北京大学助教授の古市雅子さん、中国でゲーム・アニメ関連のコンテンツビジネスに10年以上携わる峰岸宏行さんのコンビによる連載「中国オタク文化史研究」の第12回(前編)。
2010年代中盤、日本のコンテンツを中心に消費していた「オタク」たちがゲーム市場に組み込まれ、中国産日本アニメ風ゲームと日本アニメの同時配信が行われるようになったのもつかの間、中国政府によって厳しいコンテンツ規制が敢行されます。それにより市場環境と消費者がどのように変わっていったのかを見ていきましょう。
古市雅子・峰岸宏行 中国オタク文化史研究
第12回 中華圏ゲームの発展史:2010年代中盤〜2020年代編(前編)
盛り上がりを見せるゲーム市場
前回述べたように、2012年に動画配信サイト、愛奇芸が『Fate/zero』(TYPE-MOON/アニプレックス)を皮切りに日本アニメを日中同時配信し、億単位の再生数を記録したことで、中国にいるアニメファンの存在が発見され、「市場」として認識されました。これが契機となり、2014年『幻想神域』が日本声優を起用した最初の中国産ゲームとしてヒットし、その後の多くの中国ゲーム作品に影響します。
2014年には『幻想神域』以外にも多くのゲームがリリースされます。上海莉莉絲網絡科技のロングランヒット作『ソウルクラッシュ』(2014年・中題:刀塔傳奇/小冰冰傳奇)から始まり、中国版Twitterとも言えるweibo(新浪微博)が2014年に開催した「ゲームランキング(遊戯排行榜)」には最優秀ネットゲーム賞に『剣網参』(西山居 2009年)、『夢幻西遊』(ネットイース 2001年)や海外の『World of Warcraft』(Blizzard Entertainment 2004年)、『ファイナルファンタジーXIV』(スクウェア・エニックス 2010年)、『モンスターハンターオンライン』(カプコン 2013年)などが選出され、新ゲーム部門に『幻想神域』や、日本原作、韓国制作のゲーム『魔界村オンライン』(Seed9 Games・カプコン 2010年)、期待賞として『ドラゴンクエストX』(スクウェア・エニックス 2012年)、『World of Warship』(Wargaming 2015年)、『ディアブロIII』(Blizzard Entertainment 2012年)、『Overwatch』(Blizzard Entertainment 2016年)などが挙がっています。このほかにも多くの中国国産ゲームがランクインしており、国境を感じさせません。
また日本の業界が中国最大のゲームショー「Chinajoy」に注目し始めたのもこのころです。
▲2017年7月に開催されたChinajoyのテンセントブース。例年とは打って変わってコンパニオンを配置せず、e-sportsに重点を置くようになった。
Chinajoyは正式名「中国国際数碼互動娯楽展覧会」といい、国家出版総署と上海市人民政府が主催し、全国の映像デジタルメディア運営事業者が集まって結成された「中国音像与数字出版協会」が共催するイベントで、2004年に開かれた第1回は北京で、それ以降は上海新国際博覧中心で開催しています。連載第7回で、中国のコスプレ甲子園的な役割があるとご紹介しました。しかしそれだけではなく、本来の目的であるゲームショーの部分に関しても、中国では唯一、かつトップレベルのイベントです。
第7回で紹介したCoser(中国のコスプレイヤーはCoserと呼びます)がゲームなどのビジネスに大きく絡み始めたのも、まさにこの2014年前後です。ゲームの宣伝イラストやポスターなどをCoserが飾りました。
この頃、新作ゲームはひと月に60タイトル以上リリースされ、ネットカフェは連日盛況。オタクはアニメの日中同時配信を見て、中国各地で増え始めた同人イベントに参加する。Coserでない一般の消費者もECサイト「タオバオ」の発展により容易にコスプレ衣装を入手できるようになり、コスプレのハードルが下がります。カメラマンが増え、SNSでの投稿が増えました。間口が広がったことにより、より多くの人がCoserとなり、カメラマンとなります。そしてそのイベントに多くの人が参加することで、ゲーム会社がイベント出展や広告に費用対効果を期待できるようになり、より多くのゲームが出展し、コンパニオンとしてCoserが参加する、といった全体的に良好な循環が生まれていました。
ファンの裾野がどんどん広がり、イベントも規模が大きくなって、コンテンツビジネス全体が少しずつ熱気を帯びていきます。
当時中国にいた筆者には、ゲームをはじめとする中国のコンテンツビジネスがその後も順調に発展を続けていくように見えました。
コンテンツ規制の始まり
2015年3月、その日人類は思い出した。支配されていた恐怖を……鳥籠の中に囚われていた屈辱を……。というのは大げさですが、数メートル級のバケモノといえる政策が初めて中国の消費者の前に現れます。
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