【ほぼ惑ベストセレクション2014:第8位】
都市生活とスポーツの融合が生み出す
”新たなライフスタイル”とは!?
――「アメリカ生まれのスポーツショップ」
オッシュマンズを取材してみた
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2014.12.28 号外

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2014年2月より約1年にわたってお送りしてきたメルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」。この年末は、200本以上の記事の中から編集長・宇野常寛が選んだ記事10本を、5日間に分けてカウントダウン形式で再配信していきます。第8位は、「アメリカ生まれのスポーツショップ」オッシュマンズへの取材記事です!(2014年10月28日配信)

これまでのベストセレクションはコチラ!
 
▼編集長・宇野常寛のコメント
僕はネット以外で買い物をするときは新宿に行くことが多い人間です。で、たとえば新宿伊勢丹のメンズ館が前提としている「都市の大人の男のライフスタイル」より、東南口のオッシュマンズが提示している都市生活の方が圧倒的に気持ちよく格好いいものに見える。そういう感覚を言語化しようということを最近ずっと考えていて、「だったらとりあえず取材してみよう」と思って行ってきたのがこの記事です。
取材に行ってみてわかったのは、予想以上に売り場の人たちにも僕と同じような風景が見えているということ。いま日本の都市部に立ち上がっている、エクササイズやスポーツを取り込んだホワイトカラーのライフスタイルって、グローバルなクリエイティブ・クラスのライフスタイルと似ているようでどこか違っていて、日本の、東京の独特の文脈を帯びている。そういう「ポスト戦後」の日本のホワイトカラーのライフスタイルに、言葉によって輪郭を与えていく仕事を、来年は追求したいと思っています。

1985年に日本に登場して以来、都市生活者のスポーツライフを支えてきた「オッシュマンズ」。以後30年に渡り、ランニングやヨガ、サーフィン、トレッキングなど、あらゆるスポーツブームのニーズに応えてきたセレクトショップです。85年の原宿店を皮切りに、町田、新宿、吉祥寺、千葉、池袋、二子玉川、そして最近ではアウトレットの軽井沢と、少しずつ店舗を拡大しています。
 
今回、宇野常寛とPLANETS編集部はこのオッシュマンズ発祥の地である原宿店を訪問。同店の魅力と歴史に加え、スポーツを取り込んだこれからのライフスタイルについて、株式会社オッシュマンズ・ジャパン営業計画・販売促進担当マネージャーの角田浩紀さんにお話を伺ってきました。
 
◎聞き手・構成:小野田弥恵、中野慧
 
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▲オッシュマンズ原宿店
 
 
■西海岸とNYのライフスタイルが合流して生まれた、東京独特のアウトドアウェア文化
 
――原宿にたくさんある他のお店と比べると、オッシュマンズさんの立ち位置って独特だと思うんです。ファッションとして考えると、例えば原宿界隈にあるセレクトショップやデザイナーズブランドとは明らかに系統が違う。かといって、たとえばB&Dなどのような、機能性を重視したスポーツ店というわけでもない。そこで、まずはお店づくりのコンセプトについてお伺いしたいのですが。
 
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▲オッシュマンズ・ジャパン営業計画・販売促進担当マネージャーの角田浩紀さん
 
角田 オッシュマンズは元々、1932年にアメリカ・テキサス州のヒューストンで生活雑貨店としてスタートしました。その後、経済成長とともに人々の間に芽生えた「スポーツを取り入れた快適なライフスタイル」へのニーズに応える形で、スポーツショップへと進化していきます。
 
オッシュマンズが日本に進出したのは1985年で、株式会社イトーヨーカドー(現:セブン&アイホールディングス)と業務提携した当初から「アメリカ生まれのスポーツショップ」というコンセプトが前提としてありました。ここでいうスポーツというのは、ランニングやサーフィン、トレーニング・フィットネスなどの生活に組み込めるスポーツのことですね。

