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記事 6件
  • あなたの持ちものを欲しがる人に売ることをビジネスとは言わない(前編)|橘宏樹

    2022-05-06 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。今回は、ニューヨークひいてはアメリカ社会で大きな存在感をもつユダヤ系の人々について。市内人口の9%を占め、金融・経済・政治・メディアの重要局面で絶大な影響力を発揮するユダヤ人社会が、現在どのような状況にあるのかをタイプ別に解説します。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第4回 あなたの持ちものを欲しがる人に売ることをビジネスとは言わない(前編)
    まずは近況:物価上昇・円安のダブルパンチ
     おはようございます。ニューヨークの橘宏樹です。日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。4月中旬現在、ウクライナ侵攻については、長期化するだろうとの見方、5月9日のロシアの対独戦争戦勝記念日までに、めぼしい戦果をあげるべく、ロシアが大規模総攻撃を仕掛けるだろうとの見方が飛び交っている状況です。SNS上のプロパガンダ合戦も激しい状況で、何が正しい情報なのか、この情報は誰のどういう意図で世に出されたものなのか、いちいち判断するのが困難な状況です。 ニューヨークの日常生活は、というと、兎にも角にも物価上昇が激しいです。生活を直撃しています。家賃も電気代も値上がりし、スーパーの野菜や肉までもが1~2週間で1割くらい値上がりしています。原因は、順調な経済成長をベースに、ウクライナ侵攻に起因する原油と小麦の不足、コロナ禍によるサプライチェーン混乱からの品不足が主要因です。飲食店の人手不足は特に深刻で、高騰する賃金がダイレクトに価格に反映され、例えば、つい先週まで13ドルで食べられたラーメンが今日は16ドルになったりしています。(一蘭のような高級ラーメン店ならば、下記のニュースのように、最低でも20ドルします。)
    ラーメン1杯2500円のNY 物価高騰(2022年4月16日 デイリー新潮)
     さらに、円安が厳しい状況です。原因は、短期長期色々とありますが、日本の貿易赤字に加えて、上記のような物価上昇、すなわち市場の貨幣流通量を減らすため、アメリカは金利を上げました。日本は金利を簡単に上げられないところ(上げたら国債の利払いが増える)、市場は当然、より高い利回りの債券に買い替える(日本国債を売って米国債を買う)動きが進みます。僕たちのように日本円で給料をもらっている人々は、物価高と円安のダブルパンチで、本当にへとへとです。今月の給料明細を見たときは、減給処分でも食らったのかとのけぞりました…
    円安が一段と進行、ドル130円に届くか:識者はこうみる(2022年4月12日 ロイター)
     そして、治安が悪化しています。4月11日ブルックリンの地下鉄駅で起きた発砲事件にはニューヨーク中が震撼しました。幸い死者はでなかったものの、16人が負傷しました。犯人が逃走中の間は、電車は止められ駅は封鎖され、まだ捕まらないのか、今どのあたりを逃げているのか、と、オフィス内でみんな逐一ニュースを見守っていました。特に事件が起きた地下鉄駅は「ジャパン・ビレッジ」という非常に大きなスーパーやレストランの入った日系の複合施設の最寄り駅だったので、日本人コミュニティにとっても特別に肝を冷やす事件でした。
    地下鉄駅で発砲事件(2022年4月13日 週刊NY生活)
     というわけで、コロナの蔓延状況はかなり改善してはいるものの(ほとんどの場所でマスク義務も解除。しかし足下では新規感染者数が微増傾向で、これもまた実は気持ち悪い)、庶民のニューヨークライフは非常に厳しい状況です。
    ▲セントラルパークでも桜が満開。
    ユダヤ人は強いのか
     さて、本連載の大テーマは「ニューヨークの力強さの秘密を探る」ですが、今回はユダヤ系の人々の力強さの秘密について少し考えてみたいと思います。投資家のジョージ・ソロス、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、facebookあらためMetaのマーク・ザッカーバーグ、メディア王のマイケル・ブルームバーグなど、ユダヤ系の著名な成功者は多いです。
