"ネット保守"ではない政治文化を生むために
「ナショナリズムの現在」レポート
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.2.17 vol.011

"〈ネトウヨ〉化する日本をどう考えるか"
気鋭の歴史学者や哲学者、ライターたちが集まり、草の根ナショナリズムの問題を考えたイベントのレポートです。また、宇野が朝日新聞で都知事選の結果について答えて大反響を呼んだインタビューも併載しています。

今回のほぼ日刊惑星開発委員会は、先日2/8(土)に行なわれたトークイベント「ナショナリズムの現在――〈ネトウヨ〉化する日本と東アジアの未来」のレポートをお届けします。
2013年、新大久保のヘイトスピーチなどに代表されるように、現実にも大々的に盛り上がりを見せた現代日本の草の根ナショナリズム。こうした問題について漫画家の小林よしのりさん、哲学者の萱野稔人さん、歴史学者の與那覇潤さん、そしてフリーライターの朴順梨さんといった、「ナショナリズム」をテーマに発言されてきた論客たちは、いま、どのように考えているのでしょうか?
※ 今回の「ナショナリズムの現在」トークイベントの全編は、PLANETSチャンネルのアーカイブ動画でご覧になることができます。
 
【動画前編】
【動画中編】
【動画後編】
(後編のページに行くとMP3音源をダウンロードすることができます。移動中に議論の内容を聞きたい方はぜひご利用ください!)

PLANETSトークイベント「ナショナリズムの現在」は2/8(土)に、田町駅近くのイベントスペース「SHIBAURA HOUSE」で行なわれました。

この日は、都内では今年最初の大雪だったため、「お客さんが全然来なかったらどうしよう…!?」と編集部は心配していたのですが、蓋を開けてみれば50人以上の方にご来場いただくことができました。(当日ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました!)

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トークイベントは宇野常寛の問題提起でスタート。

「今までリベラル系の論壇は、ネット右翼というものを『あれは一部のかわいそうな男の子が、自分を肯定するために排外主義的な言葉を言っているだけだよね』と過小評価していた。でも、今やネット右翼と言われる人たちが、安倍自民党のマーケティングの対象になるぐらいの規模で社会に存在していて、新大久保のヘイトスピーチデモなども問題になっている。彼らをバカにするだけで、その背景にある社会不安を具体的にケアしようとしなかったリベラル系知識人たちが、そのツケを払っている状況にあると思います。〈ネトウヨ〉化する一方の今の日本について、みなさんはどう考えているんですか?」

歴史学者の與那覇潤さんは、これに対して、「90年代末の、小林よしのりさんを筆頭とした歴史教科書論争の当時は、『あの戦争をどう語るのか』という歴史観・物語論争になっていたけれど、今のネトウヨは歴史観すらなく、ただ感情的に韓国人・中国人への罵詈雑言だけになっていますよね」と指摘。

一方で哲学者の萱野稔人さんは、「いまのネット右翼にはすごくまっとうなところがあると思うんです」と言います。曰く、「雇用でも福祉でもパイが縮小しているなかで、たとえば『なぜ在日韓国人・中国人が生活保護を不正受給していて許されるのか』という疑問が出てくるのは、経済が拡大しない社会で当然出てくる不満です。ここを見逃してしまうとナショナリズム批判ってほとんど有効性を持たないものになってしまう」。

漫画家の小林よしのりさんは、「わしが歴史教科書論争をやっていたころは、まだ中国や韓国の反日教育が日本で一般に知られていなかったから、それを伝えることには意味があった。でも今は一般の主婦でも中韓の反日教育のことを知っている。そうなったとき、今は歴史観論争ではなく、『中国や韓国が嫌いだ』という単なる排外主義としてのナショナリズムが一般的になってしまった」と述べます。

また、フリーライターで『韓国のホンネ』『奥さまは愛国』などの著書がある朴順梨さんは、取材のなかで、「承認に飢えた人たちばかりが愛国に走っているわけではない」という事実に行き当たったといいます。「女性にターゲットを絞って話を聞いたんですが、ほとんどの方が結婚されているかパートナーがいましたし、実際に中国での仕事の経験があった上で、草の根のナショナリズムにコミットしている人もいました」。