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記事 10件
  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第10回 『ティール組織』解説者・嘉村賢州が探求する新しい組織形態

    2018-09-05 07:00  
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    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。今回は、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、幸せな組織改革を行うファシリテーター集団「場とつながりラボ home's vi」代表の嘉村賢州さんにお話を伺います。嘉村さんは、今年1月に発売され話題となった書籍『ティール組織』の解説者も務められました。10年間に及ぶ民間でのファシリテーター活動を経てアカデミックの世界に飛び込んだ理由、既存の統制型組織とは異なる“筋斗雲(きんとうん)型組織”構想の全貌から、現代日本において『ティール組織』が重要な理由まで、経験知を何よりも重視する嘉村さんのオリジナリティ溢れる思考に迫ります。(構成:小池真幸)
    年間150回のワークショップをこなしてきた現場から、アカデミックへ軸足を移した理由
    長谷川 現在は、東京工業大学リーダーシップ教育院での活動がメインだと伺っています。具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?
    嘉村 大学院の新設に向けて2018年4月から現職に就いたのですが、まだ授業は始まっておらず、準備をしている段階です。メインは研究ではなく、修士課程・博士課程の理系院生向けのリーダーシップ教育。彼らがもっと社会で活躍できるよう、各々の専攻分野とは別に、コミュニケーション手法などを領域横断的に学んでもらいます。「教える」というよりは、彼らが研究成果を社会に還元していくためのお手伝いをしているイメージ。まずは自分の専門分野の魅力を専門外の人に、分かりやすく伝える能力や異なる他者と理解し、協力し合えるスキル等を磨いてもらおうと思っています。
    長谷川 ここでいう「リーダーシップ」とはどういった意味なのか、詳しくお伺いしたいです。
    嘉村 他責思考にならずに、社会のなかで自発的に一歩踏み出していくためのマインドセットのことです。こういったリーダーシップを育てることで、社会にインパクトを与えられる人材が増えていきます。なお、カリスマ型だったり、メンバーの集合知をうまく活用するタイプだったり、リーダー像は人によってさまざまでいいと思っています。とにかく、外発的なエネルギーを起点に受け身で動くのではなく、内発的な動機に従い自分から動いていける力を身につけてほしいんです。
    長谷川 授業で教えていくノウハウの源泉は、今まで嘉村さんが行ってきた活動でしょうか?
    嘉村 はい。自分は学部卒でアカデミックな経歴は一切なく、ファシリーテーションや異分野コラボレーションの現場での活動実績を評価されて特任准教授に任命していただいたのだと思っています。
    長谷川 この連載で以前お話を伺った東工大の伊藤亜紗さんや東京大学の安斎勇樹さんも、嘉村さんのように民間とアカデミックの両分野で活躍されていました。ただ、伊藤さんと安斎さんが研究に軸足を置きつつ民間でも活動されていたのに対し、嘉村さんはもともと民間で活動されていたなかでアカデミック領域に参入されているので、パターンが逆です。嘉村さんのなかで、アカデミック領域での活動はどのように位置付けられているのでしょうか?
    嘉村 今までがむしゃらに現場で走り続けてきたなかで得た経験知を、再現性を持たせるために整理する機会だと位置付けています。現職に就くまでの10年間は、特に専門分野も決めず、来るもの拒まずで年間150回くらいのペースでワークショップに取り組んできました。デザイン思考系やNVC(共感コミュニケーション)、身体系まで、あらゆるジャンルの案件を引き受けていたんです。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第9回 文鳥社・牧野圭太 「人を人らしくする」文化を生み出す、ブランドデザインのための思考

    2018-07-26 07:00  
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    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。今回は株式会社文鳥社代表で、「文鳥文庫」や「旬八青果店」など、事業開発とクリエイティブを掛け合わせる業態を目指す牧野圭太さんにお話を伺います。ブランドデザインや組織づくりの手法、旧態依然とした広告業界の構造などを幅広く辿りつつ、あえて中断する“肉体的思考”の可能性に迫っていきます。
    パッケージではなく、プロジェクト、そしてブランドをデザインする
    長谷川 牧野さんは早稲田の理工から博報堂でコピーライター、そして現在はデザイン会社の経営をされています。いい意味でキャリアに一貫性がないのが興味深いですよね。まずはじめに、現在の手がけられている仕事の全体像について伺えますか?
    牧野 全体像がややこしいのですが、当初は博報堂を辞めて作った「文鳥社」だけでした。この会社では全て16ページ以内の作品からなる「文鳥文庫」という、蛇腹形式の文庫シリーズを展開しています。ただ、事業を継続するなかで、もともと継続してやりたいと思っていた「デザイン」や「ブランド作り」と「文鳥文庫の販売」は分けた方がいいのではと考えたんです。そこで、文鳥社は出版社に、デザイン・ブランディングをやる会社として「カラス」を立ち上げました。
    このカラスはエードットという会社の100%子会社として作っているので、僕はエードットの役員として会社の経営もみながら、カラスと文鳥社それぞれの社長、つまり三足のわらじを履いている状態ですね。
    長谷川 たとえば、カラスではどんな企業のブランディングを手掛けられているんですか?
    牧野 ローソンさんのデザイン仕事などを行っています。「おにぎり屋」のパッケージなどは弊社で担当しています。こうした大企業の仕事に加えて、旬八青果店のブランドデザインも当初から手掛けているので、クライアントは大小さまざまです。
    長谷川 デザイン系の会社は数多くあるなかで、カラスならではの強みや特徴はどの辺りにあるのでしょうか?
    牧野 カラスは単に広告やパッケージを作ることのみならず、「BRAND STUDIO」を掲げています。プロジェクト全体をしっかりみながら、デザインをして世の中に出していく。先ほど例に挙げた旬八青果店なんかもゼロから始めて、これまで5年間継続して仕事をしてきました。店舗設計から、出店地選び、コンセプトやコミュニケーション設計まで、プロジェクト全体の作り込みをお手伝いしています。プロジェクト全体をデザインできる会社は意外と少ないんです。本来のデザイナーの役割はそこにあると思うんですけどね。そして今後に関しては、プロジェクトというよりも「ブランド」を育てていくデザイン会社として標榜し、仕事に取り組んでいこうと考えています。
    長谷川 アプローチや内実は違うかもしれませんが、近年経営コンサルティングの会社がデザイン系の買収を盛んに行なっています。やはりそういった潮流もマクロには連動しているのですか?
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第8回 研究的実践者・安斎勇樹「問いのデザイン」が照射する思考法

