
現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。
今回は、〈出張組〉〈駐在組〉〈永住組〉という三層の日本人コミュニティを読み解きます。
橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記
第15回 日本の命運を握る「三種類の日本人」「三段構えの社交戦術」「三次元の国家間関係」について|橘宏樹
こんにちは。橘宏樹です。トランプ政権も100日が経過しました。関税政策にせよウクライナ和平にせよ、まずは高目から吹っかけて落としどころを探る「ディール(取引)」スタイルが展開しています。世界は、振り回されながらも、なんだか妙に慣れてきた、といったところではないでしょうか。株価の乱高下の幅も小さくなってきているように見えます。しかし、もちろん、トランプ大統領は、お騒がせして申し訳ありませんなどと、決して詫びません。トランプ・ディールの最終目的が、国内雇用を取り戻すべく、安過ぎる為替レートや投資制限で独善的保護主義政策をとる中国を追い込むことにあるとしても、この恣意的急変動に世界が慣れていくことそれ自体によって、彼による世界に対するある種の「調教」が進んでいる感もなきにしもあらずです。
関税交渉の合意一番手はイギリスでした。これまで両国間に大した貿易摩擦が生じていなかったことが早期合意できた主要因だとは思いますが、右往左往する他国を尻目に、こうやって妥結するもんなんだぜ、とばかりに、早々にイチ抜けするところ、やはり英国の手早さ、鮮やかさのようなものを感じて「さすが」と思ってしまうのは僕だけでしょうか。スターマー首相の手腕以前に、英米関係の「特別さ」を裏打ちする極太の外交パイプが、縦横無尽に通っているんだろうなと想像させられます。ベッセント米財務長官とマンデルソン駐米英国大使との個人的な信頼関係が効を奏したとの報道もありました。
転じて、リーディング・ケースになるはずだった日本政府は苦心しています。外交関係者は全力を挙げて交渉にあたっています。しかし、トランプにパイプがない、交渉力が弱い、と、石破政権は批判にさらされています。ですが、対米関係をマネジメントする上で、改善が必要な存在は、果たして石破政権と外務省関係者だけなのでしょうか。
国家間関係は、社会間関係の上に乗っています。社会間関係は非常に多種多様な分野に渡り、重層的で有機的に関連し合っています。とどのつまり、日系人社会が米国社会に深々と「食い込んで」いればいるほど、人脈と情報が本国の手に入り、日本の対米交渉力はアップします。僕は、日系人社会自体は、米国社会にボチボチ食い込んではいるものの、むしろ日系人社会内の連係プレーができていないため、せっかくの食い込み分すら活用し切れていないところに課題があるのではないか、と見ています。対米交渉の遅滞要因は、実は、今日に始まった問題ではないのです。
本連載の最終章として、3回に分けて、NY駐在の総括編をお送りします。今号では、僕が約3年間、NYの日系人社会で生活して気が付いた、日本の国益を最大化するためのヒントを、日系人のキャラクターの種類、日本人の社交戦術、国家間の社会間関係の3つの観点からご共有したいと思います。