     とりわけニューヨークではユダヤ系の人々の金融・経済・政治・メディアにおける影響力は絶大です。実際、僕の肌感覚としても、こちらでビジネスをしていると、どんな分野であっても、話が進んで重大局面で出てくる、家主や地主、親会社の幹部、大株主などの判断権を持つ人物はユダヤ系であることは確かに多いです。
     そこで今号では、前後半2回にわたって、アメリカのユダヤ人がどのような人々なのかざっくりご説明するとともに、日本とユダヤ人の関係、そして日本がユダヤ人から学べるポイントについて考えてみたいと思います。
     
  • あなたに電動キックボードの声が聞こえるか(後編)|橘宏樹

    2022-04-01 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。先端的なニューヨーカーたちが日常的に使う電動キックボードを、さっそく自らの通勤の足に採り入れた橘さん。そこで得られた気付きから、日本の研究支援やビジネスの現場に持ち帰れるものが何かについて、思考を進めていきます。 (前編はこちら)
    ◯お知らせ 今年度より、コンテンツ再編にともないDaily PLANETSの配信日を毎週月曜日・火曜日・金曜日と変更させていただきます。毎週木曜日更新の無料ウェブマガジン「遅いインターネット」とあわせ、引きつづきPLANETSをよろしくお願いいたします。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第3回 あなたに電動キックボードの声が聞こえるか(後編)
    日本の科学技術力を底上げする方法について
     日本のテクノロジーと言えば、先日、仕事で、ニューヨークで活躍する日本人の超一流の理系研究者らとお話しする機会がありました。みなさん海外での活躍がだいぶ長い方々でしたが、日本への愛国心は大変強く、母国のテクノロジーやイノベーション力が衰退していることを、とても憂いておられて、どうしたらよいか、興味深い意見をいろいろと聞かせてくれました。
     まず、一同口を揃えて言うには、彼らのような海外一線の研究者らと日本国内の研究者コミュニティーの間は、かなり断絶しているとのことでした。別に喧嘩別れしたわけではなくとも、日本人研究者が所属組織と提携関係のない海外の研究機関等に移籍する際には、「片道切符」になってしまい、結果的には、所属組織と縁を切らされるかたちになってしまうことが多いそうです。すると、日本国内の研究者コミュニティ内での居場所もまた失われてしまうので、彼らの研究成果や最新情報、人脈が国内に還元されていくチャンネルが途絶えてしまうわけです。確かに、これでは、後進に海外で活躍する先輩からの情報が入ってこないわけです。それどころか、組織としても、新しいコネクションを開拓できるチャンスを、みすみす潰してしまうことになっているわけですね。なんと、もったいないことでしょうか……。
     ちなみに、役所では、いろいろと特務や諸事情がある人材については「総務課『付き』」など、無役だけれどなんとなく「籍」(多くの場合物理的な「席」も)を置いておく人事上の技術があって、いろいろと便利に使われています。まわりも、ああいろいろあるんだろうな、と察します。民間でもこういうテクニックはあると思います。なので、研究所でも、形だけ、例えば所長特任補佐、などといった席(籍)を残しておいて、zoomなどで、定期的に近況報告してもらうだけでも、だいぶ違うと思います。
     また、日本人研究者は、欧米の研究者に比べると、概して、ビジネス上のニーズに関するアンテナやセンスが低いことも憂いていました。例えば、特許を取得しても、自ら企業等に売り込みを行わず、世間知らずの自分でも知っているような知名度の高い大企業から声がかかるまで受け身で待つばかりで、良い筋の新興ベンチャーキャピタル等から声をかけられても信用せず、頑なに商談に応じない傾向があるとのことです。一方、米国では博士課程のプログラムの中に、知的財産の扱い方や諸手続き、マーケティングやコンサルタントの役割等について概説する授業があるため、研究者も知財ビジネスのリテラシーを養う機会が確保されているそうです。なるほどなあと思いました。日本の大学でもこうした授業を導入するのは難しいことではないはずですから、すぐにでも広く取り入れられるとよいなと思います。
    黄金期到来 東工大ら率いる「大学発スタートアップ・エコシステム」始動(Forbes JAPAN) - Yahoo!ニュース