    2018-06-29 07:00  
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    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回はTakramのデザインエンジニア・緒方壽人さんに“越境性×専門性”の仕事論を聞きました。今回は東大の情報学環特任助教で、株式会社ミミクリデザインの代表を務める安斎勇樹さんにお話を伺います。二足の草鞋を履いて活動する自らを“研究的実践者”と表現する安斎さん。ワークショップデザイン、ファシリテーション、メタ思考などを幅広く辿りつつ、「問いのデザイン」が照射する思考法や可能性に迫っていきます。
    “研究的実践者”として、東大助教とミミクリデザイン代表の二つの顔を持つ
    長谷川 安斎さんは東大の助教を務めつつ、会社経営もなされていますよね。簡単に現在の活動の全体像をお伺いしてもよろしいでしょうか?
    安斎 大きく二つの顔があります。一つは東京大学の助教として研究を行う顔で、もう一つは株式会社ミミクリデザインという会社の経営を行う顔。研究も大学の業務があるというよりも、企業との産学連携プロジェクトの推進が主になっています。基本的には企業が抱えているリソースや課題に対し、研究者として共同研究を行うか、ミミクリデザインとして課題解決のお手伝いをするか、いずれかの形ですね。
    長谷川 生活のなかで自分個人のリソースの振り分けといいますか、二つの顔は具体的にどうやって分けているのですか?
    安斎 実際のところ、僕の内部では入り混じっています。企業の課題解決、商品開発、人材育成をミミクリデザインでお手伝いする過程で、研究の種が見つかることが少なくありません。研究者モードのときには、その種を論文化するにはどうすればいいか、どんな理論と結びつけて現象を読み解くか、いかにデータを取れば良いかを考えます。
    一方、社会の大きなフィールドのなかで実践者として課題解決するモードでは、いかに社会価値を生み出し、売上に繋げるかを考える。こうしたモードの変化、課題解決と論文化を往復しながら過ごしているので、両者がパッキリと分かれることはありませんね。
    長谷川 改めて、アカデミズムにポジションを置いておくことの意味や意義はどんなところにあるとお考えですか?
    安斎 一つは、まず自分のなかに研究者としてのモードを持つため。経営をやっていると納期に追われたり、チームを育て数字を伸ばすゲームにのめり込んでしまう。それはそれで楽しいのですが、研究者としてのモードを持っておくことで、すぐには利益が生じなくとも未来のために繋がる研究の優先順位を高くもっていられることが個人的なメリットですね。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第7回 デザインエンジニア・ 緒方壽人が説く“越境性×専門性”の仕事論

    2018-05-30 07:00  
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    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は「インナーテクノロジー(人間の内的変容に関する理論)」を探求する三好大助さんに“自らの全体性を祝福する技術”の可能性を語っていただきました。今回はデザイン・イノベーション・ファーム「Takram」のデザインエンジニア・緒方壽人さんにお話を伺います。デザインエンジニアとして重視している“越境性”や、目まぐるしく変わるテクノロジートレンドのなかにあっても不変の専門性に関する考え方。「クライアントワークも“世界の見方”を呈示する意味で、本質的にアートと変わらない」という緒方さんにデザインエンジニアリングの要諦と今後の展望を聞いていきます。
    ビジネス・テクノロジー・クリエイティブを貫く“越境性”
    長谷川 今年2月頃、これまでの社名「takram design engineering」から「design engineering」を取り去り、「Takram」と名称を改められました。どんな背景で社名変更に至ったのでしょうか?
    緒方 端的にいえば、今後新しい領域にチャレンジしていく意思表明です。約10年前から「takram design engineering」としてやってきたわけですが、今ではある程度「デザインエンジニアリング」が浸透しました。産業全体にとって大きな要素にBTC(ビジネス、テクノロジー、クリエイティブ)と三つの領域がありますが、今後は会社としてビジネス領域を伸ばしていこうと考えているのです。
    長谷川 「Takram」はおそらく日本語の「企む」からきていると思うのですが、他に込められている意味はありますか?
    緒方 「企む」という言葉自体が「企業」の「企」であり、「企」自体がプランニングやプロジェクト、デザインの意味を持っていますよね。「企てる」といった別の読み方からは、新しい領域を開拓していくニュアンスもあり、さらには意匠の「匠(たくみ/たくむ)」とも語源として繋がる。デザイン全体の領域を俯瞰的に捉えつつ、デザインの本質を表すいい言葉だと思いながら使っています。
    長谷川 緒方さんは肩書きに「ディレクター/デザインエンジニア」を名乗られています。今回の社名変更も踏まえ、改めて「デザインエンジニア」はどんな存在だとお考えですか。
    緒方 もともと英語の「design(デザイン)」には、「設計」と「スタイリング」の両方が含まれていると思います。しかし、日本語の「デザイン」はどちらかといえば、外見をカッコよく、あるいは美しくするといったスタイリングのイメージが強い。その意味で、「デザイン」だけだとどうしてもファッションデザイナーのようなイメージが先行し、やっていることを伝えきれません。「デザイナー」という言葉に本来含まれる「エンジニアリング」と「スタイリング」の両方を伝えるため、あえて「デザインエンジニアリング」と言っているところもあります。
    長谷川 社名から取り払われたように、今後「デザインエンジニアリング」が何か一つの名前や概念に統合していく見通しなのでしょうか?
    緒方 何か一つに集約されるというイメージよりは、個々の専門性は大事にしていきたいと思っています。そうした個々が集まったとき、全体として広い領域をカバーしている組織になればいいのではないか。そのなかで、今までになかった領域で仕事をする人はこれからも育てていきたいです。たとえば、一つの領域に閉じるのではなく、ビジネスとデザインを扱う「ビジネスデザイナー」など越境性のある肩書きはあり得えます。
    長谷川 先ほど「BTC」と言った言葉を挙げられましたが、それらを通貫する思考の核はどこにあるでしょうか。
    緒方 「越境性」と言えるかもしれません。Takramにいる人たちは自身の専門性以外にも、新しい領域に対する越境マインドを持っていると思います。好奇心旺盛で新しいことにチャレンジしていくことにポジティブであることが、核になる思想です。
    長谷川 大学院では(東京大学大学院)学際情報学府で研究を行っていたのですが、文理の壁を超えた学際研究に難しさを覚えることもしばしばありました。まったく異なる専門性を持った人がスムーズにコラボレイトするためのコツなどはありますか?
    緒方 コラボレーションというよりは、個人のなかに“越境性”を持つイメージです。デザインエンジニアであれば、エンジニアリング的に理に適った設計がある一方、感覚的な美しさで形を作っていく場合もある。どちらかを否定するのではなく、両方を行ったり来たりしながら、交わるところを探る作業を自分のなかでやっていく。
    両方の言葉が分かるからこそ、触媒のような形でプロジェクトを成功に導けるのではないかと思います。越境マインドは抽象思考によって身につけられると思いますし、ある一定の深みがある思考は他分野にも翻訳可能だと考えています。その意味で、スキルとしても越境性が重要なのではないでしょうか。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第6回 インナーテクノロジー探究家・三好大助が語る、“自らの全体性を祝福する技術”の可能性

