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宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネルにて放送中)の書き起こしをお届けします。5月21日に放送されたテーマは「なぜJ-POPはK−POPに勝てないのか」。ライター/リサーチャーの松谷創一郎さんをゲストに迎え、近年のK-POPの人気の要因を分析しながら、J-POP、特に2010年代前半に隆盛した日本のアイドルカルチャーが、なぜK-POPに勝てなかったのかについて考えます。(構成:佐藤雄)

NewsX vol.35 「なぜJ-POPはK−POPに勝てないのか」
2019年5月21日放送
ゲスト:松谷創一郎(ライター/リサーチャー)
アシスタント:得能絵理子

宇野常寛の担当する「NewsX」火曜日は毎週22:00より、dTVチャンネルで生放送中です。
番組公式ページ
dTVチャンネルで視聴するための詳細はこちら。 なお、弊社オンラインサロン「PLANETS CLUB」では、放送後1週間後にアーカイブ動画を会員限定でアップしています。


J-POPとK-POPの世界地図

得能 火曜NewsX、今日のゲストはライター・リサーチャーの松谷創一郎さんです。松谷さんと宇野さんはどのようにお知り合いになられたんですか?

宇野 10年程前から僕がプロデュースしている媒体で書いてもらっています。昔は映画関係の原稿をお願いすることが多かった。それと今日のテーマのように音楽や芸能関係で出てもらっています。松谷さんが『ギャルと不思議ちゃん論』という本を出した時に対談したりといった付き合いがあります。10年程一緒に仕事をしていて、僕がすごく信頼している書き手の1人です。

得能 今日は「なぜJ-POPはK-POPに勝てないのか」というテーマになっております。

宇野 仕事でよくアジアに行くんですが、お店に入るとほぼK-POPがかかっています。

松谷 アジアというと例えばどの国ですか?

宇野 香港や台湾、シンガポールです。K-POPがかかっていたことを日本に帰ってきて話すと年上の人から、90年代にはそういった所ではJ-POPがかかってたという話を聞きます。現状を目の当たりにすると、少なくとも対アジアの戦略においてはK-POPがJ-POPを圧倒していると思わざるを得ない。一方でこの国はクールジャパンの掛け声の下にJ-POPやアイドル、そして日本食やアニメといったソフトパワーで世界に存在感を示しそうとしている。けれどもそれが完全に空回っている事も周知の事実。クールジャパンという言葉をポジティブに使うことが非常に難しい状態になってしまった。そういった現状を踏まえた上で「なぜJ-POPはK-POPに勝てないのか」というテーマで松谷さんのお話を聞いてみたいと思います。

得能 1つ目のテーマは「J-POP対K-POPの現状」です。

宇野 今回は「なぜJ-POPはK-POPに勝てないのか」というテーマにしました。最初のセクションではそもそも何をもって勝ち負けが決まるのか、というところから話を始めて、J-POPとK-POPの比較を行ってみたいと思います。

松谷 「J-POP」という言葉ができる前の比較軸は洋楽と邦楽でした。邦楽は常に洋楽に劣ったものと認識されていました。この時の「海外」はイコール欧米で、音楽に限らず日本と海外を比較した時に、日本側には常に欧米コンプレックスがあった。その前提で洋楽と邦楽を比較しています。「洋楽」というのも基本はイギリスとアメリカで、一部フランスなどです。90年代後半にJ-POPがものすごく盛り上がったんです。98年が日本の音楽産業のピークでもあり、浜崎あゆみさん、椎名林檎さん、宇多田ヒカルさんが活躍していた時期であり、安室奈美恵さんが産休に入っていた頃です。ここからJ-POPは落ちていきます。最盛期から今までの間で20年ほど経っています。その間に出てきたのが洋楽でもJ-POPでもない第三項、K-POPだったわけです。韓国がどんどんカッコ良いものになっていった。これをまだ皆さんきちんと整理できていないと思います。洋楽と邦楽の対立軸の外に第三項が出てきてしまった。これは一体何なのかを考えるべき時期が今まさに来ている。今回のテーマのように「勝ち負け」の話をすること自体も、そういった対立構造が読み取れるということだと思います。昔の洋楽以上にK-POPの存在感が大きくなったということです。

宇野 日本の音楽市場は基本的にドメスティックなJ-POPで満ち足りていて、一部の音楽ファンのために洋楽が意識されている状況がずっと続いていました。そこに第三項が入って来る余地はなかった。なぜその余地が生まれていったんですか?