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  • あなたに電動キックボードの声が聞こえるか(前編)|橘宏樹

    2022-03-28 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。ロシアのウクライナ侵攻に対するリアクションが街のそこかしこに現れ、有事の空気感が漂う中で、先端的なニューヨーカーたちが日常の足として使う電動キックボードが象徴する、イノベーションに対するメンタリティについて考察します。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第3回 あなたに電動キックボードの声が聞こえるか(前編)
     おはようございます。ニューヨークの橘宏樹です。世界の報道はウクライナ戦争一色ですね。どうしても、この話から始めざるを得ません。戦況や停戦交渉の行方は目まぐるしく変わり、毎日様々な情報が伝えられます。両軍の死者は増え、一般市民も大勢巻き込まれ、焼け出された難民がどんどん増えています。3月7日のニューヨーク・タイムズの一面には、迫撃から逃げ遅れた親子の遺骸の写真が大きく載りました。  3月11日、米国上院はウクライナへの緊急軍事・人道援助に136億ドルを充てる予算案を可決しました。野党共和党もすんなり支持しました。  ロシアがなぜウクライナ侵攻を行ったか。最も大きな刺激となったのは昨年11月10日の米国−ウクライナ憲章の改訂において、米国がウクライナの領土的・経済的安全を保障することを再度確認したということ、ウクライナのNATO加盟の支持を強めたことなどが理由とされています。ロシア側の視点については、学生時代からの友人であるテレビ東京豊島晋作キャスターのこちらの動画がよく伝えてくれていると思います。
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  • 分断に対抗する選挙制度改革:勝者がルールを決めるのか。ルールが勝者を決めるのか(後編)|橘宏樹

    2022-02-18 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。選挙制度改革について論じる第2回の後編です。近年、採用が進められている「順位選択式投票」。深刻化する社会の「分断」を解決する手段となり得るのか、そして日本人の政治不信解消にはどのような議論が必要なのか考察しました。(前編はこちら)
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第2回 分断に対抗する選挙制度改革:勝者がルールを決めるのか。ルールが勝者を決めるのか(後編)
    民主主義の本質は手続きに宿る:選挙の「5W1H」を見直す
     さて、第1回の後半では、NY市が市政選挙の投票権を外国人移民にも与えたニュースを取り上げつつ、権力闘争のルールそれ自体が、権力闘争の対象となる、アメリカの民主主義というゲームのダイナミックさ、ある種の不安定さについて、議論しました。今回も、もう少しその続きをお話ししたいと思います。
     民主主義とは、選挙による多数決を基本原則として集団の意思を決定する制度です。そして、選挙には5W1Hがあります。①誰が(who)②なぜ(why)③いつ(when)④どこで(where)⑤何に(what)⑥どうやって(how)投票するのか。「神は細部に宿る」と言うように、これら5W1Hを具体的にどうするかが、どのような民主主義を実現したいのかを決定づけます。前回のNY市外国人参政権拡大は、まさしく①誰が(who)が変革された話でした。
     日本の選挙においては、もっぱら、②なぜ(why)と③いつ(when)と⑤何に(what)が議論されますよね。争点はなにか。解散はいつか。どの政党・誰に投票するか。2016年に18歳へ選挙権年齢を引き下げた際には、珍しく①誰が(who)が議論されましたが、⑥どうやって(how)はほとんど議論されたことはありません。
     一方、アメリカでは、大統領等に議会の解散権はなく③いつ(when)は固定されているのであまり議論になりません。その代わり、現在、全米規模で、⑥どうやって(how)が大変革されています。2つの大きなhowの変革をご紹介します。
    一度に5人に投票:「順位選択式投票」とは