    2018-04-18 07:00  
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    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は東工大の美学者・伊藤亜紗さんの身体論から、「分かる/分からない」の境界に迫りました。今回はグラミン銀行やGoogleを経て、「インナーテクノロジー(人間の内的変容に関する理論)」を探求する三好大助さんにお話を伺います。近年、日本でも耳にすることが増えた「瞑想」や「マインドフルネス」、はたまた「U理論」や「メンタルモデル」。内面を扱うこれらの技法は総称としてインナーテクノロジーと呼ばれ、各々の関連性や体系化が近年進んできています。自らの職務経験を通じて感じた”課題解決パラダイム”の限界や、組織力学から発生する負の連鎖。それら普遍性の高い問題に対して、再現性をもって扱える時代になったと説く三好さん。“自らの全体性を祝福する技術”の可能性を語っていただきました。
    自己統合を促すインナーテクノロジーの「汎用性」と「再現性」
    長谷川 日本ではまだあまり聞き慣れない「インナーテクノロジー」。まずはその概要からお伺いしてもよろしいでしょうか?
    三好 インナーテクノロジーとは、人間の内面を扱う方法論全般に対する呼び名の一つです。ヨガやマインドフルネス、NLP、最近流行りの「NVC(Non-violent Communication=非暴力コミュニケーション)」や「U理論」など、世界には内面を扱う様々な理論がありますよね。
    現在ではインナーテクノロジーという包括的な捉え方のもと、横断的な研究が進んでいて。これらの理論にどんな相互関連性があり、人間の内的変容をどのようなプロセスでサポートできるのか。以前にもまして立体的に理解できるようになってきている面白い時代です。
    僕自身は、どうしたら人間がその人本来のエネルギーで生きられるようになるのかに興味があって。有益なテクノロジーをキュレーションして体系化しながら、企業や個人に分かち合っています。
    長谷川 あえて「テクノロジー」と銘打っているということは、ある種スピリチュアルに対するアンチテーゼも込められているのでしょうか。万人が汎用的に用いることのできる技術体系を目指す意味合いも込められているというか。
    三好 アンチテーゼかは分かりませんが。おっしゃる通り意図はそこにあると思います。「汎用性」と「再現性」。人間が自分自身を抑圧したり自己分離していくプロセスには共通性があります。それぞれのフェーズでどんな方法論を使えば安全かつ効果的に、日常の中で自己統合できるのか。それがかなりの解像度で分かってきてるのがこの時代の面白いところなんです。
    長谷川 解明されてきているその自己分離のプロセスとは、一体どのようなものなのでしょうか?
    三好 子どもは誰しも家庭や学校といった既にある世界に適合しようとします。親や友達から分離しないよう無意識に頑張るわけですね。でも生きている以上、体験として分離は必ずやってきます。そして痛みを味わうことになる。僕であれば、悪いことをすると親からいつも地下室に閉じ込められていて。幼い時は自分が親から切り離されてるようで、その時間がとても辛かったのを覚えています。
    その状況で子どもは何をするかというと、無意識下でその痛みが起きた理由付けをするんです。僕の例であれば「自分は家にいなくてもいい存在だから、こんなことされるんだ」というように。そうやってドラマに浸ることで、地下室の暗闇にいる間でもその痛みに直面するのを回避できるわけですね。
    長谷川 なるほど。そうした幼児期の行動は科学的にも解明されてきているんですね。
    三好 幼少期に強まるシータ波という脳波によるものと言われています。このプロセスを繰り返すことで、でっち上げられた理由は真実ではないにも関わらず、どんどん潜在意識へ刻まれ、人生を支配する無自覚な信念になっていきます。僕であれば「自分はこの世界にいなくてもいい存在なんだ。だから親や人はこんなことをするんだ」といった感じですね。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第5回 美学者・伊藤亜紗の身体論にみる、「分かる」と「分からない」の地平

