月 はい。「〇〇さんは、中国の〇〇省から日本の愛知県の〇〇工場で働く」ということだけが決められていて、そこへ行くため最初にある程度のお金を払って来ているわけです。
    一定期間以上働かないとお金を完済できない。しかも技能実習生は転職もできないために雇用主の言いなりになってしまいがちだと言われています。雇用主がきちんとした方であればいいですが、酷いところではパスポートを預かったり、銀行通帳を預かったりする人達もいるそうです。そうしたことが日本の様々な産業を成り立たせるということのために行われているんです。多くの日本人はまずその構造自体を「知らない」。社会をより良い形に変えていくためには、まず「どうやったら知ってもらえるか、考えてもらえるか」というところから考えていく必要があります。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第3回 産業医・大室正志に聞く、"自分探し系"生き方への処方箋

    2017-12-26 07:00  
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    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は21世紀の空海・石山洸さんが構想するメディア・レボリューションについてお伺いしました。第3回目となる今回はテレビをはじめ各種メディアで大活躍している産業医の大室正志先生です。教養と知識に裏打ちされた軽妙な語り口で知られる大室先生に、「働き方」や「メンタルヘルス」の現在から、大室先生自身の思考方法についても迫りました。「体系知から初期衝動へ関心が移ってきた」ーー。大室先生の知の源泉には、山下達郎から始まる音楽遍歴がありました。
    長谷川 情報が氾濫しているなかで、特定の情報に精通した専門家の方は数多くいらっしゃいます。事実、産業医である大室先生も「働き方」や「メンタルヘルス」にスペシャリティを持たれています。一方で、テレビや雑誌など幅広いメディアで畑の違う方々と対談をされているのを拝見すると、専門から飛び出して思考しているのではないか、と考え今回取材を打診させていただきました。
    大室 僕の思考の原型に影響を与えた一人は、現代アートの祖と呼ばれるマルセル・デュシャンです。磁器の便器を横に置いて署名しただけの彼の作品『泉』は物議をかもしました。彼は「選択と配置」という言葉で、この作品を説明します。つまり、選んで、配置し、『泉』と名付けたわけですね。「選択と配置によって、無から有を生み出す」ーーこういった思考に自分の原点があります。
    音楽の世界でも同様で、スティーヴィー・ワンダーは新しいコード進行やメロディーを生み出す天才。無から有を生み出すために、音楽的知識を組み合わせるのに長けているわけですね。
    長谷川 とはいえ、選択と配置をするために、そのベースとなる考え方のフレームも必要になりますよね?
    大室 カントが提示した「真善美」のフレームが分かりやすいかもしれません。物事は「真か偽か」、「善か悪か」、「美か醜か」で判断できるわけですが、話のピントが合わない人は、おそらくこの判断基軸の前提を相手に合わせることが苦手です。たとえば、「この前観た『アウトレイジ』良かったね〜」といった話をしているとき、明らかに誰も『アウトレイジ』の極悪非道な内容自体は肯定していませんよね。
    長谷川 「全員悪人」ですからね(笑)。
    大室 そう。ただ、「あの映画は美しかった」と話しているにすぎない。「あれは法律違反だ」と言い出せば、いつまでもピントが合いません。ただし、それが行き過ぎても「映画は美か醜で観るもの」だと固定化されてしまう。なので、常にフレームワークを変えてみる発想を心がけています。
    僕自身、完全に物事のフレームワークが異なる医学とビジネス、二つの世界に身を置いているわけです。労働者の健康のためのフレームワークと、収益性というビジネスのフレームワーク。どの立場から物事をみるかで、単位が変わっていきます。
    医学と権力、病は社会によって規定される
    長谷川 僕が門外漢ということで、医学界のフレームワークについても少しお聞かせください。大室先生の分野はもしかしたら精神病理学寄りなのかもしれませんが、医学自体が西洋的概念の産物に近い印象を持っています。大きな括りでは東洋医学もあるわけですが、産業医の目からはどのように全体像を見られているんですか?
    大室 西洋医学は、まず体を臓器別に分解します。つまり、身体の悪い箇所を治す考え方。一方、東洋医学は身体全体をトータルなシステムとして捉え、悪い部分を除去する。システム全体の統合を目指すイメージです。なので、考え方そのものは異なります。
    ただ、西洋医学のなかでも新たな事実が少しづつ明らかになってきました。たとえば、小腸が免疫作用を担っていることや、脳だけではなく、実は身体も物事を考えていることなど。つまり、必ずしも部分別に分けるだけではうまくいかないことが分かってきた。西洋医学的な考え方と東洋医学的な考え方は対立概念なのではなく、富士山を静岡側から登るか、山梨側から登るかといった、似た考え方だったのではないかといった気もします。
    長谷川 長い時間軸をとると、一昔前は精神病患者は投獄されてわけじゃないですか。権力と医学の関係性にも興味があります。
    大室 まさにミッシェル・フーコーが『狂気の歴史』で書いたことですね。精神病はあるときに発見され、可視化されたことで管理されるようになった。ただ、「精神病」はあくまでも社会的に定義されるため、その時々の社会にも影響されます。
    「誰々に盗聴されている」といった典型的な統合失調症が減少していることを示すデータがあります。昔であれば、ある村で患者が出ると、その人たちは座敷牢に隔離されていたんです。昭和には、北関東の山奥にそうした人たちを収容する病院がありましたし。
    長谷川 現在はどうなっているんですか?
    大室 二人以上の精神保健指定医の同意がない限り、強制入院ができないよう、人権的な配慮がなされるようになっています。権力構造としては、一定の解決に向かっているといえるでしょう。
    そうした大文字の精神病は一定の人権的配慮がなされている一方、今の社会構造はほとんどの分野でコミュニケーションが求められます。コミュニケーションが取れる人が正常とされ、そうではない人は「コミュ障」と呼ばれますよね。空気を読み過ぎるのに疲れ果て、その挙句に極端な行動に走れば、「人格障害」と言われ、読まな過ぎたら「発達障害」と言われてしまいます。ただその「基準となる空気」は時代、地域、集団によって変わりますので絶対的なものではない。
    長谷川 社会状況が病を規定するということですね。
    大室 分かりやすい大きな権力構造から精神病の人が分断されるというより、ゆるやかにコミュニケーションがうまく取れない人間が排除されるということです。そこにある種、精神科的な疾患のレッテルを貼られてしまうのが現在なのかもしれません。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第2回 21世紀の空海・石山洸が構想する新たなメディア・レボリューション「AIが色即是空を実現する」