     2000年の大統領選挙でブッシュとゴアが歴史的大接戦を演じて以来、全米各地で投票制度の見直しの議論が始まりました。あまりにも真っ二つに分かれている状況で、真に選ばれるべき勝者は誰であるべきなのか。実は、みんなが2番手に選んでいる人の方がふさわしいのではないか。「分断」をなんとかできる、より妥当な方法は何だろうか。と模索が進んできました。
     そこで、採用が進んでいるのが、「順位選択式投票(Ranked-Choice voting:RCV)」です。RCVとは、有権者が上位5名の候補者を選び、1位から5位までの選好順位とともに投票し、全員の1位票を集計するものです。1位票を50%以上得票した候補者が勝利します。1位票を50%以上獲得した候補者がいない場合は、1位票の得票が最も低かった候補者の票を、その候補者に投じられていた2位票の数に応じて、他の候補者に再分配します。このプロセスを、50%以上の票を獲得する候補者が現れるまで繰り返します。
     RCVは、アイルランド大統領選挙、ロンドン市長選挙、オーストラリア下院議員選挙でも採用されており、米国内でも、サンフランシスコ市やオークランド市を先駆にNY市など50か所が導入しています。2021年には、NY市を含む20か所でRCVによる選挙が実施されました。現在も約20州で導入キャンペーンが行われています。
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  • 分断に対抗する選挙制度改革:勝者がルールを決めるのか。ルールが勝者を決めるのか(前編)|橘宏樹

    2022-02-17 07:00  
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    現役官僚である橘宏樹さんが、「中の人」ならではの視点で日米の行政・社会構造を比較分析していく連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」。今回は、コロナ禍での政府の意思決定のあり方について。未曾有のパンデミックを前にどの国でも臨時的な対応が迫られるなか、米国ではそれがある程度許容されているようですが、そこには意思決定プロセスの「透明性」に鍵があるようです。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第2回 分断に対抗する選挙制度改革:勝者がルールを決めるのか。ルールが勝者を決めるのか(前編)
     おはようございます。橘です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。2月上旬のNYの気温は、ちょっと暖かくなったり、吹雪の日もあったりと、寒暖差がちょっと激しいです。
    ▲殉職警官を悼むNYPDの追悼パレード。最近のNYは、銃撃事件が相次ぎ治安の悪化が深刻です。
    銃弾に倒れ殉職の22歳NY警察。「あの日喧嘩をしたまま…」新妻のスピーチに全米が涙(安部かすみ氏 2022年1月30日)
     日本では、新型コロナウイルスの新規感染者数は増加中で、まん延防止等重点措置の適用拡大がなされるなど、厳しい状況と聞いておりますが、NY州では、新規感染者数や陽性率の増加傾向という点では、ピークを過ぎて下り坂です。2月16日時点で、入院者数は、NY州がコロナ行政において最も重要な指標のひとつとしてきたICUの空きベッド率は目安の30%を割り込んで22%となっています。NY州の発表によれば、2月6日までのサンプルにおいて、ワクチンを完全に接種した人のうち、ブレークスルー感染して陽性反応が出た割合は8.6%、入院した人の割合は0.29%とかなり少ないですから、つまり、入院者・死亡者のほとんどが、ワクチン未接種者であると推定されます。
    ▲ニューヨーク州の直近3か月の新規感染者数推移の状況。すっかり山は越えました。(2月15日時点。ニューヨーク・タイムズより)
    (ちなみに、これらの数値はNY州のウェブサイトで公開され日々更新されています。英語が苦手な方も、昨今のブラウザの自動翻訳機能は優秀ですので、ご活用いただきながら、参考までにちょろっとご覧になってみてはいかがでしょう。)
    NY州の新規感染者数・死者数・ワクチン接種者数(NYタイムズ)ブレイクスルー感染者数のデータ(NY州政府)NY州の病床数のデータ
