閉じる
閉じる
×
リサーチャー・白土晴一さんが、心のおもむくまま東京の街を歩き回る連載「東京そぞろ歩き」、今回が最終回です。
今回はこれまでの連載では語り尽くせなかった、白土さんが街歩きをするなかで見つけた「何か変なもの」たちを紹介。「そぞろ歩き」の真の楽しみを語っていただきます。
白土晴一 東京そぞろ歩き
第18回 番外編 東京で見つけて気になったもの
「東京そぞろ歩き」というタイトルをつけて、東京のあちこちを歩いてきたが、読み返してみると、東京は本当に広くて多種多様だと思う。高層ビルが立ち並んだ都心だけでなく、武蔵野原野の桑畑から新興住宅街になった土地、大きな河川の流域で水害対策がガチガチに施された下町、旧街道沿いに高層マンションが渓谷のように立ち並んでいる場所もある。
東京と一口に言っても、その景観や雰囲気は土地によってまったく違う。
大学入学を機に上京してから、かれこれ 30 年以上東京に住んでいることになるが、それでもいまだに行ったことがない場所もあるし、ずっと知らなかった東京の歴史的な事実というのもあるだろう。
この連載では街並みから行政の都市計画や住宅政策を考えるのも面白かったし、思わぬ場所にある歴史の痕跡を見つけるのも興味深かった。
しかし、私個人が楽しかったことは、道端で何か変なもの、奇妙なもの、違和感があるものを見つけた時だろう。そこまで目立つものではないけど、近づいて見てみると、ちょっと不思議な感じがするものである。
例えば、下の千駄木で見つけたコミュニティーゾーン表示の看板。
初めて見た時は「なぜ亀が描いてあるの?」と疑問に思ってしまった。
こういうものを見つけると、調べずにはいられない性分なので、ネットで検索してみる。
すると、国土交通省道路局が行っている、大きな幹線道路に囲まれている住宅地などを対象に、警察と連携して車両の流入を制限し、歩行者・自転車優先の道路環境を整備し、商店街などの活性化を目指す「くらしのみちゾーン」という事業が見つかった。
東京都文京区千駄木三、四、五丁目地区は、この事業の対象地域で、特にたまり空間なども設置するコミュニティ道路整備に力を入れているとのこと。
そして、この亀はこの千駄木三、四、五丁目地区「くらしのみちゾーン」のシンボルマークで、「ゆっくり歩こう」という意図があるらしい。こういう小さなものに気づき、その背後にどういう意図があるのかを調べるのは楽しい。これこそが街歩きの醍醐味と思う。
しかし、「東京そぞろ歩き」という連載でその地域を語っていくと、どうしても枝葉末節になってしまうこともあるので、泣く泣く小さなものは省いてしまう。何だか勿体無い感じがするが、字数と時間に限りがあるので仕方がない。
私の街歩きはこういう街の中に潜んだ瑣末なものを読み解くことが喜びなので、今回は、連載では書かなかったが個人的に気に入っている、東京で見つけた目立たないがよくみると変わっている、興味深いものを紹介していこうと思う。
では、さっそく、水害対策取材で葛飾区亀有を歩いていたときに、見性寺というお寺の中で見つけたものから。
こういうものを見つけると、調べずにはいられない性分なので、ネットで検索してみる。
すると、国土交通省道路局が行っている、大きな幹線道路に囲まれている住宅地などを対象に、警察と連携して車両の流入を制限し、歩行者・自転車優先の道路環境を整備し、商店街などの活性化を目指す「くらしのみちゾーン」という事業が見つかった。
東京都文京区千駄木三、四、五丁目地区は、この事業の対象地域で、特にたまり空間なども設置するコミュニティ道路整備に力を入れているとのこと。
そして、この亀はこの千駄木三、四、五丁目地区「くらしのみちゾーン」のシンボルマークで、「ゆっくり歩こう」という意図があるらしい。こういう小さなものに気づき、その背後にどういう意図があるのかを調べるのは楽しい。これこそが街歩きの醍醐味と思う。
しかし、「東京そぞろ歩き」という連載でその地域を語っていくと、どうしても枝葉末節になってしまうこともあるので、泣く泣く小さなものは省いてしまう。何だか勿体無い感じがするが、字数と時間に限りがあるので仕方がない。
私の街歩きはこういう街の中に潜んだ瑣末なものを読み解くことが喜びなので、今回は、連載では書かなかったが個人的に気に入っている、東京で見つけた目立たないがよくみると変わっている、興味深いものを紹介していこうと思う。
では、さっそく、水害対策取材で葛飾区亀有を歩いていたときに、見性寺というお寺の中で見つけたものから。
「狢塚」とある。
狢はアナグマやハクビシンなどのことだが、地域によっては狸のことを狢と呼ぶところもある。狸や狢は日本の伝承では妖怪の一種とするのはご存じだと思うが、そういう妖怪じみた狸や狢の遺骸を祀ったり、塚にしたりすることは、全国でよく見られる。