日本では90年代にアメカジブームが起きたこともあり、“アメリカのショップにありそうなもの”というのは重要な基準だったんです。2000年代半ばからは視野を広げて、カナダやヨーロッパのメーカーも幅広く扱うようになり、アメリカだけにこだわらなくなりました。しかし今でも、アメリカのカルチャーを発信するという部分は根強く残っていますね。

――ここでいう“アメリカのカルチャー”って、具体的にはどういうものなんですか? 発祥の地のヒューストンがあるアメリカ南部の文化ともだいぶ違うように思うのですが。かといって、サンフランシスコやポートランドのような西海岸の文化とも少し違うような気がします。

角田 意識しているのは、アメリカの「西と東の文化」ですね。西はワシントン州からカリフォルニアまでのいわゆる“西海岸沿い”、東はニューヨーク。特にニューヨークは東京と似ているんです。オフィス街があって生活意識が高い人たちが住んでいて、公園はランナーで溢れかえっていて、ヨガをやっている人もすごく多い。西海岸では上半身裸でランニングをしている人も多いので、ランナーのスタイルもニューヨークのほうが日本にはなじみ深い。この、都市とスポーツが融合したニューヨークのライフスタイルと、いわゆるアメリカを象徴するような西海岸のサーフィン文化やアウトドア文化、大きく分けてこの二つのカルチャーを取り込んでいます。
 
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▲店内にはアウトドアグッズがいっぱい。
 
――なるほど。つまりここ東京で、アメリカの西と東、両方の文化とスタイルを融合させた、独特な流れが作られてきているということなんでしょうか?

角田 バイヤーも、東海岸に買い付けにいくときはニューヨーク経由で行くことが多いので、ニューヨークのランナーが集まる公園だったり、付近のランニングショップの様子はチェックしています。ニューヨークはランニングの文化が非常に盛んですから、定点観測の場所として非常に重要ですね。

ちなみに当店では最近、ナイトラン向けのマナーグッズを展開しているんです。なぜかというと、東京のランナーは社会人の方が多いので、夜遅くに走る人が多いからです。そのため、安全面やドライバーへの配慮として、反射板や光るものをつけるのもひとつのマナーなんじゃないか、という提案ですね。例えばこの「POWER Stepz」はシューズの紐部分に装着すると、ランニング中に足が地面に着地するたび、光るようになっているんですよ。こういった商品をアメリカから直輸入しているんです。
 
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▲「ナイトラン」向けのグッズコーナー。
 
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▲「POWER Stepz」。叩いて衝撃を与える(=ランニング中に靴が地面に着地する)とそのたびごとに光ります。
 
――シューズと合わせて紹介することで、マナーを啓蒙していくんですね。

角田 ヨガコーナーでも、ウエアやグッズを販売するだけでなく、ヨガがどのようなものなのかを知って頂くために、開店前に先生を呼んで朝ヨガ教室を行うなどしています。また、「いつでも・どこでも・だれでも」をキーワードに無料のヨガアプリも作成して、気軽にヨガが行える環境も提供しています。今後はヨガグッズから派生する、オーガニック食品やスムージーを作るミキサー、アロマなど、ヨガから広がる生活様式の提案も視野に入れていますね。
 
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▲「朝ヨガ」の様子
 
――ヨガを取り入れたライフスタイルの提案、ということですね。

角田 そうですね。“スポーツショップで展開している”という説得力を活かせればいいなと。例えばこの「Backjoy」という腰カバーも非常によく売れているんですよ。オフィスなどで椅子とおしりの間に敷くことで、骨盤と背骨が自然な状態で座れるようにしてくれるんです。
 
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 ▲「Backjoy」
 
―― 一見スポーツと関係なさそうですが、確かに“スポーツショップに置いてある腰カバー”ってすごく効き目がありそうな感じがします。先ほどもお話されていますが、確かにいずれも生活のなかに取り込まれたスポーツや、その延長線上にあるライフスタイルを提案しているという印象を受けました。 
 
 
■ヨガブーム、ランニングブームはどのようにして起こっていったのか
 
――長年このお仕事をされている角田さんからは、これらのライフスタイル型のスポーツのブームやトレンドがどう移り変わってきたように見えているんでしょうか?