     なので、州・市政府のコロナ政策は、マスク着用義務、ワクチン接種拡大に完全にしぼりこんでいます。NY市のアダムズ新市長も、NY州のホークル知事も、年始に足並みを揃えて、オミクロン対策は、「経済と公衆衛生のバランス」に配慮して行っていく、と述べており、かつてのようなロックダウンは考えていないようです。
     一方、「公衆衛生と自由のバランス」については、揺り戻しが起きています。昨秋から、国全体や州で、公衆衛生を重視しワクチン接種やマスク着用義務を課していく行政命令が出ていましたが、最近は、ワクチンを打たない自由、マスクをしない自由を尊重するべきという司法判断が続いています。例えば、昨年11月にバイデン政権が定めた従業員100人以上の企業に対して従業員に対するワクチン接種義務を課す規則が、1月13日、連邦最高裁が違憲と判断して差し止め命令を出しました。米最高裁、バイデン政権の企業向けワクチン義務化規則を差し止め(2022年01月14日 JETRO)
     NY州でも、州知事が昨年末に出した屋内公共スペースでのマスク着用義務命令について、州最高裁が、知事の命令だけではダメで、州議会の承認が必要であり、違法だと判断しました。米NY州のマスク着用義務化に違法判決、州最高裁が判断(2022年1月24日 ロイター)
     このように、行政・立法・司法の三権がひっきりなしに係わり合って、短期間に判断を二転三転させながら試行錯誤を重ねていく模様は、以前『現役官僚の滞英日記』でも触れた、無戦略を可能にする5つの「戦術」の4つ目「トライ・アンド・エラー」を彷彿とさせます。米英共通のアングロサクソン流ということなのでしょう。「無戦略」を可能にする5つの「戦術」~イギリスの強さの正体~(ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.381 橘宏樹『現役官僚の滞英日記』第11回)


    ▲2021年11月に2年ぶりに開催された、全米最大規模のコミケイベント「アニメNYC」の様子。コスプレは『鬼滅の刃』と『イカゲーム』が圧倒的な人気。
    社会の許容度を支える2つの「透明性」
     判断が右に左に振れ続ければ、日本では、そのこと自体について、朝令暮改だとか、一貫性がないとか、批判しがちです。そして釈然とせずブツブツ文句を言いながら、指示には一応従いつつ、そのうちに「喉元過ぎれば熱さを忘れ」ていくことを繰り返していく、というパターンが多く見られる気がします。一方で、アメリカ社会は、判断が右に左に振れ続ける不安定さに対して、かなり許容度が高い気がします。ことコロナだからしょうがないという諦めも大きいとは思いますが、僕は、少なくとも2つの意味での透明性が社会の許容度を支えているように思います。
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  • 【新連載】現役官僚のニューヨーク駐在日記 ニューヨークはなぜ力強いのか|橘宏樹

    2022-01-19 07:00  
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    今月から、現役官僚である橘宏樹さんによる新連載「現役官僚のニューヨーク駐在日記」が始まります。これまでPLANETSでは「現役官僚の滞英日記」や「GQ(Governement Curation)」の連載を通して、「中の人」ならではの視点から政界の裏側や政治と生活との結びつきを紹介してくれた橘さん。本連載では、ニューヨークへの赴任から1年を経たタイミングで、橘さんが改めて感じたアメリカの政治風土を日本の読者向けに紹介していきます。第1回は連載全体の見通しと、外国人参政権が可決されたことに対する橘さんならではの見解について。
    橘宏樹 現役官僚のニューヨーク駐在日記第1回 ニューヨークはなぜ力強いのか
     ご無沙汰しております。橘宏樹です。国家公務員をしています。ニューヨークに赴任して1年が経ちました。マンハッタンの、とあるオフィスで働いています。
     僕は以前、イギリスに留学していた2014~16年の2年間、PLANETSで「現役官僚の滞英日記」を連載させてもらいました。イギリスの老獪さの秘密を解き明かすことを目標に、毎月、半ば途方に暮れながらも掴んだものを書き綴り、書籍化もしてもらいました。その後もニューヨークに来る直前の2020年9月まで約3年間、「GQ(Governement Curation)」という、あまり報道されないけれど非常に重要な行政の動きを解説する連載をさせてもらっていました。  そして今回のニューヨーク赴任にあたって、せっかくだから、また何か書かないかと宇野編集長からお声がけいただきました。一応、1年間働いて仕事のペースもつかめてきたところで、任期もまだあと2年はありそうですし、連載を始めることにしました。
