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第23号 2013.1.29発行


「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、AKB48ブームから現代社会を掘り下げる(本当は新参ヲタの応援記!?)「今週のAKB48」、よしりんの愛用品を紹介していく「今週の一品」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」、『おぼっちゃまくん』があなたの人生相談に真剣回答!「おぼっちゃまくん人生相談~言われたとおりに生きるぶぁい~」、読者との「Q&Aコーナー」、秘書によるよしりん観察記「今週のよしりん」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)



【今週のお知らせ】

※「待機児童」ならぬ「待機老人」まで!日本の高齢化はここまで深刻化していた!!今週の「ゴー宣」は安倍政権が検討している税制改正が果たして現実的か否か、徹底分析します!
※「今週のAKB48」は、DDよしりんが目撃したメンバーの素顔を、独自の観察眼で描く群像劇!ブログでは書けなかった、あんなことやこんなことまで!?
※先週に引き続き、さらに多数の質問が寄せられた「Q&Aコーナー」。皇統問題において信頼できる政治家はいるのか?リベラルって何?子供がいたら創作活動は変わっていた?公明党の存在理由とは?北野映画はどう思う?一度恋仲になった男女の友情は成立する?アベノミクスの円安誘導政策はうまくいく?バブル時代が忘れられない!物欲を少なくして生活するには?…等々、よしりんの答えやいかに!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第26回「老人は孫にカネを贈与するか?」
2. 今週のAKB48・第22回「群像劇としてのDD」
3. よしりん企画、その風景・第6回「よしりん先生の傾斜作画台」
4. おぼっちゃまくん人生相談~言われたとおりに生きるぶぁい~・第115悶~第118悶
5. よしりん漫画宝庫・第23回「『救世主(メシヤ)ラッキョウ』①ギャグ漫画で新宗教誕生!!」
6. Q&Aコーナー
7. 今週のよしりん・第23回「『小林よしのり』はツライよ」
8. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
9. 読者から寄せられた感想・ご要望など
10. 編集後記



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第26回「老人は孫にカネを贈与するか?」

 安倍政権は、とにかく国民が貯め込んだ内部留保を吐き出させて、カネを使うように仕向けて景気を活性化させようと目論んでいる。これ自体は悪いことではないのだが、手法は現実的だろうか?

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 企業に対しては、社員の給与を増やしたら、その人件費の増額分に応じて法人税を減税するというのだが、すでに一流企業は法人税なんか大して払っていない。
 日本の法人税率は高いと言われ続けているが、グローバル展開している巨大企業にはいくつもの抜け道や優遇措置があり、驚くほど安いレベルの税金しか払っていない。

 高い法人税を払わされているのは、国内に留まっている中小企業だけである。
そもそも利益が上がらなければ給料を増やせるわけがなく、グローバル化で苦境に立たされている中小企業が、法人税をまけてもらえるからって給料を増やすなんてことがあるわけがない。どこの企業を対象にした政策なのだか、全然わからないのである。


 もっと理解できないのは、家庭内に貯め込まれているお金を引き出させようという税制改正だ。
 1500兆円とも言われる預貯金や株式などの金融資産のうち、6割近くを高齢者層が握っているという。このお金を吐き出させて孫に使わせようということで、金融機関に子や孫の口座を開設し、教育資金をまとめて預けると孫一人当たり1500万円まで、贈与税を非課税にするという。

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 こんな話は、100%バカだと思ってしまう。
 こんなことを考える奴は、とことん人間というものが分かっていないのだろう。
 孫に教育資金として1500万円もポンとやれる人間って、一体貯金をいくら持っているのか? 最低でも1億円は持っていないと、とてもじゃないが1500万円も孫にやれないはずだ。

 ただお金を渡して、自分の手持ちのお金がなくなってしまったら、誰が自分の老後の面倒を見てくれるんだ? 
 悲しい現実だが、現実から目を背けて政治を語るわけにはいかない。祖父母から見れば、たとえ家族だろうと、金を持っているからこそ面倒を見てくれるのである。寝たきりになった時に、金も持っていない自分の面倒を、家族が見てくれるわけがない!
 人生の最後は、金しか頼りになるものがない、家族にだって、お金がなくなれば見捨てられる、そう考えるのが老人の心理というものだ。歳をとればとるほど、その思いは強くなる。