    2017-11-29 07:00  
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    編集者・ライターの長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は思想家の山口揚平さんに「意識をコントロールし、情報を有機化する方法」についてお伺いしました。今回登場いただくのは、僕のリクルート時代の大先輩である石山洸さんです。石山さんはリクルート時代にAI研究機関「RIT(Recruit Institute of Technology)を立ち上げるなど、リクルート社員であればその名を知らない人はいない人工知能のトップランナー。現在はエクサウィザーズの代表として、超高齢化社会に代表される数々の社会問題をAIの利活用によって解決することに取り組まれています。 「実は、人工知能の父であるマービン・ミンスキーも『考えるを考える』を考えていた」ーー。取材の冒頭でそう教えてくれた石山さんは、「シングルイシューは本質的に複雑系である」といいます。また、最近モデル化したという「4S理論(SENSE-SCIENCE FICTION-SHARE-SHIFT」のフレームワークもご説明いただきました。石山さんが”現代の空海”と呼ばれる所以に迫っていきます。
    長谷川 この連載『考えるを考える』では、日本のような問題が複雑化した社会のなかで、「いかにシングルイシューを見定めるのか」、「そもそも思考とは何か」について探っています。まず初めに、石山さんにとっての「考える」とはどのような営為かお教えいただけますか?
    石山 「人工知能の父」と呼ばれるマービン・ミンスキー先生が、実は私たちの会社の前身であるデジタル・センセーションで長らく顧問を務めていたんです。そしてミンスキー先生が人間の特徴としてよく言っていたのが、まさに「Thinking about thinking(考えることについて考える」。まさにこの連載と同じテーマですね。
    長谷川 数ある社会問題のなかでも、石山さんが代表を務められる会社「エクサウィザーズ」ではAIの利活用を通じた超高齢化社会に付随する課題解決に取り組まれています。石山さんがなぜこのイシューを選んだのか、その背景から教えていただけますか?
    石山 「超高齢化社会」は何も日本に固有の社会問題ではありません。時間軸として先に日本に来るのはたしかですが、やがて他の国にも訪れる現象です。そのため、先に日本でこの問題を解決しておけば、必ずグローバルでも役に立ちます。
    それこそミンスキー先生が提唱されていた「ダンベル・セオリー」という概念にも通じることですが、人間の思考はすぐに「先進国/途上国」のように二元論でモノを捉えようとします。実際には、両者の間に共通する課題もあるでしょうし、もっと複雑な構造の場合もあります。
    長谷川 石山さんが「超高齢化社会」を選ばれた理由は、解決したときのインパクトが大きいからでしょうか?
    石山 「超高齢化社会」と一口にいっても、認知症の方の問題なのか、それを支える社会的な保険制度の課題なのか、イシューはシングルではないのです。個人がいかにケアされるのか、介護拒否をどうするのか、社会保障費をどうコントロールするのか。ミクロからマクロまで極めて複雑系の様相を呈するのが「超高齢化社会」に他なりません。
    長谷川 一つの大きなイシューは複雑に枝分かれする問題群を内包しているということですね。
    石山 その問題を捉える視点によっても見え方が変わるでしょう。例えば、ライフネット生命の出口治明会長と対談させて頂いた際に、出口さんが女性登用についておっしゃっていたことですが、消費を牽引しているのは女性なので、女性ウケする商品を開発するために、プロダクトマネージャーに女性を登用することが必要だと。女性が登用されないことには、そもそも消費が増えないので、マクロ経済が停滞する。ダイバーシティの問題よりもマクロ経済学的な視点で語られていました。一つの問題には必ず複数の視点があるという事例ですね。
    長谷川 あるシングルイシュー一つをとっても、人それぞれで違う思考体系や認知の仕方で見え方が全く異なるということですね。
    石山 あるシングルイシューも内実は、複数のイシューが重なりあっています。その重なり合ったイシュー同士の間にいかにコミュニケーション可能なトレーディングスペースを作り、全体として複雑な問題を解くのかが鍵になるということです。
    マービン・ミンスキーは「考えるを考える」をどう考えたか