    ▲着陸寸前の飛行機の窓から臨むニューヨーク。セントラル・パークが見えます。
     ニューヨークは、言うまでもなく世界最大の経済・文化の中心都市のひとつです。日本からの観光客も多く、たくさんの日本語の報道やコラムで取り上げられている街だと思います。なので、本連載では、「現役官僚の滞英日記」や「GQ」と同様、なるべくそうした記事とは、角度の異なる内容を書いていければと考えています。時事的なトピックを扱う際も、事実の紹介を踏み越えて、なるべく本質的で普遍的な何かに対する洞察に努めたいですし、なにより、この地で、日本人や日本社会にとって真に学ぶべき何かを掴みたいと考えています。なので、現地で暮らすがゆえに得られる肌感覚を重視した記述が主になると思いますから、自然、語尾は「感じる」「思う」といった主観的な表現が多くなるかもしれません(ちなみに、仕事のことは一切書きません)。
     さて、目下のニューヨークでは、オミクロン株が猛威を振るっており、一日当たりの新規感染者数は史上最高値を更新中です。しかし、ワクチン接種者の重症化事例はかなり少ないので、行政は昨冬のようなロックダウンは考えていないようです。街も大勢の人出があります。  冬のマンハッタンは、クリスマスのイルミネーションがとても美しかったです。ライトアップされた5番街、クライスラービル、エンパイヤ・ステートビル、ロックフェラーセンターなどをみんながインスタグラムにアップしています。ハイセンスできらびやかです。
     しかし、その足下では、マンホールから立ち上る蒸気のなかを、ボロボロな黒ずくめの服装で無灯火の電動自転車にまたがるUber EatsやAmazonの配達員が、猛スピードで逆走しています。銀行のATMにホームレスが泊まり込み、超巨大トレーラーが狭い路地を横切り、渋滞にいらだつドライバーたちのクラクションは鳴りやみません。地下鉄も落書きやゴミがそこら中に目につき、古くて汚くてあんまり乗る気になりません。都市インフラの老朽化はかなりひどいと思います。映画『ジョーカー』で描かれた「ゴッサムシティ」そのもの。世紀末的な格差社会が広がっています。
     どこから何を学び、どう切り出して、何をみなさんにお伝えしようか、にわかに戸惑うほど、ネタの宝庫です。
    ▲様々な様式の建築が立ち並ぶ。エンパイア・ステートビルはクリスマス仕様。
    ▲銀行のATMで寝泊まりする人々
    ニューヨークの「力強さ」の秘密を解き明かしたい
     ニューヨークは、政治も行政も経済も文化も、本当に面白いです。ブロードウェイのミュージカルのように、すべてがエンタメなんじゃないかとすら思えるほどに、飽きさせない魅力があります。そして、ニューヨークは、その魅力によってあらゆる人々を惹きつけ、全米のみならず全世界の中心都市のひとつであり続けています。
     この度のパンデミックにおいて、ニューヨークは毎日大勢の死者を出す世界最悪の状況を経験しましたが、比較的短期間で不死鳥のごとく復活しました。この1年間、僕が当地で目の当たりにした経済や社会の回復には、胸をすくような、ダイナミックな「力強さ」がありました。なぜニューヨークにはこのような回復が可能だったのでしょうか。ワクチン接種の急速拡大政策などを展開したクオモ前知事の強力なリーダーシップが大きかった、などと、プロセスを評価・分析することは可能なのですが、僕の関心は、むしろ、ニューヨークは、なぜクオモ氏を知事に選出できるのか、なぜ彼を活かせるのか、といった、もっと根本的な、もっと茫漠とした何かにあります(もちろん、ご承知のとおり、クオモ前知事はセクハラスキャンダル等で訴追された、毀誉褒貶のある人物ではあります)。
     そこで、今回の連載では、ニューヨークのそんな「力強さ」の秘密を解明することをテーマにしていきたいと思っています。
     現時点でおぼろげに抱いている仮説としては、この「力強さ」は、なんというか、ニューヨークでは、問題を解決することに対する苛烈なほどの執着心が、個人や組織や社会に徹底的に沁みついているような印象があることと、関係がある気がしています。
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