しかし、ここの「狢塚」の由来は、ちょっとだけ近代的である。
明治時代の都市伝説の一種に「偽汽車」というものがある。これは存在するはずのない場所や時間に、線路の上を謎の汽車が走っているという怪現象。
明治 20〜30 年代の常磐線が開通した時期に、汽車の走っていない筈の夜中に謎の汽笛が聞こえたり、走行中の汽車の機関士が前方から突っ込んでくる謎の汽車を見つけて緊急停止したが、その汽車が忽然と消えてしまったということがあったらしい。
これこそ「偽汽車」なのだが、ある日、常磐線の線路脇に汽車に轢かれた狢の死骸が見つかる。人々は「これが偽汽車の正体か」と驚き、このお寺に塚を作って供養したとのこと。
こう考えると、江戸から続く伝承怪異の動物と鉄道という近代インフラの接触した痕跡と言えると思う。 動物といえば、小金井市の小金井公園桜遊歩道で見つけた、服をきた小鳥付きの車止めも面白い。
狢はアナグマやハクビシンなどのことだが、地域によっては狸のことを狢と呼ぶところもある。狸や狢は日本の伝承では妖怪の一種とするのはご存じだと思うが、そういう妖怪じみた狸や狢の遺骸を祀ったり、塚にしたりすることは、全国でよく見られる。
しかし、ここの「狢塚」の由来は、ちょっとだけ近代的である。
明治時代の都市伝説の一種に「偽汽車」というものがある。これは存在するはずのない場所や時間に、線路の上を謎の汽車が走っているという怪現象。
明治 20〜30 年代の常磐線が開通した時期に、汽車の走っていない筈の夜中に謎の汽笛が聞こえたり、走行中の汽車の機関士が前方から突っ込んでくる謎の汽車を見つけて緊急停止したが、その汽車が忽然と消えてしまったということがあったらしい。
これこそ「偽汽車」なのだが、ある日、常磐線の線路脇に汽車に轢かれた狢の死骸が見つかる。人々は「これが偽汽車の正体か」と驚き、このお寺に塚を作って供養したとのこと。
こう考えると、江戸から続く伝承怪異の動物と鉄道という近代インフラの接触した痕跡と言えると思う。 動物といえば、小金井市の小金井公園桜遊歩道で見つけた、服をきた小鳥付きの車止めも面白い。
この小鳥が上に乗った車止め自体は、あちこちで見かける。しかし、普通は服を着ていない。
実はこの車止めの小鳥が服を着せられているのは、神奈川県の江ノ電江ノ島駅の前に設置されたものでも見たことがある。
この小鳥付きの車止めは、旗ポールや車止めなどを製造している株式会社サンポールさんの「ピコリーノ」という製品。
この「ピコリーノ」自体は人気製品で全国各地に設置されているが、なぜか関東でこの小鳥に服を着せられることが多いらしい。ここ小金井公園の他に、東京では等々力陸上競技場などで服をきた「ピコリーノ」を見ることが出来る。
これは東京に限らないが、銅像やモニュメントに服を着せるという習慣(?)はあちこちで見かける。
例えば、 宿区神楽坂には四コマ漫画「コボちゃん」の主人公のコボちゃんの銅像が立っている。これは原作者の植田まさし先生が神楽坂に長年居住していて、「コボちゃん」の連載も神楽坂で始めたことを記念しての銅像である。
しかし、ご近所の方が季節に合わせてコボちゃんの服を着せ替えている。
この「ピコリーノ」自体は人気製品で全国各地に設置されているが、なぜか関東でこの小鳥に服を着せられることが多いらしい。ここ小金井公園の他に、東京では等々力陸上競技場などで服をきた「ピコリーノ」を見ることが出来る。
これは東京に限らないが、銅像やモニュメントに服を着せるという習慣(?)はあちこちで見かける。
例えば、 宿区神楽坂には四コマ漫画「コボちゃん」の主人公のコボちゃんの銅像が立っている。これは原作者の植田まさし先生が神楽坂に長年居住していて、「コボちゃん」の連載も神楽坂で始めたことを記念しての銅像である。
しかし、ご近所の方が季節に合わせてコボちゃんの服を着せ替えている。
こういう銅像や彫像に着せ替えを行う文化がどこから出てきたかは分からないが、民間信仰などで神仏の像の服を着せ替える「お召し替え」という風習はあるので、人や動物の姿をしている造形物に服を着せたいという意識が日本にはあるのかもしれない。
この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
入会して購読
チャンネルに入会して、購読者になればこのチャンネルの全記事が読めます。
入会者特典:当月に発行された記事はチャンネル月額会員限定です。
PLANETS Mail Magazine
更新頻度:
不定期
最終更新日:2024-11-13 07:00
チャンネル月額:
¥880
(税込)