角田 一号店である原宿店がオープンした1980年代中頃は、ちょうどアメリカで起きたフィットネスブームが日本にも到来していたころでした。当時はエアロビクスと呼ばれていて、原宿にはスタジオや専門店がたくさんあったんです。このころ、爆発的に売れたのがReebokのフィットネスシューズ「フリースタイル」ですね。もともとエアロビをする人たちから支持されて、ファッションとしても人気に火がついた。で、90年代になるとサーフィンブームが到来する。男性はショートのサーフボード、女性はボディーボードで海に入るようになった。このころは「QUIKSILVER」というサーフブランドから登場した女性向けの「ROXY」が大人気でした。茶髪のロングヘアをくくって、シープスキンのブーツを合わせるのが流行っていましたね。

ヨガブームが始まったのは2000年代前半ですね。フィットネスブームのときの「体づくり」の延長として始めた人が多かったんじゃないでしょうか。一時は爆発的ブームになって、ナイキのヨガマットが飛ぶように売れた時期が2000年代半ばです。それまではヨガをやるスタジオもそれほど多くなかったですし、ウェアやマットがどこでも売っているわけではなかったので、すごく売れましたね。今はネット通販はもとより、ファストファッションのお店や、ホームセンターでもヨガグッズが売っていますので、ブームというよりは完全に定着していますね。

さきほどお話しした「朝ヨガ」は、「やってみたいけどどこでやればいいかわからない」という人への入り口としてやっている部分があります。やっぱりヨガスタジオやスポーツクラブのヨガ教室にいきなり行くのは、初めての人にはハードルが高かったりしますからね。

――そうなんですね。ランニングブームに関してはどのように見ていらっしゃいますか?

角田 ランニングブームが始まったのは、ヨガブームよりも少しあとの2004、5年ぐらいでしょうか。最初にバイヤーが、東海岸で「ランスカートというものがある」という情報を持ってきたんですが、最初は「さすがにこれはちょっとないかなぁ」と我々も思っていたんです。でも、いまはランスカートもすっかり市民権を得ていて、ランニングでオシャレも楽しむというスタイルが定着していますよね。

そういった流れが大きくなってきたタイミングで東京マラソンも始まったりして、ランニングを生活のなかに取り入れている人がすごく多くなっていますね。

――ランニングブームはなぜこんなにも定着したんでしょうか?

角田 やっぱり健康意識が高まってきたからでしょうね。それと、これはまったく個人的な意見なんですが、消費の仕方そのものが変わってきているように思います。「モノを買ってそれを所有して満足する」というよりも、生活の中身のクオリティに対する意識が強くなってきているように感じていて、その表れのひとつとしてランニング文化の定着があるのかなと思います。
 
 
■アウトドアウェアをファッションとして着る文化は日本特有のものだった!? 
 
――アウトドアのブームに関してはいかがでしょうか。

角田 アウトドアブームが起きたのは2006、7年ごろからでしょうか。もちろん80年代後半から90年代ごろにもブームになっていて、L.L.Beanなどが流行りましたが、当時は実際にそれを着て登山に行く人はそこまで多くなかったんじゃないでしょうか。

本格的にブームになってきたのは、男性向けアウトドアファッション誌の「GO OUT」(2007年創刊、三栄書房)が創刊されたころでしょうね。その頃から「アウトドアウエアを街でも着る」というのが流行り始めた。
 
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▲「GO OUT」創刊第2号(2008年3月28日発売、三栄書房)

この時期が面白かったのは、アウトドアウエアのトレンドを受けて、実際に登山に行く人が増えたことですね。それまで中高年の聖地だった高尾山が、カラフルなウエアを着たいわゆる「山ガール」でいっぱいになった。

そうそう、「山ガール」文化に関しては女性向けアウトドア誌の「ランドネ」(エイ出版社)の影響も大きかったと思います。