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『スウィート・シング』── 両親への愛憎と色彩のコントラスト|加藤るみ
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『スウィート・シング』── 両親への愛憎と色彩のコントラスト|加藤るみ

2021-10-18 07:00
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    今朝のメルマガは、加藤るみさんの「映画館(シアター)の女神 3rd Stage」、第21回をお届けします。
    今回ご紹介するのは『スウィート・シング』です。米インディーズ映画のアイコン、アレクサンダー・ロックウェル監督25年ぶりの日本公開作となる本作。不甲斐ない両親を見つめる子どもたちの機微を、巧みな色彩のコントラストとともに描き切った演出にるみさんがうなります。

    加藤るみの映画館(シアター)の女神 3rd Stage
    第21回 『スウィート・シング』── 両親への愛憎と色彩のコントラスト|加藤るみ

    おはようございます、加藤るみです。

    最近は、新たな映画フェチを見つけてしまった私です。
    私の映画フェチといえば、水中キスシーンについて今まで色んなところで紹介させてもらったんですが、最近はエレベーターシーンにときめきを感じていまして……。
    それは、『シャン・チー』('21)を観た時のことで、何かが君臨したかのように気づいたんです。
    序盤に、主人公シャンチーと親友ケイティがシャンチーの妹がいるマカオのバトルロワイヤルアジトに向かうシーンがあるんですけど、そこで、いかにも治安が悪めでガタガタの古めかしいエレベーターに乗るんですよね。
    その時に「エレベーター……!!!」と、私にビビビッとくるものが走って。
    全然、ピックアップするような重要なシーンじゃないんですけど、そのエレベーターシーンの密度と構図に惹かれたというか。
    それで、湧き出てくるように今まで観てきた印象的なエレベーターシーンが浮かんできたんですよね。
    タイトルだけいくつか上げると『(500)日のサマー』('09)、『グランド・ブダペスト・ホテル』('14)、『ドライヴ』('11)、『ニューイヤーズ・イブ』('11)、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』('14)など。
    そこで、今まで自覚がなかっただけでエレベーターシーンのときめきは私の脳内に刻み込まれていたんだと気づきました。

    「このエレベーターにやられた! エレベーターカットが魅力的な映画5選!」的なものを、私以外にテンション上がる人が見つかるかは不明ですが(笑)、いつか紹介できたらいいなと思います。

    さて、いよいよ緊急事態宣言が明け、映画館にも少し活気が戻ってきたように感じます。
    私は、何よりレイトショーが帰ってきたことが嬉しいです。
    今回紹介する作品は、1990年代にジム・ジャームッシュと並んで、米インディーズ映画のアイコンであったアレクサンダー・ロックウェル監督の25年ぶりの日本公開作『スウィート・シング』です。
    監督の代表作である、『イン・ザ・スープ』('92)は1992年のサンダンス映画祭でグランプリを受賞し、今でもカルト的人気がある作品ですが、今回『スウィート・シング』公開記念に10月29日から新宿シネマカリテで一週間限定上映が決まったそうです。
    私は公開時生まれてもいなかったので、絶対にスクリーンで観たいと思っています。
    皆さんもこの機会にぜひ……!

    『スウィート・シング』は、大きな衝撃はなくとも、ずっと大切にしたいと思える温かさに包み込まれる作品でした。
    インディーズにこだわり続けてきた監督の映画愛と色を操るマジカルな演出は、まだまだ新しい世界を見せてくれました。

    行き場を失った子供たちの辛く寂しい思い出、そんな中でも一瞬が永遠のように輝く子供時代の純粋な思い出。
    悲しみと輝きが混在する世界を描き、子育てができない親を見つめる子供たちの視点から複雑に変形していく家族の形を映し出します。

    普段は優しいが、酒を飲むと人が変わる父アダム。
    家を出て彼氏と同棲している母親イヴ。
    親に頼ることができず、自分たちで成長していかなくてはならない15歳の姉ビリーと11歳の弟ニコ。
    姉弟は、ある日出会った少年マリクとともに、逃走と冒険の旅に出る……。

    7541740cf1161747c17ffa434a70bc9bd1deddc7©️2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED

    まず、この映画には、どうしようもなく不甲斐ない、情けない大人たちが出てきます。
    アルコール中毒から抜け出せない父親。
    DV男に依存して、家から出ていった母親。
    こうやって聞くと、いわゆる“毒親”と呼ばれても仕方がないかもしれない。
    けれど、そんな家族のなかにも確かな“愛”があるということを、この映画は教えてくれます。
    親が責務を果たせていないことを、未熟で不器用だからという言葉で簡単に免除することはできないと思うけれど、決して子供たちのことを愛していないわけではなく、物語のなかで親の愛情が垣間見えるところに胸が痛みます。
    だからこそ、最近話題になっている“親ガチャ”という言葉や、“毒親”という悲痛な言葉で一括りにして表してしまうのは違う気がするのです。

    この類の映画でいうと、『シャン・チー』の監督としてMARVELに抜擢された、デスティン・ダニエル・クレットン監督の『ガラスの城の約束』('17)も併せて観てほしいです。
    どれだけクソな両親だとしても、一緒に過ごした素晴らしい思い出まで否定したくはない。
    私も子供時代に親が喧嘩して、辛いって思ったことや許せないって思ったこともある。
    今でも両親の嫌いなところはあるけれど、貰った愛情や楽しかった思い出があるから、親のことを心底嫌いになれないんだと思います。
    成長していくにつれて、親というのは完璧じゃないということを理解した時に、心がものすごく楽になったような気がします。

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