    2018-03-14 13:10  
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    ※本日(3月14日)7:00に配信した記事に誤りがありました。 ご購読者の皆様には心よりお詫び申し上げます。 訂正した記事を再度配信いたします。
    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は株式会社コモンセンス代表・望月優大さんに、なぜ一貫して社会問題にコミットし続けるのかをお伺いしました。今回は、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』などの著書で知られる東工大の美学者・伊藤亜紗さんにお話をお聞きします。視覚障害・吃音・四肢切断など、障がい者へのインタビューを中心に新たな身体論の地平を拓く研究をされています。昆虫学者を目指していた少女時代からなぜ、美学者になることになったのか。究極的には完全には分かり得ない、他者の身体にいかにアプローチしているのか。「“身体のままならさ”と付き合っていくためのエネルギーを与えたい」と語る伊藤さんの身体論から、「分かる」と「分からない」の地平が浮かび上がってきました。
    「複雑で分からないから信用できる」生物学から美学へ研究対象が移った理由
    長谷川 伊藤さんは美学を専門に研究されているとのことですが、もともとは生物学者を志されていたとお伺いしました。両学問の間には少なからぬ距離があると感じるのですが、どういった経緯でいまの研究にたどり着かれたのでしょうか?
    伊藤 八王子出身だったこともあり、自然に囲まれながら育ったんです。子供の頃は、山を遊び場にしていました。自然のなかで過ごすうち、他の子供たちと遊ぶのと同じくらい、昆虫と遊んでいるような環境だったんです。昆虫をつつくと、リアクションが返ってくる。物理的なインタラクションがあるなかで、虫と共存しているような気もするのですが、「実は虫は自分とまったく違う世界に生きているのではないか」。ふとしたときに、そう気づいたんです。その気づきにはゾクゾクしたというか、怖いんだけど、とても惹かれました。
    長谷川 当然それは、ユクスキュルが『生物から見た世界』で説いた「環世界」の概念を知る前ですよね?
    伊藤 はい。それは、子供がよく持つ“変身願望”に近いかもしれません。自分自身の輪郭が曖昧だからこそ変身しやすいというか、まったく別のものに感情移入しやすい。でもあるとき、ふと引いた目でみたら、まったく違うことに気づいたんです。そこから生き物の仕組みを知っていくなかで、人間像を含めた自分のイメージが変わっていくことに面白さを感じていました。
    長谷川 中高生の頃にはすでに専門書を読まれてたんですか?
    伊藤 高校生のとき、「二重らせん構造」を提唱したジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックという人が来日したんです。その講演に行ったときには、サインを貰おうとまでしていました(笑)。あとは、科学雑誌の『Newton(ニュートン)』も購読してましたね。理系に進学した理由としては、数学がとても得意だったということもあります。
    長谷川 大学の授業はどんな感じでしたか?
    伊藤 最近の授業は双方向性を取り入れていますが、当時はまだ古典的なプロフェッサータイプの授業でした。質問をしても、いまいち答えが痒いところには届かないというか。たとえば、ある講義で、「酵素がこういう条件だと、こう反応する」といった物理的かつ具体的な説明がなされます。そうしたときに、「生命と物質はどう違うんですか?」といったやや抽象的な質問をしても、答えを持っている先生がいなかった。
    長谷川 自分が面白いと思える授業や先生に出会えなかったということですか?
    伊藤 一つだけ今でも覚えている講義があります。先生が週末に釣ってきたカツオを教壇の上に乗せて、いきなりさばき始めたんです。切った瞬間に、真っ白いもやしのような、さまざまな寄生虫が出てきました。最終的には、「さあ、みなさん召し上がれ」って醤油を渡されました。あの先生だけは、「生命とは」といった質問にも答えてくれていたと思います。
    長谷川 なんの授業だったんですか?
    伊藤 生物学基礎とか、いわゆる教養の授業だったと思います。その先生も普段は、「酵素がどう」といった授業をされていたんです。それでも私は、カツオをさばいた講義から「生命は複雑である」といったメッセージを受け取りました。カツオ単体にも複雑性があるし、それ自体が一つの生態系としてある。そうした感覚を学びたいと思ったのは、今でもよく覚えています。
    長谷川 その講義が、後の文転につながる原体験になった?
    伊藤 そこまでではなかったですが、数年自分の問いが着陸しない状態だったので、ホッとする感覚はありました。理系の実験なんかも完全に順番が決まった作業なので、バイトみたいな感じなんです(笑)。「こんなことやりたくない。嫌だ」と思い、違う本を読み始めて、結果的に文転することにしました。
    長谷川 そのときに読んでいたのは、具体的には哲学書とかですか?
    伊藤 哲学書もですね。まず、「分からない」ことが面白かったんです。身体を説明するのがとても複雑なように、哲学書にも複雑さを感じました。簡単に分からない感覚だからこそ、逆に信じられるというか。
    なぜ「難しい」と感じるのか?「分かる」と「分からない」の境界にあるもの
    長谷川 よく人は「難しくて分からない」といいますよね。たとえば、本にしても難しく感じる理由は単語レベルで分からないのか、概念を知らないのか。なぜ「難しい」は生じるのでしょうか?
    伊藤 おそらく自分のなかで対応する現実がイメージできないというか、本のなかで言われる具体例が自分のなかにないことが大きいのではないでしょうか。自分の頭の中に持っていることや、ネットワークさせる差込口が少ないと、新しい哲学書を読んでも引っかかるところがない。それでも読み進めていくと口が増えるので、そこに差し込めば分かっていく、といったことかもしれません。
    長谷川 最近、『ハイデガーの根本洞察―「時間と存在」の挫折と超克』(仲原孝著、昭和堂)という本を3ヶ月かけて読んだのですが、全く分からないんですよ(笑)。その分からなさが気持ちよくて、分からないと考えるじゃないですか。なので最近はよく分からない本を読むことにハマっているんです。ビジネス書は明快で分かりやすいから、「なるほどね」と理解できるのですが、分からない本は立ち止まって思考を強制される感覚があります。
    伊藤 いま子供が小学校2年生なのですが、小学校に入った瞬間に「分からない」という言葉を使い始めたんです。客観的にみたら幼稚園児の方が「分からないこと」の絶対量は多いはずなのに、それ以前は使っていなかった。おそらく幼稚園児の頃は、すべてが分からないんだけど、自分なりに解釈していたんですよね。
    私の子供には足に先天的な痣のようなものがあるのですが、3歳のときに「これどうしたの?」と聞いたら、「コウノトリが僕をお母さんのお腹に運ぶ途中、ガードレールにぶつけた」と言ったんです。「生まれつき」とか「先天的」といった概念を持たないなりに、自分のなかにイメージや神話を作り上げていたんですね。幼稚園児は自分が作ったストーリーに疑いを持たないので、完全に信じ切っているわけです。
    そうして自分と世界の間にあるギャップを埋めていくことは、分かっていないけど、分かっている状態というか。そもそも、分かる/分からないの境界は面白い。分からないけど自分なりにネットワークを張っているときは、「分かる」と「分からない」が共存している状態で、それがとても大事な気がします。
    それでも小学校に入ったことで、正解があることを知ってしまったわけですね。問題集の最後には正解がついていることを知り、「分からない」といえば教えてもらえることに気づいた。小学校に入った瞬間、そうしたマインドに変わっていることがショックでした。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第4回 コモンセンス・望月優大はなぜ社会問題にコミットするのか?“自分が自分自身と共に生きるため”の思考と実践