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 結構貯金を持っている老人でも、せいぜい額は2000万、3000万程度だろうし、そこから孫の教育費に渡そうとしたら、100万円くらいが限度だろう。
 ところが現行制度でも、祖父母が必要に応じて子や孫をその都度援助する生活費や教育費には、贈与税はかからない。入学金や授業料だけでなく、塾や通学費、下宿先の家賃や生活費など、非課税枠は幅広く、額に上限もない。しかもその他、1年に110万円までは使途に限らず非課税で贈与できることになっている。

 もうすでにこれだけ非課税で渡せるのに、なおそれ以上、孫にお金をバカスカ渡したいという老人が日本にどれほどいるというのだろうか? 何の意味がある税制改正なのか、まったくわけがわからない。


 孫のために蓄えを吐き出せる老人なんて、本当に限られた富裕層だけだ。大部分の老人にとっては、安心して老後を送り、最期を迎えられるか否かはお金を持っているかどうかにかかっている。
 1月20日に放送されたNHKスペシャル「終(つい)の住処(すみか)はどこに 老人漂流社会」は、衝撃的な内容だった。
 今や、人生の終幕にさしかかりながら、居場所がなく漂流する老人が膨大に存在するという、大変な事態が起きているのだ。

 わが国はかつてないスピードで高齢化し、昨年65歳以上の高齢者の数は3000万人を突破した。
 そんな中で、国は「自宅での介護」を基本とする方針を進め、これまで高齢者の受け皿となってきた病院の介護ベッドを減らし続けており、5年後にはゼロにする計画である。
 しかし、自宅で最期を迎えられる人は多くはない。介護を必要とする状態になった時に、それを引き受けてくれる家族がいるとは限らないのだ。その場合は介護付きの施設に入るしかないわけだが、現在はその施設の数が圧倒的に不足している。


 
番組では、一人では歩行も食事も排泄も出来ない88歳の老人が、長期滞在の可能な施設に入れず、自治体の手配で、最長1ヶ月しか滞在できない「ショートステイ」の施設を転々と移動することを余儀なくされる様子を追っていた。
 その老人は、真面目に80歳近くまで働いて、つつましやかに暮らしてきた人だった。しかし長年連れ添った妻に先立たれ、子供もいない。住み慣れた公営住宅で6年間一人暮らししていたが、熱中症で倒れて入院して以来、介護が必要な状態となり、蓄えも底を尽いた。頼りは月6万数千円の年金のみ。
 収入に応じて安い料金で入れ、年金でもやっていける特別養護老人ホームの数は全く足りず、全国で42万人が空きを待っている。入れるまでは、3年待ちだという。

 民間の長期滞在施設は、食事つきで滞在費用が1カ月14万円。年金だけではとても払えない。
 結局老人は、不足分を生活保護で補い、民間の施設に入ることになった。しかし生活保護を受給するためには、自宅を引き払わなければならない。ごくわずかな身の回りの品しか持っていけないので、長年の思い出の品なども全て処分され、ほとんど身ひとつ。何もないガランとした施設の部屋がこの老人の「終の住処」となる…。


 このように、一人暮らしで年金受給額が年100万円に満たない老人が、現在41.8%にも上るという(厚生労働省「年金制度基本調査」)。お金がないから家族に見捨てられたのかどうかまでは判断のしようがないが、実際に独居老人の貧困率は非常に高いのである。
 年100万円だと、月換算で8万3千円。足りない分は、生活保護に頼るしかない。しかしこの調子で家族の支えがない高齢者がさらに増えていけば、これまでの生活保護制度では対応できなくなるのは時間の問題だ。

 国はいま急ピッチで受け皿作りを進めており、サービス付きの高齢者専用賃貸住宅向け住宅を2020年までに60万戸作る計画で、これまで9万戸が完成している。家賃は月額10万円から50万円まで、サービスや場所によって様々。
 介護スタッフが常駐し、介護保険を使ったサービスも受けられる。ただし医療施設ではなく、医療スタッフがいないため、認知症などが進んだり、病気で倒れたりしたら出ていかなければならないという。