アニメーション監督の山本寛さんによる、アニメの深奥にある「意志」を浮き彫りにする連載の第19回。
今回は、旧作のブーム当時、大学のゼミ発表で取り上げるほど『エヴァ』に傾倒していたという山本さんが、満を持して『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を語ります。
自身がアニメ業界に入ってからの一連の新劇場版シリーズには、冷ややかに距離を取ってきたなか、四半世紀を経て誰も彼もが「自分が考えたエヴァンゲリオン」を語る風景を再来させた完結編を、山本さんはどう総括するのでしょうか?
山本寛 アニメを愛するためのいくつかの方法
第19回 アニメを愛するための「いくつもの」方法-『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』
『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)のTVシリーズから『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997)までの一連の『エヴァ』(以下『旧エヴァ』)ブームが巻き起こった時、僕は大学生だった。
大学では美学美術史学のゼミに入っていたのだが、この作品はゼミ仲間の中でも大きな話題となっていた。僕は夢中になって布教に励み、ゼミ発表でもテーマとして取り上げた。
そのゼミ仲間のひとり、アニメにはまるっきり疎かった女の子が、興味を持って僕に「観てみたいけど、ない?」と言ってきたので、録画していたビデオを全話分貸してあげると、しばらく経って律儀に当時の僕の下宿まで返しに来てくれた。
「面白かった」と、本当かどうか解らない感想をくれた。
その彼女がある日、ふとこう漏らした。
「『エヴァ』って、語る人は必ず作品を語っているようで、途中から自分のことを語ってるのよね」
その子は後に、確か別の大学の医学部に入り直したと記憶している。
僕はこの時の彼女の言葉を、爾来『エヴァ』を考え、語る上での大きな指標としてきた。
だから、10年の時を経て「復活」した一連の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(以下『新エヴァ』)に関しては、一定の距離を置くようになった。
まず大学を卒業してアニメ業界に入ったのが大きかった。制作のバックステージを見てしまったので、かつてのように素直に楽しめなくなっていたような気分だった。
それと、やはり「これ、ただの焼き直しなんじゃないの?」という疑念がどうしても強かった。
僕は『旧エヴァ』が最高の形で終わったと確信していたので、『新エヴァ』に対しては、ちょっと怪訝な目で見るしかなかったのだ。
一応『序』(2007)『破』(2009)『Q』(2012)、全部観た。しかし、満足の得られるようなものではなかった。
そして遂に今年、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021)が「完結編」として登場した。
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