    2018-02-06 07:00  
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    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は産業医の大室正志先生に教養の裏側にある、思考の体系をお伺いしました。今回は大室先生も名前を挙げたミシェル・フーコーを大学院時代に研究し、現在は株式会社コモンセンス代表を務める望月優大さんにお話をお聞きしました。経産省、Google、スマートニュースなどに在籍するなかで、なぜ望月さんは社会問題へコミットするようになったのか。歴史や権力について考えるようになった最初のきっかけは、10代の頃に出会ったヒップホップだったそうです。インタビュー全体を通奏することになる、ハンナ・アーレントの「自分と共に生きられるか」という問い。「自由とはなにか」について思いを巡らせながら、ぜひお読みください。
    長谷川 社会にはたくさんの問題がある一方、自分の時間は限られています。そのなかでも、望月さんはクラウドファンディングを用いて教育格差の是正に取り組む「スタディクーポン・イニシアティブ」の立ち上げや日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』の編集長を務められています。いま望月さんがイシューとして捉えている領域はどの辺りになるんですか?
    望月 分かりやすいところでいうと、一つに移民や難民の問題があります。難民支援協会とともに運営するウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』はその取り組みの一つです。日本は一般に「単一民族国家」と言われることも多いですが、実際には中長期で滞在している外国人が250万人近くもいます。そして、その数は年々増え続けている。
    東京の場合、コンビニやファストフード店で働いている姿を見ることも多くなっていますよね。ただ、その現象を数字以上のものとして捉えられていないのが現状です。「日本って何なんだろう」ということを考える目的で、移民の問題に取り組んでいます。概念としての「日本」の内実には、何が含まれ、何が含まれていないのか、その境界線や揺らぎを丁寧に考えてみたい。既成概念を少しでも緩められないかと活動しています。
    長谷川 「スタディクーポン」に関してはいかがでしょうか?
    望月 「スタディクーポン」はいわゆる貧困問題に対するプロジェクトで、特に子供の教育にフォーカスしています。生まれた環境によって生じる機会格差に対して社会としてその機会を担保しようとする制度自体はいくつか存在しますが、まだまだカバーできていない領域がある。その一つが「塾代格差」という問題で、そこを埋めるために始めたプロジェクトです。同じ日本について「中と外」、「上と下」という両面で考えてみる。とくに、一個人として下から上に登った後に見えづらくなってしまうものに意識を向けるための活動をしていますね。
    日本の労働力を支える「留学生」という存在
    長谷川 まずは移民についてからお伺いさせてください。普段から、コンビニとかで働いている外国人の方を見かけるのですが、あの方たちは難民なんですか?
    望月 在留資格には様々な種類があり、働ける資格とそうでない資格があります。日本人と結婚した定住者、技能実習生や観光など、さまざまなステータスがありますが、例えば観光客は働くことができません。最近注目されているのは、留学生でコンビニなどで働いている方たちです。日本で勉強をしている留学生は、週28時間までは労働していいとされています。週5日の場合は1日5時間ちょっと、あるいは週8日の場合は1日3時間ちょっとは働ける計算になる。
    長谷川 労働が許可されているとなると、勉強に先んじて、日本で仕事をすることが目的で来日する人も少なくないんですか?
    望月 ベトナムやネパールなどからやってきて、本国に仕送りをする人もいるでしょう。留学と聞けば大学を思い浮かべるかもしれませんが、基本的には日本語学校で学ぶケースが多いと言われています。新宿などにある日本語学校で勉強しつつ、コンビニやファストフードでアルバイトをしているという方は多いと思います。
    長谷川 ただ現状、政府として正式に移民は認めていないですよね?
    望月 この国における「移民」という言葉の難しさがあります。今の自民党政権は、経済界と保守層が支持基盤です。人出が足りない経済界としては労働力としての移民を受け入れてほしいなか、保守層は日本だけでやりたいところがある。そのバランスを取っているのが「留学生」という、謎の中間地帯なのです。留学生個人からすればネパールにいるよりも東京に行った方が稼げるし、日本語も勉強できて、ライフチャンスに繋がるかもしれない。経済界としては労働力として使いたい。そうした背景があって、数は増え続けている状況です。
    長谷川 アルバイトの方の名札をみると、かなり特殊な名前が多く、いつも「どこの国の方なんだろう」と疑問に思っていました。
    望月 ネパールやベトナムなど様々な国からの留学生が増えています。日本と比較するとまだまだ経済成長のレベルにも差がありますし、その間を仲介する仕組みとして、本国で日本語を少し勉強し、一部の人が自ら渡航費を払って来日するという一連の日本留学に関するシステムが発達しています。ネパールのカトマンズのとあるストリートにはたくさんの日本語学校があるそうです。
    長谷川 先日テレビで見かけたのですが、いわゆるコンビニなどでのアルバイトに加え、「技能実習」という制度がありますよね。
    望月 表向きは「特定の業種に就き、日本で技能を学んで母国に持って帰る」という研修的な意味合いを持っている制度です。従事するのは主に、農業や漁業などの第一次産業系や、アパレル関係の繊維工場など第二次産業系の仕事。もちろん全ての場所ではないでしょうが、いくつかの職場では最低賃金以下で働かせているという実態も報じられています。そして、レタスやカツオなど、私たちが口に入れるものでも彼らの労働に依存しているものがかなり多いんです。日本の伝統的な産業も外国の労働者に頼らなければ維持できないという側面がある。最近では、AIか外国人労働者か、なんてことも言われていますよね。
    長谷川 介護もそうですよね。
    望月 政府としては「移民を受け入れる」と明言していないので、職種を一つずつ技能実習の対象に足していくんですね。「この業種を技能実習の項目に追加しよう」といった具合に。現在は、コンビニで働く人を技能実習に追加するかどうかが議論されています。コンビニで具体的にどのような技能が得られるのかは不明ですが、コンビニ側としては留学生よりも長い時間働ける労働者を確保したい。
    長谷川 日本人がやらないこと、やりたがらないことを外国人にさせる。「それは奴隷と変わらないのではないか?」という批判もありますよね。
    望月 技能実習生として日本へ来るために必要な費用が、実質的には身代金のような意味合いを帯びてしまうということがあります。どういうことかというと、渡航に必要な費用の一部をなんとか工面して支払い、残りは日本での給料の中から天引きしていくという形になっていることが多いからです。
    長谷川 認可を受けた業者ですよね?
    望月 はい。「〇〇さんは、中国の〇〇省から日本の愛知県の〇〇工場で働く」ということだけが決められていて、そこへ行くため最初にある程度のお金を払って来ているわけです。
    一定期間以上働かないとお金を完済できない。しかも技能実習生は転職もできないために雇用主の言いなりになってしまいがちだと言われています。雇用主がきちんとした方であればいいですが、酷いところではパスポートを預かったり、銀行通帳を預かったりする人達もいるそうです。そうしたことが日本の様々な産業を成り立たせるということのために行われているんです。多くの日本人はまずその構造自体を「知らない」。社会をより良い形に変えていくためには、まず「どうやったら知ってもらえるか、考えてもらえるか」というところから考えていく必要があります。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第3回 産業医・大室正志に聞く、"自分探し系"生き方への処方箋