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  • 【新連載】長谷川リョー『考えるを考える』 第1回 思想家・山口揚平に聞く、「意識をコントロールし、情報を有機化する方法」

    2017-09-13 07:00  
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    今回より始まる新連載『考えるを考える』。あえて、テーマは設けず、僕、長谷川リョーが今一番会いたい人に話を伺っていきます。「会いたい」の基準は一つ。ただ情報を持っているだけではなく、思考をしている人です。第一回目にご登場いただくのは、貨幣論・情報化社会論を専門とする思想家であり、事業家の山口揚平さん。今回取材をさせていただいた僕とは東京大学大学院の同級生でした。 トランプが大統領に当選したとき、改めて気づかされたフィルターバブルの厚み。毎日のように誰かに取材をし、記事を書く私ですが、その営為は決定的にある情報系の枠内に限定されているのではないかと危惧を持つようになりました。それ以来、「そもそも」と考えるメタ思考の重要性について考える機会が増えています。 「20代から本や新聞を読むのを止めた」という山口さんにお話を伺うため、今回は軽井沢のご自宅へ。情報と思考の違い、シングルイシューの見つけ方、お金よりも大切なクレジットとクリエイティビティの育み方まで、普段なかなか議論することの少ない抽象的な問いに答えていただきました。

    長谷川 日本のような成熟した先進国の場合、社会問題が複雑化していますよね。働き方がどうとか、子育てがどうとか。一方で、発展途上国の場合は、「明日食べる米がないこと」がシングルイシューになります。本日はシングルイシューを見定めるための視座や、考えることについて考えるメタ思考についてお話を伺えればと考えています。
    山口 たしかに、日本における問題は有機的なのでシングルイシューを特定するのは難しいですね。でも本質にメスをいれれば問題は氷解します。いずれにしてもまずは、問題に切り込む強い視点を持つことが重要でしょう。そこから広範に広げてゆく。僕の場合は、大学に入る前から「お金とは何か?」、つまり貨幣論について考えてきました。7年ほどかけて書き上げたのが、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』です。
    経済のツールである「お金」を切り口に、「社会とはなにか?」、「テクノロジーとはなにか?」、「人間とはなにか?」を辿って行きました。自分が関心を持っているものから周辺のテーマを見通し、多面的に捉えていくことで、同じ現象もいろんな角度から入っていけるはずです。なので、入り口はなんでも良いと思います。
    長谷川 ご自身のキャリアも「お金」に密接に関わるものですよね?
    山口 はい。20代の頃はコンサルティング会社でM&Aの仕事をやっていました。その当時のコンサルティング会社は今の業務改革や統計解析とは違い、情報や知恵を売るのではなく、「考えること」を提供していたんです。いわば、たった一つの本質解を出すための「思考労働者」。この頃に「考えることについて」すごく考えました。それが今につながる根本的な自分の哲学につながっています。
    M&Aをやるということは、会社を丸ごと見なくてはいけません。しかも限られた時間で。会社には人事、財務、税務、プロダクト、歴史があり、複合的な存在です。それら全てを俯瞰的に見通した上で、その会社を動かす本質を特定するのがM&Aのもっとも重要な仕事でした。てこの原理のように、本質に小さな力を加えることがもっとも生産性が高まることをこのときに理解したんですね。
    よく、「PDCA(plan-do-check-act)」といいますよね。このなかで、9.5割重要なのは「Plan(計画)」です。残りの0.5が「Action(実行)」。M&Aの場合は、一度しかAction(実行)のボタンを押しません。このボタンのことを「ホットボタン」や「コアバリュー」といい、そのボタンを的確に押すために有機的なつながりの中から本質を特定するのです。ですから3ヶ月の仕事のなかで、2.5ヶ月以上は情報調査やインタビューをやりながらも、頭の中では考えごとをしていましたね。

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