松谷 K-POPの歌手たちが日本に向けたローカライズをしてきたんです。

宇野 戦略的に攻めて来たということだよね。

松谷 具体的に何をしたかと言うと、ひとつは日本語で歌うこと──つまりローカライズです。BoA、東方神起、KARA、少女時代という順番でした韓国で作ってる音楽に日本語の歌詞を乗せる。一般の視聴者から見れば日本語で洋楽を歌ってる感じがしたわけです。BoAや東方神起はJ-POPにかなり寄っていましたが、2010年頃に少女時代が来たときは完全に洋楽寄りでした。それがすごく新鮮に感じられました。

宇野 韓国の音楽産業が日本の一億人の市場をターゲッティングして攻めてくるまで日本はK-POPという存在を意識していなかった。

松谷 ほぼ意識してなかったんですけど、一部の人が知ってはいたんです。知るきっかけはやはりYouTubeでした。K-POPのひとつの特徴を挙げると、YouTubeにフル尺のミュージックビデオを、しかも高画質で配信することをかなり早い段階からやっていました。YouTubeのサービスが開始したのは2006年で、本格化したのは2000年代後半からです。そこにK-POPは上手くアジャストしてきた。しかしJ-POPはいまだにフル尺をだすことをできていません。

宇野 韓国が外国に出ないといけないのは国内市場が小さいという要因があると思います。人口は日本の半分以下ですよね?

松谷 音楽に限らず韓国は外需をすごく求めてる国だという点に注意が必要です。これは輸出入の額をGDPで割った数値である貿易依存度を見れば明らかです。依存度が高ければ高いほど外需に期待をしていることになります。この数値が韓国は68%になります。日本は何%だと思いますか? 比較としてシンガポールも何%か当ててみてください。

宇野 シンガポールはかなり高いよね?

松谷 シンガポールは218%になります。

得能 日本は30%前後ですかね?

松谷 得能さん、近いです。日本は27%です。この数値が意味するのは、日本のマーケットが非常に大きいということです。音楽に限らず経済全分野的に内需が大きい。韓国のマーケットが小さくて外に出ていかなければいけないこと自体はその通りなんですが、そもそも海外に出ていくのが当たり前という気運が国にあるんですね。すごくシンプルに考えてGDP世界2位の中国と3位の日本に挟まれている国です。出て行かない理由なんてないですよね。

宇野 目の前に巨大市場が2つありますからね。特に日本の場合はコンテンツ産業が内需だけで回っていて、それだけで食えてしまう。

「K-POPとJ-POPはビジネスモデルが違うから単純に比較できない」は正しいか

松谷 日本はまだ内需だけで「食えてしまう」と言えますよね。

宇野 さらに言えば、20年前は完全にバブルだったわけです。K-POPのマネタイズの仕組みはかなり違っている気がします。日本の中で「CDが売れなくなって、フェスが伸びている」と頻繁に言われますが、それでもCDがすごく売れている国ですよね。

松谷 逆に言うとCDがこれほど売れるのは日本だけです。世界的に今ものすごく伸びているのはSpotifyやApple Musicのような定額のストリーミングサービスです。YouTubeも含んでいいと思いますが、ストリーミングサービスで音楽を発表するのが今は主流になっています。そんな中、日本ではCDやDVDといったパッケージの売上は、2017年では音楽産業全体の72%になります。次に割合が高いのがドイツで、43%ですね。韓国もまだパッケージの割合が高い方で37%になります。アメリカは15%程度です(参照:日本レコード協会「THE RECORD」No.703、2018年6月号

宇野 世界的に音楽は配信で聴かれている。配信を通して好きになった曲をライブで聴いたり、コレクターズアイテムとしてのCDを購入してもらってお金を集める仕組みが完成されている。日本だけが未だに30年程前からのビジネスモデルを抜け出せていない。

松谷 過去の体制にアジャストし過ぎていて、インターネット時代の音楽マーケットに向けて変化できていない。変わろうとする気運は徐々に見られていて、例えばジャニーズJrのSixTONESというグループがYouTubeにミュージックビデオを出していますが、やはり遅すぎる。それに対して韓国は世界で一番インターネットへのアジャストが進んでいる国です。そこから、たとえば2014年にシンガーのPSYが「江南スタイル」で世界的なブレイクもすることも生じましたした。

宇野 音楽関係の人に、こういった話をするとK-POPとJ-POPではそもそも相手にしている市場が違っていて、ビジネスモデルも異なるから一概に比べられないと言う人がたくさん居る。だからこそ起きていることは深刻だと思う。そもそも違うゲームをプレイしてしまっているからこそ、決定的に負けている。

松谷 今の日本でやっているゲームがこれ以降に続いていくのかと問い詰めたいですよね。インターネットはなくなりませんから。


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