    2017-12-26 07:00  
    540pt

    編集者・ライターの僕・長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は21世紀の空海・石山洸さんが構想するメディア・レボリューションについてお伺いしました。第3回目となる今回はテレビをはじめ各種メディアで大活躍している産業医の大室正志先生です。教養と知識に裏打ちされた軽妙な語り口で知られる大室先生に、「働き方」や「メンタルヘルス」の現在から、大室先生自身の思考方法についても迫りました。「体系知から初期衝動へ関心が移ってきた」ーー。大室先生の知の源泉には、山下達郎から始まる音楽遍歴がありました。
    長谷川 情報が氾濫しているなかで、特定の情報に精通した専門家の方は数多くいらっしゃいます。事実、産業医である大室先生も「働き方」や「メンタルヘルス」にスペシャリティを持たれています。一方で、テレビや雑誌など幅広いメディアで畑の違う方々と対談をされているのを拝見すると、専門から飛び出して思考しているのではないか、と考え今回取材を打診させていただきました。
    大室 僕の思考の原型に影響を与えた一人は、現代アートの祖と呼ばれるマルセル・デュシャンです。磁器の便器を横に置いて署名しただけの彼の作品『泉』は物議をかもしました。彼は「選択と配置」という言葉で、この作品を説明します。つまり、選んで、配置し、『泉』と名付けたわけですね。「選択と配置によって、無から有を生み出す」ーーこういった思考に自分の原点があります。
    音楽の世界でも同様で、スティーヴィー・ワンダーは新しいコード進行やメロディーを生み出す天才。無から有を生み出すために、音楽的知識を組み合わせるのに長けているわけですね。
    長谷川 とはいえ、選択と配置をするために、そのベースとなる考え方のフレームも必要になりますよね?
    大室 カントが提示した「真善美」のフレームが分かりやすいかもしれません。物事は「真か偽か」、「善か悪か」、「美か醜か」で判断できるわけですが、話のピントが合わない人は、おそらくこの判断基軸の前提を相手に合わせることが苦手です。たとえば、「この前観た『アウトレイジ』良かったね〜」といった話をしているとき、明らかに誰も『アウトレイジ』の極悪非道な内容自体は肯定していませんよね。
    長谷川 「全員悪人」ですからね(笑)。
    大室 そう。ただ、「あの映画は美しかった」と話しているにすぎない。「あれは法律違反だ」と言い出せば、いつまでもピントが合いません。ただし、それが行き過ぎても「映画は美か醜で観るもの」だと固定化されてしまう。なので、常にフレームワークを変えてみる発想を心がけています。
    僕自身、完全に物事のフレームワークが異なる医学とビジネス、二つの世界に身を置いているわけです。労働者の健康のためのフレームワークと、収益性というビジネスのフレームワーク。どの立場から物事をみるかで、単位が変わっていきます。
    医学と権力、病は社会によって規定される
    長谷川 僕が門外漢ということで、医学界のフレームワークについても少しお聞かせください。大室先生の分野はもしかしたら精神病理学寄りなのかもしれませんが、医学自体が西洋的概念の産物に近い印象を持っています。大きな括りでは東洋医学もあるわけですが、産業医の目からはどのように全体像を見られているんですか?
    大室 西洋医学は、まず体を臓器別に分解します。つまり、身体の悪い箇所を治す考え方。一方、東洋医学は身体全体をトータルなシステムとして捉え、悪い部分を除去する。システム全体の統合を目指すイメージです。なので、考え方そのものは異なります。
    ただ、西洋医学のなかでも新たな事実が少しづつ明らかになってきました。たとえば、小腸が免疫作用を担っていることや、脳だけではなく、実は身体も物事を考えていることなど。つまり、必ずしも部分別に分けるだけではうまくいかないことが分かってきた。西洋医学的な考え方と東洋医学的な考え方は対立概念なのではなく、富士山を静岡側から登るか、山梨側から登るかといった、似た考え方だったのではないかといった気もします。
    長谷川 長い時間軸をとると、一昔前は精神病患者は投獄されてわけじゃないですか。権力と医学の関係性にも興味があります。
    大室 まさにミッシェル・フーコーが『狂気の歴史』で書いたことですね。精神病はあるときに発見され、可視化されたことで管理されるようになった。ただ、「精神病」はあくまでも社会的に定義されるため、その時々の社会にも影響されます。
    「誰々に盗聴されている」といった典型的な統合失調症が減少していることを示すデータがあります。昔であれば、ある村で患者が出ると、その人たちは座敷牢に隔離されていたんです。昭和には、北関東の山奥にそうした人たちを収容する病院がありましたし。
    長谷川 現在はどうなっているんですか?
    大室 二人以上の精神保健指定医の同意がない限り、強制入院ができないよう、人権的な配慮がなされるようになっています。権力構造としては、一定の解決に向かっているといえるでしょう。
    そうした大文字の精神病は一定の人権的配慮がなされている一方、今の社会構造はほとんどの分野でコミュニケーションが求められます。コミュニケーションが取れる人が正常とされ、そうではない人は「コミュ障」と呼ばれますよね。空気を読み過ぎるのに疲れ果て、その挙句に極端な行動に走れば、「人格障害」と言われ、読まな過ぎたら「発達障害」と言われてしまいます。ただその「基準となる空気」は時代、地域、集団によって変わりますので絶対的なものではない。
    長谷川 社会状況が病を規定するということですね。
    大室 分かりやすい大きな権力構造から精神病の人が分断されるというより、ゆるやかにコミュニケーションがうまく取れない人間が排除されるということです。そこにある種、精神科的な疾患のレッテルを貼られてしまうのが現在なのかもしれません。
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  • 長谷川リョー『考えるを考える』 第2回 21世紀の空海・石山洸が構想する新たなメディア・レボリューション「AIが色即是空を実現する」

    2017-11-29 07:00  
    540pt

    編集者・ライターの長谷川リョーが(ある情報を持っている)専門家ではなく深く思考をしている人々に話を伺っていくシリーズ『考えるを考える』。前回は思想家の山口揚平さんに「意識をコントロールし、情報を有機化する方法」についてお伺いしました。今回登場いただくのは、僕のリクルート時代の大先輩である石山洸さんです。石山さんはリクルート時代にAI研究機関「RIT(Recruit Institute of Technology)を立ち上げるなど、リクルート社員であればその名を知らない人はいない人工知能のトップランナー。現在はエクサウィザーズの代表として、超高齢化社会に代表される数々の社会問題をAIの利活用によって解決することに取り組まれています。 「実は、人工知能の父であるマービン・ミンスキーも『考えるを考える』を考えていた」ーー。取材の冒頭でそう教えてくれた石山さんは、「シングルイシューは本質的に複雑系である」といいます。また、最近モデル化したという「4S理論(SENSE-SCIENCE FICTION-SHARE-SHIFT」のフレームワークもご説明いただきました。石山さんが”現代の空海”と呼ばれる所以に迫っていきます。
    長谷川 この連載『考えるを考える』では、日本のような問題が複雑化した社会のなかで、「いかにシングルイシューを見定めるのか」、「そもそも思考とは何か」について探っています。まず初めに、石山さんにとっての「考える」とはどのような営為かお教えいただけますか?
    石山 「人工知能の父」と呼ばれるマービン・ミンスキー先生が、実は私たちの会社の前身であるデジタル・センセーションで長らく顧問を務めていたんです。そしてミンスキー先生が人間の特徴としてよく言っていたのが、まさに「Thinking about thinking(考えることについて考える」。まさにこの連載と同じテーマですね。
    長谷川 数ある社会問題のなかでも、石山さんが代表を務められる会社「エクサウィザーズ」ではAIの利活用を通じた超高齢化社会に付随する課題解決に取り組まれています。石山さんがなぜこのイシューを選んだのか、その背景から教えていただけますか?
    石山 「超高齢化社会」は何も日本に固有の社会問題ではありません。時間軸として先に日本に来るのはたしかですが、やがて他の国にも訪れる現象です。そのため、先に日本でこの問題を解決しておけば、必ずグローバルでも役に立ちます。
    それこそミンスキー先生が提唱されていた「ダンベル・セオリー」という概念にも通じることですが、人間の思考はすぐに「先進国/途上国」のように二元論でモノを捉えようとします。実際には、両者の間に共通する課題もあるでしょうし、もっと複雑な構造の場合もあります。
    長谷川 石山さんが「超高齢化社会」を選ばれた理由は、解決したときのインパクトが大きいからでしょうか?
    石山 「超高齢化社会」と一口にいっても、認知症の方の問題なのか、それを支える社会的な保険制度の課題なのか、イシューはシングルではないのです。個人がいかにケアされるのか、介護拒否をどうするのか、社会保障費をどうコントロールするのか。ミクロからマクロまで極めて複雑系の様相を呈するのが「超高齢化社会」に他なりません。
    長谷川 一つの大きなイシューは複雑に枝分かれする問題群を内包しているということですね。
    石山 その問題を捉える視点によっても見え方が変わるでしょう。例えば、ライフネット生命の出口治明会長と対談させて頂いた際に、出口さんが女性登用についておっしゃっていたことですが、消費を牽引しているのは女性なので、女性ウケする商品を開発するために、プロダクトマネージャーに女性を登用することが必要だと。女性が登用されないことには、そもそも消費が増えないので、マクロ経済が停滞する。ダイバーシティの問題よりもマクロ経済学的な視点で語られていました。一つの問題には必ず複数の視点があるという事例ですね。
    長谷川 あるシングルイシュー一つをとっても、人それぞれで違う思考体系や認知の仕方で見え方が全く異なるということですね。
    石山 あるシングルイシューも内実は、複数のイシューが重なりあっています。その重なり合ったイシュー同士の間にいかにコミュニケーション可能なトレーディングスペースを作り、全体として複雑な問題を解くのかが鍵になるということです。
    マービン・ミンスキーは「考えるを考える」をどう考えたか

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  • 【新連載】長谷川リョー『考えるを考える』 第1回 思想家・山口揚平に聞く、「意識をコントロールし、情報を有機化する方法」

    2017-09-13 07:00  
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    今回より始まる新連載『考えるを考える』。あえて、テーマは設けず、僕、長谷川リョーが今一番会いたい人に話を伺っていきます。「会いたい」の基準は一つ。ただ情報を持っているだけではなく、思考をしている人です。第一回目にご登場いただくのは、貨幣論・情報化社会論を専門とする思想家であり、事業家の山口揚平さん。今回取材をさせていただいた僕とは東京大学大学院の同級生でした。 トランプが大統領に当選したとき、改めて気づかされたフィルターバブルの厚み。毎日のように誰かに取材をし、記事を書く私ですが、その営為は決定的にある情報系の枠内に限定されているのではないかと危惧を持つようになりました。それ以来、「そもそも」と考えるメタ思考の重要性について考える機会が増えています。 「20代から本や新聞を読むのを止めた」という山口さんにお話を伺うため、今回は軽井沢のご自宅へ。情報と思考の違い、シングルイシューの見つけ方、お金よりも大切なクレジットとクリエイティビティの育み方まで、普段なかなか議論することの少ない抽象的な問いに答えていただきました。

    長谷川 日本のような成熟した先進国の場合、社会問題が複雑化していますよね。働き方がどうとか、子育てがどうとか。一方で、発展途上国の場合は、「明日食べる米がないこと」がシングルイシューになります。本日はシングルイシューを見定めるための視座や、考えることについて考えるメタ思考についてお話を伺えればと考えています。
    山口 たしかに、日本における問題は有機的なのでシングルイシューを特定するのは難しいですね。でも本質にメスをいれれば問題は氷解します。いずれにしてもまずは、問題に切り込む強い視点を持つことが重要でしょう。そこから広範に広げてゆく。僕の場合は、大学に入る前から「お金とは何か?」、つまり貨幣論について考えてきました。7年ほどかけて書き上げたのが、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』です。
    経済のツールである「お金」を切り口に、「社会とはなにか?」、「テクノロジーとはなにか?」、「人間とはなにか?」を辿って行きました。自分が関心を持っているものから周辺のテーマを見通し、多面的に捉えていくことで、同じ現象もいろんな角度から入っていけるはずです。なので、入り口はなんでも良いと思います。
    長谷川 ご自身のキャリアも「お金」に密接に関わるものですよね?
    山口 はい。20代の頃はコンサルティング会社でM&Aの仕事をやっていました。その当時のコンサルティング会社は今の業務改革や統計解析とは違い、情報や知恵を売るのではなく、「考えること」を提供していたんです。いわば、たった一つの本質解を出すための「思考労働者」。この頃に「考えることについて」すごく考えました。それが今につながる根本的な自分の哲学につながっています。
    M&Aをやるということは、会社を丸ごと見なくてはいけません。しかも限られた時間で。会社には人事、財務、税務、プロダクト、歴史があり、複合的な存在です。それら全てを俯瞰的に見通した上で、その会社を動かす本質を特定するのがM&Aのもっとも重要な仕事でした。てこの原理のように、本質に小さな力を加えることがもっとも生産性が高まることをこのときに理解したんですね。
    よく、「PDCA(plan-do-check-act)」といいますよね。このなかで、9.5割重要なのは「Plan(計画)」です。残りの0.5が「Action(実行)」。M&Aの場合は、一度しかAction(実行)のボタンを押しません。このボタンのことを「ホットボタン」や「コアバリュー」といい、そのボタンを的確に押すために有機的なつながりの中から本質を特定するのです。ですから3ヶ月の仕事のなかで、2.5ヶ月以上は情報調査やインタビューをやりながらも、頭の中では考えごとをしていましたね。

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